『総裁日記』企画協力の秘話ってほどじゃないけれど(2)

(第1回はこちら→ https://note.com/nichiyodana/n/n789fe7315cae

僕が『ルワンダ中央銀行総裁日記』(以後『総裁日記』 *注釈1)を知ったのは、1992年です。それ以来、好きな1冊として本棚に置いてありました。
ただ、僕はこの本について何度も失敗をしました。 少なくとも、四つの失敗があったと思っています。

一つ目の失敗は、買ったばかりの1992年です。
これほど『総裁日記』を気に入ったにも関わらず、僕は読んだだけで終わりにしてしまいました。本の感想を編集部へ送ったりもしませんでした。

二つ目の失敗は、1994年です。この年、ジェノサイドと呼ばれるほどの事件がルワンダで起きます。僕は非常にショックを受け、服部さんが、この事態をどう捉えているか気がかりになりました。 ただ、忙しさにかまけてしまい、熱心に情報をチェックしませんでした。
そのため、ルワンダは気になるけれど直接に関わりがない国のまま、時間がすぎてゆきます。
このときせめて、感想くらいは書いて送ればよかったと、今でも思います。

三つ目の失敗に気づいたのは、2001年ごろです。
ふと思い立ち、ほぼ10年ぶりに『総裁日記』を通して読み返しました。そして、かつての自分が、いかに多くの記述を見落としていたか気づいて愕然としました。

服部さんが、ときにユーモラスに書いている仕事ぶりや事件の中には、メッセージが込められています。
一例をあげれば、「あとに続いてくれる人がいる大切さ」です。服部さんが旺盛に働いたのは、ルワンダが自力で中央銀行を運営できる組織を作り、後任に託して早く帰国するためでした。
その意味では、服部さんが不要となったとき、 初めて仕事が成功をしたとも言えるわけです。「その人が長く続けない方が良い仕事もある」ともいえるでしょう。国際援助だけでなく、緊急性を要する多くの仕事に言えることかもしれません。
かつて読んだときは、そうした部分にほとんど注目しなかったことに気づき、恥ずかしくなりました。
古典とは、読み返すたびに発見があるものだと思います。『総裁日記』は僕にとって古典だという証は得たものの、再読の読後感はきついものでした。

さらにしばらくたち、2005年に状況が変わります。
1994年のルワンダを題材とした『ホテル・ルワンダ』という映画が話題を呼び、2005年に日本公開を求める運動が起きました( *注釈3)。
そのとき僕は、服部さんのことが当然のように気になったのです。しかし、服部さんについて調べたところ、残念な事実がわかりました。
すでに亡くなっていたのです。
『援助する国される国』という遺稿集(*注釈2)の存在を知ったのも、このときです。

そして『総裁日記』は、だいぶ以前から品切になっていました。いくら良い本だと思っていても、いつでも買えるわけではないという事実を痛感しました。
服部さんの消息を調べるのが遅かったことが、四つ目の失敗です。
とはいえ、後悔だけでは何も変わりませんし、そんな態度はそれこそ服部さんに笑われるでしょう。頭を切り替え、自分にできる範囲で何か貢献しようと考えました。
映画『ホテル・ルワンダ』の公開を応援する活動を少し手伝ったのも、その一つです。ここでは多くを書きませんが、もちろん、映画自体が素晴らしかったという理由もあります( *注釈3)。

こういう事情で、『総裁日記』は僕にとって微妙な本になってしまいました。名著だと思う一方、自分のいたらなさを思い出させる本でもあったからです。
ですから、つい最近まで、僕が本好きということは知っていても、この本について話すのを聞いた人は少なかったと思います。
復刊されないのは残念だと思いつつ、積極的に働きかけようとは考えていませんでした。

その姿勢が変わるきっかけは、服部さんの娘さんに会ったことでした。

(まだ終わりませんでした……続きます) 

注釈
1. 出版社公式サイト https://www.chuko.co.jp/shinsho/2009/11/190290.html

2. 『総裁日記』と同じく中央公論新社から出版されています。

3. 『ホテル・ルワンダ』日本公開の応援活動については、活動記録が残っています。 http://blog.livedoor.jp/hotel_rwanda/

ルワンダの歴史については、Gomadintimeさんによる「ルワンダの歴史」が力作。最新記事が上に表示されるので、下からどうぞ。
http://blog.livedoor.jp/hotel_rwanda/archives/cat_10013977.html

4. 『ホテル・ルワンダ』のモデルになったポール・ルセサバギナさんの著書は日本語で読めます。

『ホテル・ルワンダの男』堀川志野舞訳, ヴィレッジブックス, 2009年

この本もおすすめです。ちょうど服部さんが来た独立当時のルワンダについても書かれており、1994年の事件にもつながる複雑な事情が子供時代の回想として描かれています。

また、映画内でニック・ノルティが演じた国連PKO部隊の司令官の著書も翻訳されています。

ロメオ・ダレール『なぜ、世界はルワンダを救えなかったのか―PKO司令官の手記』金田耕一訳, 風行社, 2012年

非常に重い内容で、『総裁日記』の復刊後に読んでショックを受けました。

第3回→ https://note.com/nichiyodana/n/nd07e41de72d8