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注目されるファッションのリセールとリペア

古着市場が熱い
 かつて日本で古着といえば「質流れ品」に代表されるように、ネガティブなイメージがついて回った。古着に価値を見いだせたのは、アメリカ産の中古ジーンズくらいである。まだ、国産ジーンズが生まれていなかった1950年代には、東京・上野のアメ横(アメヤ横丁)が中古ジーンズのメッカとなった。このジーンズと米軍の払下げの軍服を除けば、質屋以外で古着を扱う店は、ごく限られた。
 「セコハン」と呼ばれた中古車は、かなり早くからマーケットを形成したが、他人が着用していた古着は、ジーンズやアロハシャツ、ミリタリーなどの古着マニアを除けば、そのマーケットは限られた。ちなみに「セコハン」とは英語の中古“セカンドハンド”を略したものである。
 ところが最近、その古着がブームとなっている。アメリカの調査レポートEDGEでは「古着市場は2026年までに年率27%増の成長が見込まれ、これはアパレル市場の3倍の速さで、アメリカは8倍の速さ」と報じている。また、古着のeコマース(EC)で急成長を遂げているスレッドアップの「年次再販レポート」は、その時点で古着市場は770億㌦(約12兆円)に膨れ上がると予測している。
 こうした傾向は日本でもみられ、矢野経済研究所の「ファッションリユース(中古)市場に関する調査」では、2019年の国内ファッションリユース市場が、小売額ベースで前年比116.1%の7,200億円と推計し、1兆円の達成は目前と分析している。
 
ECのリセールで注目されるスレッドアップ
 日本でも古着が人気を集めるようになり、RAG-TAGのようにセレクトショップの雰囲気をもつ店やメルカリに代表されるECによるサービスが台頭している。そうした中、古着を独自のビジネスモデルによって急成長を遂げているのが、アメリカのthredUP(スレッドアップ)である。2009年に創業した同社は、23年12月の決算で3億2,200万㌦(470億円)の売上高を計上。21年にはニューヨークのナスダック市場に上場し、時価総額は18億㌦(約2000億円=当時の為替換算)にのぼった。
 創業者のジェームス・ラインハートは、家庭に滞留する“タンス在庫”を再販する仕組みを考え、体形変化ですぐに着られなくなる子供服からリセールを開始した。「子供は成長するが、衣服は成長しない」をキャッチフレーズに市場を開拓し、4年後の13年からレディスウエアを加えた。
 同社のビジネスモデルは基本的に委託販売の形をとり、リセールの代行をECで行うのが特徴。販売を希望する委託者には、申し込むと“Clean Out Kit”という再生可能なビニール製のバッグが送られる。委託者は、届けられたバックに古着を詰めて送付するだけ。送料は、同社が負担するため無料である。

委託者はリセール用の不用品をバッグに詰めて送るだけ  

 商品センターに届いた古着は、システム化された工程を経て、商品撮影後に同社のサイトにアップされる。販売価格は同社のシステムが査定し、サイトでは60日~90日にわたって掲載される。販売が成立すると同社から顧客に商品が送られ、一定の手数料を差し引いた金額が委託者に支払われる。ちなみに手数料は、販売価格に応じて設定され、これは公開されている。また、同社は有力ブランドとの連携にも注力しており、
 《ギャップやアディダスなど環境に熱心なアパレルブランドと連携して、RAAS(Resale-As-A-Service=リセールでサービス)というキャンペーンも行っている。売り手がこのRAASを利用して、連携したブランドをスレッドアップで売ると、そのブランドの買い物ポイントや割引券などが入手できる。スレッドアップはリユース販売以外にも、環境に関連する社会活動にも力を注ぎ、有名人と手を組んだり、小売店と連携したりしてサステナブルなファッションを宣伝することでも、社会の注目を集めている》(Wasabi「アメリカ発のリセールEC スレッドアップ」)
 ちなみに2020年には、ウォルマートとの戦略的パートナーシップを発表し、新しいオンラインリサイクルショップを立ち上げている。

