『総裁日記』企画協力の秘話ってほどじゃないけれど（1）
前書き
これは、2009年にとあるSNSに書いた文章が元になっています。
掲載したあと、10年以上も放置していました。ところが最近、「もしSNSのサービスが終了や変更をして読めなくなったらもったいないんじゃないか？」という思いが浮かんだのです。そこで、noteに転載を決めました。
原文を書いた当時は、「復刊されるから早く書かなきゃ！」と、あわてていたのを覚えています。そしていま、「いつまで閲覧できるか分からないから転載しなきゃ！」と、あわてて書いています。進歩がありません。
とはいえ、これまた別のSNSで、他のユーザーとの楽しいやり取りが消えてしまった経験もあるので、思いついた時にやっておくのもいいんじゃないでしょうか。
なるべく2009年当時のまま掲載したいと思いつつ、あらためて読んでみて何カ所か手を入れました。掲載後も手を入れるかもしれません。気長にお付き合いください。
以下、本文
2009年、服部正也氏の著書『ルワンダ中央銀行総裁日記』（*注釈1）の復刊を手伝いました。企画協力として、僕が所屬する冒険企画局がクレジットされています。
この本の復刊を手伝うことになって喜ばしいのはもちろん、本をめくるうちに、実現した喜びもじわじわとわいてきました。そこで、復刊までの経緯を書いておきます。
今のうちに書かなければ、いつまでもまとめられない気もするので。
この本と出会ったのは、1992年です。吉祥寺の古本屋さんでした。
どのお店だったのか、もうよく覚えていません。南口のどこかだったのは確かです。
見つけた時は、奇妙な書名が気を引きました。「ルワンダ」も「中央銀行」も当時の僕には無縁でした。そのときも、別の新書をさがしていたはずです。
ただ、僕には、ときどき自分とは関係のなさそうな本を買う癖があり、その日も特に理由がないままに手に取りました。
帰ってから読んでみて、すぐに引き込まれました。僕は買った本をその日のうちにざっと読む癖がありますが、この日は他の本をすべて後回しにして読みふけったのを覚えています。
経済にうとい僕にとって、この本の魅力は、何といっても著者の服部さんの体験の面白さでした。
服部さんは1964年の12月30日に国際通貨基金に依頼され、翌年の1月にはアフリカへ飛びます。目的地は、ベルギーから独立したばかりのルワンダ。そこで服部さんは中央銀行の総裁として国づくりに参加し、数々の難問に直面します。
詳しくはぜひ読んで欲しいのですけれど、例をあげると、まず、家がない。
総裁用の公邸が建設中で、仮住まいなのです。
「そこからかい！」と言いたくなりますが、万事この調子です。
そして、中央銀行なのに紙幣が足りない。
帳簿は間違っている。
銀行内部も、人事や昇給をめぐってこじれた対立がある。
ヨーロッパに本社がある商業銀行は非協力的で、閉鎖をほのめかす。
税制は外国人に優遇されている。
財政は赤字で、援助なしではやってゆけないと言う者が多い。
さらに平価の切下げも迫っている。
植民地時代からの悪しき遺産であるルワンダ人への差別も根強い。
家に帰れば、コックや運転手には、どうもサボリ癖がある。
こんな厳しいスタートラインから、一歩一歩前進してゆく様子に、すっかり感心しました。
当時のルワンダに住む外国人は、ルワンダ人に対して偏見が多かったのですが、服部さんは自分の観察を通して、ルワンダ人が実直であると判断し、ときには中央銀行の垣根を越えてルワンダが自立するための各種の改革を実施します。
しかし大変な銀行業務よりも、服部さんが困ったのは家事だったというあたりに人柄が出ていて、そういう部分も含めて楽しく読みました。
強いて自分とのつながりをあげれば、経営シミュレーションゲームでしょう。
僕は仕事上の理由もあって『シムシティ』や『トキオ』などの経営シミュレーションゲームを遊び、本を執筆したり、国ごとのゲームデザインの違いにも興味を持っていました。そういう人間の眼には、まるで超上級者向けのシナリオを解いているようにも見えました。
しかし、それはあくまでゲームの話。何よりも、こういう人物が実際にいたことが大きな驚きだったのです。それ以後、自伝や回想録に興味をひろげるきっかけにもなりました。
それ以来、この本は自分のお気に入りとして本棚に置かれていました。
ただ、仕事には直接関係がなかったこともあり、面白かったというのは覚えていても、本棚から出す機会はほとんどなかったのです。
（案の定、書きはじめたら長くなったので続きます……）
注釈
1. 出版社公式サイト https://www.chuko.co.jp/shinsho/2009/11/190290.html
第2回→ https://note.com/nichiyodana/n/nd9580927518a