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スネークオペレーター〜特別諜報捜査官〜#11

前回までのあらすじ
銀座のクラブに潜入捜査をするヤス。ママになったカレンに正体を明かし協力を得る。そしてホステスでコカイン売人であろう聡子に近づいて、なんとか気に入られ情報を聞き出そうとするが一筋縄ではいかない。


ここは歌舞伎町の所謂オカマバーだ。大きいステージがあって多分ここでショーがあるのだろう。聡子はそのステージの真ん前の大きなテーブルとソファを占領するつもりらしい。
席をキープしたら、メニューを持ってこようとしたら、多分普段は普通のおじさんだろうと思う女装した人に

「私はいつもの!」

と言うと早速ヤスに

「トイレ言ってくるから先になんでも飲んでて。」

と言い捨てるとそそくさとトイレに向かった。さっきのおじさんが

「あらっ、いらっしゃい。いい男ね。何になさる?」

と注文をとった。ヤスはおじさんに

「彼女は何を飲むの?」

と聞くとおじさんは、

「いつもウーロンハイ濃い目を中ジョッキでよ。」

と教えてくれた。おじさんにヤスは同じのをお願いして

「ここでショーをやるの?」

と尋ねた。おじさんは、

「多分今日は終わったはずよ。マスターが調子乗るともう一回あるかもしれない。2時以降はあんまり決まってないわ。」

と答えてくれた。それにしてもあちらこちらに嬢のおじさん、見るからにオカマやニューハーフの綺麗なお姉さん、そうでないお姉さん、おなべ(女なのに男を装っている)、これはさまざまだ。
さすがのヤスもこの手のオカマバーは初めてである。見回してキョロキョロしているとウーロンハイ濃い目をお盆にのせて、今度はニューハーフのお姉さんが横に座り

「いらっしゃいませ!聡子ちゃん好みのいい男ね!」

聡子好みなのか?あのツンデレは薬のせいなのか?アップダウンが激しいのは分かる。どっちが本当の聡子なのだろうか。

「私も何か頂いてもいいですか。」

とニューハーフお姉さんが言う。

「どうぞ!」

とヤスが言う。ヤスが

「お姉さん、お名前聞いて良いですか。」

となんて呼べば良いのか分からないので先に聞く。すると

「先にお兄さんが普通言うもんよ。私はさおり。ひらがなでさおりよ。」

あっ、そうだ!俺言ってないわと思いヤスは

「内藤と言います。聡子さんと銀座から来ました。」

「あら、お兄さん、礼儀正しいのね。そりゃあこの時間なら聡子さん連れてくるの銀座の人でしょうけど・・・。よろしくね、ビールいただくわ。」

と言って、カウンターに手で合図する。ウーロンハイを半分ぐらい飲んだ頃、さおりのビールと一緒に聡子が帰って来た。キメて来たんだろう、鼻がさっきより赤くなっている。さおりが

「この時期、風邪引くから気をつけてよう。」

と知ってか知らずか鼻が赤いことを気を遣って言った。

「ありがとう。ヤス坊ごめん。お待たせ。私、ヤス坊の隣座っていい?」

と誰にも言うまでもなく大きいソファでヤスの隣に座る。さおりが聡子に

「こんないい男、銀座で掴まえたの?羨ましいわ。」

とさおりが言い、続けて

「私のこと皆んな〝さお〟とか〝さおちゃん〟とか言うでしょ。だけど私、さお要らないのに踏ん切りつかないのよ〜。いつも女性ホルモンだけ。名前変えたら〝さお〟切れるのかなぁ〜?」

