見出し画像

雑誌編集者としてできることを

nice things.は自分で生み出した媒体ですが、号を重ねていくうちに、生み出したのではなく、「出会った」という感覚に気づきました。企画を考えているときに、取材に行ったときに、誌面構成を考えているときに、出来上がったばかりの誌面を開いているときに、それに何より読者の声や取材させていただいた方々との関係において、自分の編集者としてこれまで築いてきたものとは違うものを感じるようになりました。

それまでの自分自身の雑誌作りも、多くの雑誌編集者とたいして変わらない考えで作っていたように思います。

より多くの読者が手に取る企画
満足度を高める情報量
旬な人、店、物を取り上げる
影響力のある人を起用する
企画内容がわかるタイトルにする
表紙に多くの企画のタイトルを入れる
目立つ表紙を作る
タイアップ広告を入れるために工夫する
広告クライアントの満足度を高める

多くの編集者がそうであるように、売れる雑誌を作る、たくさんの広告が入る雑誌である、長く編集者をやりながら自然にそんな考えが身に付いていたんだと思います。しかし、nice things.を作る今から8年ほど前あたりから、雑誌の未来について考えるようになりました。雑誌のマーケットは1997年あたりを境に減少傾向が25年近く続いていて、今では約半分の市場規模になりました。書店の数も減り続け、縮小傾向はまだ止まる気配がありません。
そのなかで、多くの出版社は売り上げの縮小に少しでも抗おうとして、出版点数を増やしていきます。一つの雑誌の部数の伸びが期待できないことで、ムックと称する不定期誌をたくさん発行していき、それによってさらに市場は混沌としていきます。
出版社にとって雑誌は、儲かれば続け、儲からなければやめるという位置付けでした。実際に何万人も読者がいるのに、採算が合わないということでなくなった雑誌はたくさんあります。漠然と「雑誌の未来はどうなるんだろう?」、「雑誌は誰のものだろう?」って考えるようになりました。それに、そうした出版社の雑誌への考え方に違和感を覚えるようになりました。
雑誌の市場規模の減少に拍車をかけたのが、インターネットの普及です。情報の量も、情報のスピードも、雑誌を凌駕してしまい、海外の新聞や雑誌はいち早くデジタルに注力していきます。やがて出版業界は出版社も取次(問屋)も本屋も誰も儲からない、といった状況に向かっていきます。雑誌の返本率も上がり、部数も増えないので、ますます広告への依存度を高まります。ところがその広告も近年では前年比10%近くも下がるような事態が何年も続いています。
雑誌のあり方を作り方というところだけでなく、根本から仕組みを変えていかないと今よりもっと廃れていくような危機感がありました。

そんなことを考えながら、勝手に雑誌の未来を背負っている一人になってました。雑誌編集者であり出版人である自分はこれからどのように雑誌を続けていけばいいかを考えるようになりました。

そして、nice things.にたどり着いたのです。その時点では、どのようにすれば雑誌の未来を変えるのかははっきりとはわかりませんでしたが、まず考えたのが下記のことでした。
社会的な意義とミッションを持った雑誌を
広告に頼らない雑誌を
広告主ではなく読者に向いた雑誌を
情報の量に頼らない雑誌を
一過性の消耗品にならない雑誌を

そのすべてを実現するには、従来の雑誌作りのセオリーと真逆のことをやっていく必要がありました。
トレンドを発信するのではなく、本質を求めること。
情報に頼るのではなく、情緒が動くような媒体であること。
流行を追うことなく、時間を経ても廃れない内容であること。
読者と、取材した方々と、雑誌並びに編集者がいい関係を築くこと(この意味はその号さえ作って売れればいいという従来の考えではないということです)。

次に続きます。

nice things.
編集長 谷合 貢

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?