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ないものねだりの日。(400文字小説)

機嫌が悪い。相手の冗談を笑って流せない。
違うと思った。日常のリズムに心が乗れていなかった。自分でも薄々気付いていた。それなのに、見て見ぬふりして電話をしてしまった。
結果、相手とぶつかる。いつもの形に上手く収まらず、不穏な空気に耐えられず、互い電話を切った。
深いため息が部屋に響く。家電の音がより静けさを引き立たせる。ため息で飛ばしたはずの重い空気は、吸い込む空気と一緒に自分に引き寄せられる。
「あ、これはダメかも…」
闇へ落ち始めた瞬間、スマホが鳴った。画面をみることなく、無意識でとってしまったスマホから、アッパーなテンションの声が流れ、その波に私は溺れた。
向こうには、運命とは、奇跡と軌跡とは、違いとはについて夢中で話す相手がいた。
「喋り過ぎたわ。仕事始めるからまたねー」
なんという自分勝手さ。でもその軽さが今はちょうど良い。スイッチを切り替えてくれて有難いと同時に、ないものねだりで今日が終わる。

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