と、竿繋がりの冗談を言う。まだペニスがあるようだ。
さおりも気を利かせて、ちょっと失礼と手を切って席を離れて行く。ソファに2人きりになった。聡子の方から

「ねぇ〜、今日はありがとう。私のわがまま聞いてくれて。」

と今までと全然声のトーンといい雰囲気が違う。なんか甘い香りがする。

「わがままって・・・今日は聡子ちゃんの罪でしょう。」

と言うと

「もう、意地悪ー!」

って聡子は頬を膨らませる。

「ほんとにヤス坊とか呼んじゃっていいの?勢いで言っちゃったけどヤス坊って呼ぶ人居る?」

と、また女子の潤んだ目で見た。この目って女の子なら誰だってできるのかなぁ〜。でも、ミミの目が世界一だけど。

「ヤス坊なんて、いや考えたけど誰も言ったことないねぇ〜。」

すると聡子は

「私だけのヤス坊でいいの?ずうずうしいか・・。」

ヤスは、ほんとだよ!ずうずうしいよって思ったけど、そこは堪えて

「全然、大丈夫。」

って言ってみる。というか、このパターンやばくね?ほんとの侵入捜査になってしまう。

「じゃあ、ヤス坊は彼女居るの?」

と聡子から牛歩のごとく寄ってくる。ここで居る!と言った方がいいのか、居ない!と言った方が仕事がスムーズに進むのか良く考えなきゃだ。枕営業したくないのでここはミミにも悪いし、今回は居る!の選択を出して任務も上手く行かせたいところだ。
ずーっと考えていたから、聡子から

「やっぱ、いるよね。そんないい男放っておく人いないもんね。ごめんねヤス坊。じゃーどっちでもいいからヤス坊とは呼ばせてね。それだけで大丈夫。恥ずかしいけど今日はね、店来た時から一目惚れ。今2人で居るのが信じられないくらいだよ。本当に。」

と聡子は謙虚に言ったつもりだろうけど、ずいぶん思い切って言ったなと関心する。ますますどうすればコカインのことを言ってたくさん欲しいと言おうかと迷ってしまった。この際、少し甘えて頼んでみようか。失敗したら強引に手帳使うしかないかな。

「ごめんこっちこそ全然自分のこと言わずに。でも、気に入ってなきゃ付いて来てないからね。あと、この甘い匂い懐かしくて・・・。俺も欲しい。できたら何回も頼みたく無いので沢山。」

当たって砕けろで言ってみた。聡子は、右隣で固まってしばらく黙っていたが口を開いた。

「ヤス坊もやってたんだ。海外で私もやっていたけど、まさか日本でも手に入るとは思わなくて。最近、銀座の友達だけ分けてあげてたの。それが売人がもっと売れって。そうしないと警察に言うと脅されてるの。ねぇヤス坊、どう思う?このまま抜けられなくなって・・・。今でも売人みたいに私に沢山知らない人とか電話やラインが来るの。時間がある時は会ったりしてお金預かって韓国人の売人に渡している。いつの間にか売人になってたの。だから今鬱っぽくなって売るの辞めてるけどその鬱の薬がコカインとなっている。どうしていいか分かんないの。ヤス坊が欲しいなら売ってもいいけど、本当は私辞めたいの。」

よしよし結果オーライ。これは聡子に正体明かせて聡子は俺への自首減免にするのが良いな。ここではマズいので、ちょっと2人きりになるとこ連れて行った方がいいわ。これはまたとないチャンス。でも彼女は絶対協力してもらわないと売人は怪しむからな。ホテルだと変な感じになっちゃうんで、カラオケボックスにするかどっか個室の料理屋。料理屋じゃ声漏れちゃうから、カラオケボックスだな、このビルにもあったから、そっちへ移ろう。

「分かった。聡子ちゃん良い方法あるから俺のこと信じて、少しだけ2人で話しない?このビルのカラオケボックスでいいから。」

「えっ、良い方法って何?怖い嫌よ。このままどろ沼にハマるのも。警察に捕まるのも・・・。前も後ろも行けないんだよ。」

「だから、信じて1回俺の話聞かない?」

「ヤス坊、ママのお客さんだから信じる。じゃ行こう。」

そうと決まったら、聡子の手を引っ張って出口へ向かった。レジに1万円札を1枚置いてそのまま出た。
階段で1階がカラオケボックスだった。入り口で手続きしてマイク2本とカゴを渡され105の部屋へ行く。デンモクでさっきのウーロンハイ濃い目を2つ頼んだら聡子は笑った。なんか少し安心したのかな。しばらく無言が続き、ウーロンハイ濃い目が2つ来たら、

