福永成明

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スポーツウエアの歴史

 ファッションにとってスポーツウエアは、欠かせない存在になっている。なかでもカジュアルウェアのスポーツインフルエンスは、年追うごとに比重を増している。そのルーツを探っていくと、ボタンダウンシャツは19世紀に英国のポロ競技で着用されたシャツの衿型を大衆化させたものだし、ポロシャツもテニスウエアが発祥といわれ、スニーカーに至ってはどれもが運動靴を起源としている。最近は、アスレジャーのようにスポーツジムだけでなく、そのままおしゃれ着として着用する例もある。  しかし、そんなスポーツ

    • 注目されるファッションのリセールとリペア

      古着市場が熱い  かつて日本で古着といえば「質流れ品」に代表されるように、ネガティブなイメージがついて回った。古着に価値を見いだせたのは、アメリカ産の中古ジーンズくらいである。まだ、国産ジーンズが生まれていなかった1950年代には、東京・上野のアメ横(アメヤ横丁)が中古ジーンズのメッカとなった。このジーンズと米軍の払下げの軍服を除けば、質屋以外で古着を扱う店は、ごく限られた。  「セコハン」と呼ばれた中古車は、かなり早くからマーケットを形成したが、他人が着用していた古着は、ジ

      • 時代を超越するファッション

         ファッションには流行がつきもので、シーズンごとに新しいモデルが発表され、新陳代謝の繰り返しが進化の原動力になっている。シーズンどころか最近は「52週マーチャンダイジング」という、ウィークリーな商品開発が常態化するなど、ファッションサイクルはどんどん短くなってきた。  そうしたなか、何十年、いや100年以上も原型を変えずにいる“長寿アイテム”が存在する。時代を超越するタイムレスファッションと呼ばれるものがそれで、テーラードスーツやジーンズは100年以上も基本的なデザインが変わ

        • カジュアルファッションの変遷

          カジュアルとは…  ファッションの流れには、いくつかの特徴があるが、「カジュアル化」も時代の趨勢を語るうえで欠かせないトレンドである。時代はまちがいなく、そしてテンポを上げながらカジュアル化に向かっている。  あらためて“CASUAL”を辞書で引くと、そこには「何気ない」「身軽い」などの言葉が。なかには「インフォーマルな」という解説もあり、日ごろ、わたしたちがイメージしているものと差異がない。  そして、服装にカジュアルという言葉が登場するようになったのは20世紀からのようで

        スポーツウエアの歴史

          ファッションプロモーションの歴史

          ファッションショーの誕生  ファッションの世界では古くから“最新”を伝えるツールが存在した。かつては肖像画に描かれる装いがニューモードを伝え、その後はリアルなファッションをミニチュア版にしたファッション・ドールが、さらに繊細な画像がファッション誌の誕生につながった銅板のファッション・プレートに発展するなど、ファッション・メディアは形を変えながら進化した。  そして今日、最新のファッションはランウェイによるコレクションショーが発信源として、パリやミラノ、ニューヨークなどで開かれ

          ファッションプロモーションの歴史

          ファッションメディアの歴史

          「人形」もファッションメディアに  書店などに行くと雑誌のコーナーには、多種多様なファッション誌が並ぶ。多くは若い世代を対象にしたもので、ここ数年で発行部数が減っているとはいえ、日本のファッション誌は世界トップレベルである。ただ、最近は、SNSの台頭によってインフルエンサーの動画が注目されるようになってもいる。そして、ファッショントレンドと同じように、ファッションメディアも時代とともに新陳代謝を繰り返し、進化している。そのファッション誌だが、印刷による出版物になってからの歴史

          ファッションメディアの歴史

          メンズファッションにみる流行史

          流行のトリクルダウン  ファッションにとって強力なエネルギーとなるのが「流行」である。流行は、ときに社会の常識を破壊する。突飛なスタイルからはじまることが多い流行は、その広がりによって新たな常識を構築する。例えば、1960年代に世界のファッションを塗り替えたミニスカートは、時間とともに世代を超えるスタンダートをつくる流行だった。  いまでは世界の標準服となったジーンズも、そのプロセスは決して平坦とはいえなかった。もとはワークウエアとして誕生したジーンズだが、その後は反体制のシ

          メンズファッションにみる流行史

          ライセンスブランドが主役となった日本のファッション

          60年代にはじまったライセンスブーム  東京の銀座や原宿にはラグジュアリー・ショップが立ち並ぶ。それだけでなく主要都市の百貨店でもこれら有力ブランドが一等地を独占する。インショップで“日本”の存在を示すのはデザイナーブランドなど、ごくわずか。国内ブランドが少数派となっている。  こうした光景は今にはじまったことではない。もう、何十年も前から百貨店のファッション売り場は、海外勢に主役を明け渡している。唯一の違いは、それら有力ブランドの多くが、最近は“直営”で売られていることであ

