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恩を仇でかえされた

 *とてもくだらない内容です。虫が苦手な方はご注意ください。




 とある夏の暑い朝。ベランダで、せっせと洗濯物を干していると、目の端に黒くうごめくものが。ゲッ。何。
キレ気味でそのものを凝視すると、ひっくり返って手足をバタつかせているカナブンだった。
 なんてこったい。このまま見なかったことにするかどうするか。逡巡した後、近くに置いてあった箒を持って、カナブンにクモの糸ならぬ箒の先をたらした。さあ、これにつかまりたまえ。
カナブンはもがきつつ、なんとか箒の端につかまって、身を翻した。
体制をととのえたカナブンは、ついさっきまで地獄にいて足をバタつかせていたことなんてなかったかのように、恩人の私に見向きもせず、涼しい顔で飛びたっていった。
 よしよし。いいことをした。
私はその姿を見送りながら、いつかカンダタことカナブンが恩返しにでもくるんじゃなかろうかと内心ほくそえんだ。
酷暑のせいか。だいぶ頭がおかしい。

 その日の夜。いつもより早く帰宅した夫にお願いして、子ども達を連れて花火をやりに行くことにした。
 久しぶりの花火に、はしゃぐ子ども達。夫はなぜか花火をぐるぐる回しながら1人チューチュートレインをしている。
 しかし準備していた花火の品揃えが悪く、ひたすら似たような花火をせっせと消費するのに、みんな汗だくになった。
言い出しっぺのくせに、疲れてきた私は
「見よ。二刀流」
などとほざきながら、2本いっぺんに火をつけて両手に持ち早く帰ろうとしていた。
線香花火、だれが長く生き残るでしょう競争も何回戦か重ねたのち、ようやく花火が無くなった。
 やっと涼しい車内に戻った私は、楽しかった〜とはしゃぐ子ども達の声をバックに、昔はヘビ花火やらもっとバチバチ音が鳴る花火やらいろいろあったよね〜と夫と話していた。
 その時だった。ふと、背中にチカッと電気が走った。反射的に右腕を首の後ろに回し、手を洋服に入れた次の瞬間
モゾッ。
「キャーキャー」
漫画のように大声を上げて突然身をよじる私に、家族もパニック。ワニワニパニック。
懐かしい。
「イタイイタイ」
騒ぐ私に、運転中の夫は半ばキレながら
「どうした」
と慌てて車を路肩に停めてくれた。
こうみえてほとんど口答えしない私は結婚して以来初めて大声をあげてキレた。
「本当にイタイの!」
そして、背中を歩き回るそれを掴み取り、ドアを開けて放り投げた。そして視線をあげた先には。
なんということでしょう。
夜の明かりに照らされたそれは、あのカナブン。助けてあげたカンダタ。
恩返しどころか仇で返しにきたのである。
なんとも腹ただしい!なんとも腹ただしい!
私の鬼気迫る怒りっぷりにドン引きの子ども達と、面倒くさそうにする夫。
 夏の思い出。手を繋いで。歩いた海岸線。
どころか、車へカナブン飛び乗って戦いあった夏の日である。なんの話。



 

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