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ホラー秘宝まつり2023 「オペラ座 血の喝采」2023/10/28 サロンシネマ


 昨日、ホラー秘宝まつりの二作品目「オペラ座 血の喝采」をサロンシネマにて鑑賞した。



 ダリオアルジェントの作品は本年度「ダークグラス」が公開されたこともあり、サロンシネマではサスペリアやサスペリアPART2をリバイバル上映してくれたため、劇場で見ることができた。


 本作はOPから特徴的な描写で目を惹きつけられた。まず、もの凄い寄りで撮影した“カラスの目“。カラスは古来より死、荒廃そして裁きの象徴として西洋文化では捉えられております。
 この“裁き“というイメージが物語の最後に重要な意味を持ってきます。

 あらすじは主演のクリスティーナ・マリスラッチがピンチヒッターとして、ヴェルディのオペラ「マクベス」にてマクベス夫人を演じることを皮切りに、事件が起きていくという流れ。

ジュゼッペ・ヴェルディ(1813ー1901)


 愛し合っていた彼氏、衣装担当の女性、クリスティーナのエージェントまでが何者かによって殺害される。この事件で一貫して奇妙な点は必ず殺人犯は、彼女は殺さずに縛りつけ、殺人の流れを目を背けさせることなく見せていたという点である。
 このことについては、上映後に行われたダリオアルジェント研究会の矢澤さんによる解説で理解することができた。



 殺人犯から逃げる際に自らの心音に合わせて画面が揺れる演出は私も世界観に引き込まれて脈拍が速くなった。

 話が逸れるが、個人的に主演のクリスティーナが角度によってジョディフォスターに見える瞬間が多々あった。髪型とジャケットが「羊たちの沈黙」の際のジョディに酷似していたからである。

「羊たちの沈黙」(1991)


 Tシャツにチノパンにテニスシューズだけで絵になる様は流石女優と思った。




 ここからは矢澤さんによるアフタートークでご教授いただいた点について解説していきます。




 まず、ダリオが本作を撮影する経緯について。元々この作品を撮影する前にダリオは「リゴレット」の演出について依頼されていたらしい。しかし、彼のやり方が従来のものとはあまりにもかけ離れていたため降板に。その悔しさをバネに本作をとる腹づもりを決めたらしい。

 作品の中に登場するオペラの演出監督に自己を投影したりなどセルフパロディしている場面も多く見受けられる。ラストの蝿を撮影しているシーンなどは前作の「フェノミナ」の引用である。


 矢澤さんは本作を彼の“最後の輝き“と称していた。そのわけは、彼の父親が本作を撮影している最中に亡くなったからである。この作品をとっている頃は既にサスペリアなどで世間的にも巨匠として崇められている真っ只中。彼の撮影についてなかなか口出しをできる人間は多くなかった。しかし、唯一父親のサルバトーレ・アルジェントはアドバイスや忠告などをしてくれていたので、軌道修正やより良い作品作りに邁進することができていた。この作品が彼の映画人生のターニングポイントになったことがよくわかった。


 この作品はダリオの数多くある作品群の中でも随一の予算がかかったものらしい。このことについては筆者も、始まってすぐ感じた。
 まず、贅沢に使われるオペラ座である。この会場を貸し切ってエキストラを集めるだけでも多額な費用がかかったのが見てわかる。

 そして、ラストのカラスの目線で撮影する技法。回転する機械を使い大胆に撮影したらしく金がかかるのは当然である。

 ダニアニコルディを覗き窓越しに拳銃で撃ち抜くショット。ここで1〜2秒ほど覗き窓を拡大したシーンが映し出されるが、これは実際に大きな模型を使ってセットを作っているらしい。やはり天才。金の使いどころをわかっている。
 個人的にこのシーンはSAWなどのちのグロ映画に影響を大いに与えていると思う。

 ダリオアルジェントは“目“への執着、恐怖を人一倍持っていたらしい。人間の体の中で最も繊細で、唯一触るだけで怪我をするという点で目をつけていたそうだ。事実、彼の作品には多く盲人が出てくる。


 矢澤さんの解説の中でも私が最も唸らされたのは“殺人犯の動機“についてである。
(以下、ネタバレあり)

 殺人犯である刑事ウルバノ・バルベリーニは必ず人殺しを行う際、クリスティーナの目に針が数本ついたテープを貼り付け、殺人から目を背けさせないようにする。
 何の意味があってこんなことをするのだろうと終わってからもわからなかったが、矢澤さんのわかりやすい解説で理解できた。


 まず、本作は「マクベス」との二重構造でできている。マクベスの中では夫のマクベス以上に野心を持った夫人が描かれています。そして、その夫人をオペラでクリスティーナが演じることで観客に夫人とクリスティーナを被せて認識させます。クリスティーナの母親も実はオペラ歌手を過去にしており、母親もマクベス夫人と被ります。
 母親はサディストであり、人を殺すことで快感を得るという性癖を持っていました。その時に付き合っていたのが殺人犯のウルバノであり、ウルバノは娘のクリスティーナも母親と同じ性癖を持っているだろうと決めつけ、彼女に殺人を見せつけます。要するに彼の行動は彼女を喜ばせようと善意で行っていたのです。
 この解説を聞いた際背筋がゾッとしました。人間が善意で行ったことが気づけば犯罪になっている例は、実社会でも普通に起きうることだからです。

 だからこそ、彼女は母親と私は違うとラストシーンで何度も繰り返し叫んでいました。草むらで木々にひっかかかり動けなくなっているトカゲを解放する描写は私はサディストではない、縛りつけられたトカゲ(人)を解放するんだという強い決意を感じました。


 本筋とは関係ないですが、撮影監督のロニーテーラーというアカデミー賞をとった巨匠に矢澤さんがインタビューを行った際にダリオのことばかり聞いて怒られたという逸話は笑ってしまいました(笑)
 しかし、人生には無駄なことはないようで、このことをきっかけに取材をする際は必ず予め相手について調べ上げ、メモをとっていく習慣ができたそうで、流石は本職は大学教授であると唸らされました。


 ダリオアルジェント主演のヴォルテックスという映画も来年公開されるのでまた見に行った際、レビューさせていただきます。

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