スレツドアップに掲載された古着

 国内の古着市場
 前述のように国内でも、古着を新品のように扱う専門店が増えてきた。ジーンズやミリタリーなどマニアックなものだけでなく、RAG-TAGのようにラグジュアリーをはじめベターゾーンのカジュアルウエアを、ブランドショップのような売り場で販売するケースが生まれている。店の数からすればリサイクルショップのような店が多いのだが、マーケットがリフレッシュしているのは確かである。
 中古・リサイクルビジネスに関するニュースサイトのリサイクル通信の「リユース業界の市場規模推計2022(2021年版)」によると、2021年のリユースファッション市場の規模は前年比11.7%増の約2.7兆円で、調査を開始した09年以降12年連続で市場が拡大、25年に市場規模が3.5兆円まで成長すると予測している。同社の調べによる国内の古着ビジネスのランキングは、次の通りである。
【売上ランキング(売上高は中古の衣服・雑貨)】
1位 ゲオホールディングス(セカンドストリート名古屋)売上 598.9億円
2位 ZOZO(ZOZOUSED千葉)古着売上 156.9億円
3位 トレジャー・ファクトリー(東京)売上 129.2億円
4位 ブックオフグループホールディングス(相模原)服飾売上 111.4億円
5位 ハードオフコーポレーション(オフハウス新発田)売上 51.4億円
6位 STAYGOLD(BRAND REVALUE・BRING東京)売上 45.2億円
7位 買取王国(買取王国名古屋)売上 23.2億円
8位 JAMTRADING(古着屋JAM大阪)売上 22.8億円
9位 3peace(3peace茅ヶ崎)売上 16.5億円
10位 ウィゴー(WEGO東京)売上 12.2億円 

ファッションのリペアにも注目
 古着と同じように、このところ注目されているのがリペアである。これまでリペアといえば“お直し”と呼ばれ、裾上げや丈詰め、ファスナー交換など、ファッション市場では裏方に見られがちな分野だった。それが環境保護への関心が高まるにつれ、ラグジュアリー・ブランドなどがリペアサービスに力を入れはじめた。
 ヴォーグ・ビジネスは、「ファッションがリペアを嫌う理由」というレポートの中で、有力ブランドがリペアに取り組む状況を次のように伝えている。
《バーバリーからLVMHに至るまで、ラグジュアリー企業でも持続可能性戦略の一環として修理が拡大している。LVMHは、製品の「修理の可能性を強化または開発する」ための新サービスを発表、ルイ・ヴィトンでは長持ちするデザインの開発と実装に向けた取り組みが進められ、(高級靴の)ベルルッティでも「完全に修復可能な靴を製造する」という企業戦略を進めている。フェンディは顧客に、修復またはアップサイクルをして新しい製品にすることを勧めている。ケリングは、21年に発表した循環戦略の一環として、修理サービスを拡大し、より簡単にアクセスできるようにすることに取り組んでいる》
 一方、国内でもユニクロが22年10月に、東京の世田谷千歳台店に「Re.Uniqlo Studio」をオープンした。同社で購入した商品を対象に、リペアとリメイクを行うというもので、国内のほかニューヨークやシンガポール、マレーシア、台湾などの地域にも開設している。ちなみに料金は、1か所につき500円から。

ユニクロの「Re.Uniqlo Studio」

リペア・テクニックを公開するパタゴニア
 早くから環境保護活動に着手し、この分野ではリーダー的な存在になっているパタゴニアは、すでにアメリカに大型修理工場を設置しており、年間4万件を超える修理実績を上げている。これまでも同社は“服の寿命の延ばす”ために修理サービスに注力してきたが、これをさらに広げるために、新たに「ウォーン・ウエア(WORN WEAR)」というプログラムをスタートした。
 WORNとは「着古した」という意味で、着古した服を再生させるというもので、注目されるのは着用者自らがリペアできるプログラムを推進している点である。Webサイトで「パタゴニアWORN WEAR」で検索すると、「私たちが地球のためにできる最善のことのひとつは、モノを長く使いつづけて私たちの全体的な消費を減らすことです」というメッセージ画面が現れ、そこに表示される「DIYリペア」をクリックすると、さまざまなリペアガイドが動画や写真などで解説される。

多くのユーザーに修理方法を公開  

 また、このプログラムでは、無料の修理専用のオンラインコミュニティであるiFixit(アイフィクジット)と提携し、ユーザー自身が修理できるテクニックが公開。そのプラットフォームにはパタゴニアがもつ100以上の修理ガイドが紹介されている。ユーザーはiFixitで修理したい製品や修理内容を検索し、オンライン上で方法を学ぶことができ、ユーザーコミュニティで個別の質問を投稿することもできる。例えば同サイトで「パタゴニア」を検索すると、穴あきや破れ、ジッパー交換などのバナーが表示され、それをクリックすると修理の手順が写真付きで紹介される。

