【読書感想】脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか

読書スピードが遅いので最後まで読み切る本はそんなに多くない中で、久々に最後まで読んだ本があったので感想を残します。

読んだ本は、池谷裕二さんと紺野 大地さん共著の「脳と人工知能をつないだら、人間の能力はどこまで拡張できるのか」という本。

元々脳には少し興味があり、過去に池谷裕二さんの本は何冊か読んだことがありました。そんな中で、たまたま本書のことを知り購入しました。

本の要約や目次などは他に譲るとして、ここでは僕が面白いと思ったことをつらつらと書いていきます。

人工知能はここまで進化しているのか!言語モデルGPT-3

脳と人工知能を繋ぐにあたり、現在の人工知能がどこまでできるようになっているのかも本書で書かれており、その中で紹介されていたGPT-3という言語モデルが興味深かったです。

自然言語、つまり僕たちが使う言葉の内容を理解し、その指示に沿ったアウトプットを出してくれるのですが、GPT-3に対してタイトルと文字数だけを指示してGPT-3が書いたニュース記事がそのサイトのランキングで一位になり、それが完全にAIだと見抜いた人はほとんどいなかったようです。

他にも、GPT-3に「インスタグラムのようなアプリを作って」と指示すると、まるでインスタグラムのような見た目と機能を持ったアプリを作るためのプログラムコードを自動生成してくれたり、「ネコとイヌの画像を分類するような人工知能を作って」のような指示に対して実際に人工知能のプログラムコードを作れるようです。さらには、GPT-3を拡張したDALL・Eでは、言語による指示をもとに絵を描くことができます。しかも、「チュチュを着た大根の赤ちゃんが犬の散歩をしているイラスト」(an illustration of a baby daikon radish in a tutu walking a dog)という一見意味が分からないような指示でさえ応えてくれるようで、そこには創造性すら感じさせます。実際にDALL・Eが描いた絵はOpenAIのブログ記事でご覧になれます。

この技術を使えば、例えば「自社の歴史について1000文字で書いて」などと指示すれば、GPT-3が社史の記事を書いてくれて自分たちはそのチェックと微修正だけすれば良くて楽ができそうです。

「意味」とは何か

そんな賢いGPT-3ですが、膨大なデータをもとに「この単語の次はこの単語がくる確率が高い」と機械的に予測しているだけなので、文章の「意味」を理解している訳ではないようです。例えば、「太陽には鼻がいくつある?」と無意味な質問すると、「太陽には鼻がひとつあります」という意味不明な返答が返ってくるようです。そこで、では「意味とはなんだろう」という疑問が浮かびます。本書の中で紹介されているのは「意味の理解とは、世界と言語との対応表を学習することである」という大阪大学の北澤茂教授の考え方で、この考え方によれば、人工知能が人間が解釈する「意味」を理解するには、人間と同じような五感や身体を持った人工知能を創り出すことがブレークスルーとなりうるようです。このように、人工知能の研究によって「意味とは何か」のような哲学的な問いに対する理解が深まるのも面白い点だと思いました。

脳の構造を完全にシミュレートできれば人工知能に意識が芽生える?

「意味とは何か」と同様に面白いなと思った問いが「意識とは何か」です。本書の中では統合情報理論という考えが紹介されており、その考えによると、「対象物が『豊富な情報』を有しており、かつそれらが『統合』されているとき、その対象物は意識を持つ」と定義するようです。詳細は省きますが、本書を引用すると「肝臓やデジタルカメラは肝小葉やフォトダイオードという独立した構成要素が複数集まっているだけなので、情報を「統合」できずΦの値は小さくなり、意識を宿すことはないという結論が導かれます。一方で、脳はそれぞれの神経細胞が様々な神経細胞から独立することなく、縦横無尽に結合しています。この非対称で複雑な神経細胞のネットワークにより、脳は十分に豊富な情報を「統合」することができるようになります。その結果、Φの値も大きくなり、脳には意識が宿るという結論が導かれます」と書いてあります。このようにして「意識」についてアプローチできるというのがとても面白いと思いました。さらに、この理論によると脳の中でも小脳は「統合」されておらず意識は芽生えないとされており、実際、小脳無形成症の人でも一部の運動関連を除いて普通に生活できるようで、正しそうです。

このように考えると、もし脳の構造を完璧にコンピューター上で構築できれば、コンピューターにも意識が宿るように思えます。しかし、実際はそうはならないと考えられているようです。なぜなら本書を引用すると、「2021年現在において、人工知能はあくまでもコンピューター上のプログラムに過ぎず、コンピューターは最終的にトランジスタやダイオードという独立した構成要素に分解されます。「トランジスタやダイオードという独立した構成要素が複数集まっている」というこの状況は、先ほど見た肝臓やデジタルカメラと本質的に変わりません。そのため、トノーニ先生は「現状の人工知能に意識が宿ることはない」と考えているようです」とのことでした。

しかし、このようにして「意識」についてアプローチできるのは、とても面白いと思いました。

脳×人工知能で通常は認識できないものを認識できる!?

ここまでは脳についての理解と、人工知能の発展について面白いと思った点を紹介しましたが、本書のメインは「脳と人工知能を掛け合わせてどんなことができるか」です。

面白いアイデアがたくさんあり是非とも本書を読んでほしいでのすが、その中でも僕が面白いと感じたのは、磁場や赤外線など人間が本来認識できない環境情報を、脳にチップを埋め込むことで認識できるようにする実験です。「脳チップ移植」と呼ばれるアプローチです。

本書の中では、研究成果としてネズミが東の方角を認識できるようになった事例が紹介されていました。もし人間が磁場を認識できるようになれば、方向音痴も改善するかもしれませんね。

おわりに

僕の脳が疲れてきたので、この辺りで終了としますが、本書には、他にも面白い話がたくさんありました。「人工知能がノーベル賞をとる日が来るかもしれない」「お腹が空いたら満腹中枢を刺激して大好きなものをたくさん食べた時と同じ幸せを何も食べずに得られてダイエットも楽勝」などのワクワクする未来の話もあれば、「人工知能が解明した事象を人間が理解できないブラックボックス問題」「脳内の秘密情報を奪われてしまうプライバシー問題」「電極を脳に埋め込む際の物理的問題」などの課題の話も豊富に紹介されています。

また、人工知能が文章や絵画を書き、いずれは人工知能が書いた文章を読み、人工知能が書いた絵を美術館で鑑賞する日が来るかもしれません。しかし、人間は単にアウトプットされたものを楽しむだけではなく、「誰がどんな人生を経てこれを作ったのか」というストーリーやコンテクストも楽しむよねというようなことも書いてあり、そこはまさしくそうだなと思いました。つまり今後1つのキーワードになってくるのが、「何を作るのか」ではなく「誰がどのように作るのか」というストーリーへの共感があるのではないかな、と思いました。

次に読む本は、先に紹介した「意識」について書かれている「意識はいつ生まれるのか――脳の謎に挑む統合情報理論」にしようと思います。

それでは。

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