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『ウホッホ探検隊』干刈あがた 著(小説ブックレビュー)

 まだ今ほど離婚することが肯定されない時代(昭和58年)にあえて小説で問題提起させた。
 最初はタイトルに惹かれて読んで、著者が鬼籍に入っていること、又自叙伝的な作品だと知り、思わず感情移入をした。二たびと言わず、何度も泣いた。

 太郎、君はスニーカーの紐をキリリと結ぶと、私のほうを振り返って言った。
 「それじゃあ、行ってくるよ」

 一度読んだら忘れないほどの衝撃の一節は中毒性が強い。冒頭だけで名作だと思わせる破壊力は干刈さんの持つ膂力でしかない。母と一緒に暮らす息子二人(太郎、次郎)が、離れて暮らす父と会うという平凡なストーリーながら、人物や背景の描写があまりにも鮮烈過ぎる! ここまで切ない作風ながら「これぞ小説!」と唸らせる【あがた節】は他の二人称小説とは桁違い。
 本作品は1983年芥川賞候補作であり、同賞受賞をした高樹のぶ子『光抱く友よ』と拮抗し、大江健三郎や遠藤周作から高い評価を受けた。(ちなみに『干刈あがた(ひかりあがた)』と言うペンネームも、これまたセンス抜群の破壊力ではある。)
 どうにもこうにも、後世に遺したい作品と思い又いつでも読めるようにと、自分の携帯電話にあるブックアプリから思わずダウンロードしてしまった! 思わず読まされてしまった、と言ったほうが相応しい表現だ。慎重に購買する自分にしては大変珍しい行動である。

 干刈あがたさん、今も御存命なら81歳。どんな言葉で、どんな表現で、どんな切り口で令和の『スーパーネオ家族』を描いただろうか・・・。同じく子を二人持つ親として非常に気になる。そして何より、今の時代ならば本作品は沢山の方に共感を得られたと思うのは私だけだろうか。
 名作とは、自分の胸に切り刻まれるように遺る言葉の集合体なのかもしれないと思った。
 名作とは、著者と共に、読者の胸に永遠に遺るもの。そして、読者が残そうとする。その一人が、私と言うファンである。

 あがた作品を考えているうちに、また小説が書きたくなった。

【了】

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