 マスプロ・マスセールは限界?
 「サステナビリティは何十億年もトレンドになっており、私たちはそれに組み込まれている。それに比べれば、過剰の文化、つまり大量生産、大量消費、そして加速した成長は、歴史的に見てナノ秒単位の判断ミス」
 2013年のバングラデシュで起きたラナプラザの惨劇(縫製工場の崩壊)を契機に設立された、イギリスのファッション・アクティビズム「ファッション・レボリューション」の創設者の一人オルソラ・デ・カストロの言葉である。ファッション・レボリューションは調査や教育を通じて、消費者やブランド、政策立案者などを巻き込み、アパレル労働の透明性を提唱、世界最大のファッション・アクティビズムに成長した。その代表のコメントは、ファッションのマスプロ・マスセールに警鐘を鳴らすものである。
 コロラド州立大学でデザインやマーチャンダイジングを研究する准教授のソナリ・ディディは、「衣服の修理とコミュニティの修繕イベントに関連する消費者の認識」と題する論文で衣服修理の背景を次のように述べている。
《米国環境保護庁(USEPA)は、使用後の繊維廃棄物(PCTW)が米国の埋立地にある都市廃棄物の6%を占めていると推定。PCTWは過去25年間で約50%増加し、2015年だけで1,110万㌧の衣料品が米国の埋立地に捨てられた。米国では寄付された衣類はすべて再販・再利用されるという考えに反して、慈善団体に寄付された衣服の約20%がリサイクルショップで販売されたり、アフリカに輸出されたりしているが、大部分は埋立地に行っている》

アフリカで廃棄される衣料ゴミ 
古着の輸入国

 《2030年までに約1億4,800万㌧の衣料廃棄物が発生すると予想され、これは地球上の1人当たり15㎏に相当する。世界のファッション廃棄物の大部分は埋立てられるか焼却され、衣料品で再利用またはリサイクルされるのはわずか約20%。衣料品の世界平均消費量は1人当たり5㎏だが、アメリカでは2014年に16㎏の新しい衣類が購入されている。これは、Tシャツ64枚またはジーンズ16本に相当する》
 こうした背景を受けて同論文は、衣料廃棄を軽減させる要素の1つとして「リペア」に関する調査・研究を報告、そこでは次のように記している。
 《修理に携わることは、衣服に対する感情的な愛着を育み、消費者が衣服の寿命を延ばすのに役立つ。修理のスキルを開発することで、品質の良い服と悪い服の識別に関する知識を身につけることもできる。-中略-衣服の修繕に対する前向きな姿勢は、ブランドにとって重要な意味を持つ。修理サービスの提供は、もはや選択肢ではなく、ブランドの拡大生産者責任(EPR)の一部となる可能性がある。中小規模のブティックやデザイナーハウスは、衣服の修理サービスを組み込むことで、消費者の関心を高めることができる》

 画期的なファッションの気候行動憲章
 2018年、「ファッション業界気候行動憲章(Fashion Industry Charter for Climate Action)」が制定され、気候変動対策に大きな弾みがついた。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局のもとで、人気のファッションブランドや小売業などが、そのバリューチェーン全体を通じ、ファッション部門の気候への影響に団結した取組みを行うことで合意した。
 アディダス、バーバリー、エスプリ、ゲス、ギャップ、ヒューゴボス、H&M、インディテックス、ケリング、リーバイ・ストラウス、プーマ、PVH、ターゲットを含む43社のほか、支援組織として中国紡織情報中心(CTIC)、グローバル・ファッション・アジェンダ(GFA)、オーガニックテキスタイル世界基準(GOTS)、国際金融公社(IFC)、アウトドア産業協会(OIA)、サステイナブル・アパレル連合(SAC)、サステイナブル・ファッション・アカデミー(SFA)、テキスタイル・エクスチェンジ、WWFインターナショナル、有害化学物質排出ゼロ・グループ(ZDHC)も参加している。(現在はアシックスとファーストリテイリング、YKKも署名)
 パリ協定の目標とも整合するこの憲章は、2050年までに正味でゼロ・エミッションを達成するという業界のビジョンを盛り込むとともに、生産段階の脱炭素化から、気候に優しく持続可能な素材の選択、低炭素の輸送、消費者との対話と意識の向上に至るまで、拡大可能な解決策の促進に向けて金融関係者や政策立案者と連携し、循環型ビジネスモデルを模索することで、署名団体が取り組むべき課題を定めている。こうした約束の実現に向けた具体的な前進を図るため、ワーキンググループが設置された。署名団体はその中で、実現に向けたステップを定めていくことになる。
 憲章署名団体は、こうしたステップが定まるのを待たずに、2030年までに温効果ガス排出量を合計で30%削減するという初期目標を掲げるとともに、2025年から、自社内と直接納入業者の石炭燃料ボイラーや、その他の石炭を燃料とする熱源と発電を段階的に廃止するなどの具体的措置も定めた。(国連広報センター)

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