          ライセンスブランドが主役となった日本のファッション

          ドレスシャツの歴史

           デザインが画一的なメンズウェアの中で、ドレスシャツも個性が出しにくいアイテムの1つ。そのシンプルな外見とは対照的なのがディテールで、衿の形もレギュラー、ワイド、ロング、ラウンド、ショート、ボタンダウン…など多彩で、ポケットやカフスなどにもさまざまな形状がある。そして何よりもドラマチックなのが、その歴史である。  紀元前をルーツとするシャツは、歴史のほとんどが下着だった。  「(シャツの)前身は紀元前にすでに存在していたが、18世紀の終わりまでは下着としてのみ機能していた」(

          ドレスシャツの歴史

          明治時代のテーラー

          和洋で混乱した維新後  テレビドラマなどで映し出される明治維新は、登場人物に政界や経済界の大物が多いためか世相、とくに大衆ファッションがわかりにくい。タイムスリップしてその時代に身を置くことができたら、と想像を膨らませ、過去のファッションを類推してみる。  まずは、維新当時の服装から。以前、テレビ番組で岩倉具視が使節団の渡航先で着物姿に執着し、断髪令が発令されたにも関わらず、髷を切ろうとしない場面が紹介された。最終的には断髪を受け入れるのだが、しばらくは周囲の説得にも頑として

          明治時代のテーラー

          ズボン・パンツ・スラックスの歴史

          シンプルで多様なデザイン   カタカナだから外国語のように思われるが「ズボン」は、れっきとした日本語。語源は諸説あって、幕末に軍事教練にきたフランス軍が使った「jupon(ジュポン)」がルーツという説があり、フランス語で下着などを指す。一方、これまた幕末に幕臣がはいたときに「ズボッ」とした擬音語という説もある。辞典などでは併記されることが多いが、最近の日本ではパンツと呼ばれるのが一般的である。   ただ、これもイギリスではトラウザーズが正式な呼称で、パンツはアンダーウェアとな

          ズボン・パンツ・スラックスの歴史

          既製服は古着からはじまった

            「既製服」、英語では「レディ・トゥ・ウェア」、フランス語だと「プレタポルテ」。どれにも共通しているのは、「すでに作られ、すぐに着られる」という意味になること。しかし、プレタポルテという言葉を除くと、最近は使われることが少なくなった。ファッションだけでなく、現代社会ではあらゆる製品が既製化されているが、衣服における既製服の進化は、ファッションに大きなエポックをつくった。  紀元前から権力者のステータス・シンボルとして、服飾品の多くは上流階級に独占されてきたが、中世になるとそ

          既製服は古着からはじまった

          80年代のファッション~DCブームがもたらした変革~

               「感性」に戸惑う百貨店  時代が大きく変わった――NTTをはじめJRやJTなどが民営化され、WindowsやMacが相次ぎ発売されたのが1980年代である。銀行のATMや衛星放送がスタートし、東京ディズニーランドが開園、ウォシュレットもこの頃に生まれた。80年代の終わりには元号が平成に変わった。  新たな時代の助走路となった80年代は、ファッションの世界でも新旧交代が始まった。その典型がDCブームだろう。「デザイナー&キャラクター・ブランド」を略したものだが

          80年代のファッション~DCブームがもたらした変革~

          1970年代のファッションとメンズウェア

          新しい時代の幕開け  日本で初めて開かれた万国博覧会(大阪)では、テーマの「人類の進歩と調和」を象徴するように、新しい技術が数多く展示された。いまでは必需品になったワイヤレステレホン(携帯電話)をはじめ、当時は夢物語のようだった電気自動車、そしてエアドームや電波時計などが登場した。ちなみにリニアモーターカーも、この万博で展示されていた。  世相でいえば、中国との国交が正常化し、泥沼化していたベトナム戦争が終結、東京・銀座では歩行者天国がはじまった。また、庶民には縁遠かったコン

          1970年代のファッションとメンズウェア

          アイビーブームとメンズファッションの60年代

          男性ファッションに異変  1960年代は、ファッションにとっても大きな分岐点となった。社会的にはオリンピックがアジアで初めて開かれ、新幹線の開通、カラーテレビの放送開始、インスタントフーズの発売、それに自販機の登場や宇宙飛行の実現…など、新しい時代の幕開けとなる出来事が数多く生まれた。また、戦後のベビーブーム世代がハイティーンに達すると、これに呼応するかのように新しいムーブメントがファッション、それもメンズファッションに生まれた。そのムーブメントというのがIVY(アイビー)で

          アイビーブームとメンズファッションの60年代

          変革するメンズファッションの売り場

          日本の洋服業は明治時代から  ファッションにおける小売りの歴史は古く、中世のヨーロッパには衣服を扱うギルトが、仕立ての分野だけでなく、販売分野においても存在した。ただ、今日でいう「スペシャリティショップ」(専門店)の形態とは異なる部分が多く、一般的には1818年にニューヨークで創業したブルックスブラザーズが最古のメンズショップだといわれ、1846年にはロンドンのサヴィル・ロウにテーラー1号となるヘンリーブールが開業している。  いずれも明治以前の話だが、安政6年(1859

          変革するメンズファッションの売り場