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第六天魔王夫婦喧嘩考 前編

(登場人物)
・織田信長(おだのぶなが)
 17歳 織田信秀の嫡男。

・濃姫(のうひめ)
 16歳 斎藤道三の娘。信長に嫁ぐ

・斎藤道三(さいとうどうさん)
 57歳 美濃国の戦国大名


「たとえ夫婦が一緒に床に入っても懐刀を肌身離さないように」

戦国大名へのお嫁入りの第一の心得である。

いつ相手に殺されるかわからないし、場合によっては夫を殺さないと行けないからだ。

直接、刀を振り回さなくも、政略結婚が多いので、夫婦の不信は常に起こっています。

今回は織田信長と濃姫にまつわるお話です。

織田信長。もう説明することがない大英雄です。
少年時代から暴れん坊でおおうつけと言われておりました。朝から晩まで乗馬や槍の稽古や春夏は川で泳いでいる。
服装は奇抜で柿や瓜を食べて歩いたり、大名の息子かという感じです。

父の葬儀のエピソードは、普通なら跡取りなので、喪服に正装すべきところを茶筅髷(ちゃせんまげ)で、袴も着ず、腰は荒縄を巻き、刀を差してづかづか入ってきて、香をつかみ、位牌に向けて投げつけたという。

濃姫は美濃の領主 斎藤道三の娘で、名は「濃姫」とか「帰蝶」とか言われているが、定かではない。
濃姫はおそらく「美濃の姫君」の略と思われる。


信長と濃姫が結婚してしばらくした頃、
濃姫は信長が夜中に、そーっと寝床を抜け出すことに気がついた。

「おやっ?」と思って注意深く見ていると大体同じ時間に出ていくのであった。

「さては、誰か好きな女の所に❓」

濃姫はピリピリ眉を逆立てた。
側室がいるのはこの時代は仕方がないのですが、毎夜、同じ時刻というのが濃姫のカンに触ったようだ。

「それも私に黙って出ていくなんて❗️」

ある日、濃姫は信長を問い詰めると思わぬ返事が返ってきた。

信長「何で女のところに通うものか!」
濃姫「でもそれならどうして毎夜同じ時刻に
  出ていらっしゃるのですか?」
信長「それには訳がある。」
濃姫「訳をお聞かせください」
信長「それだけは言えぬ」

押し問答の末に、誰にも言わないと約束するならと、言ってこう切り出しました。

信長「事は重大だ!絶対に漏らさないどう誓
  え!」
濃姫「よろしゅうございます。」
信長「そうか。よし!俺は今、庭に出て火の手
  が上がるのを待っておる。」
濃姫「火の手?」
信長「そうだ。そなたの父、道三の城からな」
濃姫「えっ、何ですって!」

義父とはいえ、信長にとって道三は油断ならない男で密かに亡き者にしようとしていた。

濃姫「まあ。何ということをなさろと」

呆れて信長の顔を見たが、 
信長自身は、すました感じで、

信長「実は斎藤家の家老は手懐けており、彼ら
  が、そなたの父を討ち果たした後、火を
  放つことになっており、毎夜こうして見て
  おるのだ。」

濃姫は絶句した。

濃姫「よくも私の父を!」

これが夫のなすべきことなのか?
夫とはそんな人間だったのか?
そんな夫を信じてきたことが悔しかった。

濃姫「ようし、それならば・・・」

濃姫は父に知らせようと決心する。
彼女は夫より父を取ったのである。というか夫に激しい敵意を燃やしていた。

いざ父に密書を送ろうとするが、監視の目が常に光っていて、思うようにいかない。よく見ると信長と斎藤家の家老が親しげに話している姿を目撃した。

濃姫「いよいよ夫の言う事間違い無いわ!」

遂に濃姫は父への連絡に成功する。
娘の知らせを受けて、道三は自分に対して謀叛を計っていた家老を退けることになり、危うく難を逃れた。

しかし、実はこれは信長の謀略であった。
義父の道三には優秀な家老がいたので、自分の妻を使って、道三と家老との離間を狙ったのである。
そんなことは少しも知らない濃姫は父にこのことを告げて、有能な臣下を殺させた。
このおかげで斎藤家の力は弱まっていくのであった。

もし濃姫が夫の言うことを信じていたら、この作戦は成功しない。つまり、この事は夫を憎み、裏切ることが前提であった。
つまり、信長自身も濃姫を信じていなかったのである!
何という相互不信であろうか!

しかしこの話は史実と合わせると少しおかしいのである。

(続く)

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