「とりあえず、乾杯しよ!」

「何の乾杯?」

カチッと乾杯した。少し口に付けて流れてる曲を小さくして声がちゃんと聞こえるようにしてヤスが言った。

「聡子ちゃん、ちゃんと聞いてね。驚かしてごめん。」

聡子は何を言われるかドキドキしている様子だった。

「実はね、聡子ちゃん、俺こういうもんなんだ。」

と警察手帳と同じものだけど、部署も階級も違うが。それを見て聡子はがっくりテーブルに伏せて泣き出した。捕まって人生終わりと思っているようだ。

「聡子ちゃん、泣く必要はないよ。良く見てこれ。」

・・・特別諜報捜査隊・・・警視内藤靖

「えっ、内藤さんどういうこと?」

「簡単に言えば俺は警察であって警察じゃないんだよ。だから、聡子ちゃんは逮捕はしない。でも協力してほしい。」

と聡子にようやく理解してもらえたようだ。

「詳しく言うと俺らは日本の海外からの侵略を水際対策したり、日本に入ってきてる悪い組織を潰しているんだ。コカインの組織も売人とかなんかではなく、国から阻止する担当と言っていい。なので、売人を引っ張り出してその上を解明して壊滅したいんだ。協力してくれ。」

「私はどうなるの。」

と現実的なことを言う。そこが本人には1番大事だろう。

「逮捕はしない。身柄の安全も確保する。俺が言ってるんだから嘘はない。」

少し聡子は明るくなって、じゃあどうすればいいの?なんかスパイ映画みたい。

「いつもどこでブツを渡してもらうの?」

とヤスが聞いた。

「原宿駅から代々木公園の入り口に入って、歩道橋のあるあの辺。」

と聡子。多分聡子が近くに住んでいるんだろう。

「自宅が近いのか。相手に教えてないよな。」

とヤスが聞く。

「多分、買った後そのまま銀座とか六本木行っちゃうんで。」

「量は毎回どのくらい買うの?」

とヤスが聞く。

「毎回違うけど、友達から頼まれると10gとか。」

と聡子。ヤスが20万円か・・・。今、1g2万円だそうだ。最初は沢山買うと言って1kg欲しいとか考えていたけど、手提げ袋とか目立つだろうから無理だろうし、急に1kgって怪しすぎるよな。普通にいつもの10gぐらいにして後を付けた方が良さそうだ。よし明日でもチームを組んで総力をあげて売人の中間ヤサを探し出し、そこへ持ってくるコカインをどこから出てくるか遠巻きに探索しよう。

「分かった聡子ちゃん、悪いけど俺と連絡先交換して。それと、明日できればなるべく遅い時間に10gでさっき言った原宿駅の近くで約束してくれる?で、それを俺に教えて。」

と聡子に言う。「うん」とだけ答えた。加えて、

「その場でその売人は捕まえないから、何食わぬ顔していつもの様に去って行って。分かった?」

聡子はさらに、うんって言う。

「それで、持っているもの全部明日準備しといて絶対もったいないから隠すとかしないでね。その時は私じゃなくて他のサツが捕まえるから、全部渡すように。分かった?」

聡子は事の重大さが少しずつ分かったのか涙目になる。

「じゃあ、今日は真っ直ぐ帰るんだよ。俺の言う通りしてね。ラインの確認しよう。」

スマホをいじってピコンって承認が来る。承認して返信する。聡子が

「本当にヤス坊、手首まで刺青入っているのに捜査官なの?手帳もっかい見せて・・・。」

聡子に手帳をもう一回見せる。そして脇のホルスターから拳銃を出して、マガジンを出して見せる。

「え〜っ、本物?」

ここで撃つわけには行かないからマガジンの弾を拳銃にセットしてからスライドして出して見せる。マガジンを出して戻して仕舞う。

「右の指見てこれ、引き金引きすぎてできるマメだよ。」

聡子は

「明日、頑張るね。じゃあ連絡する。」

と言って、店を一緒に出た。先に聡子にバイバイして、支払いは済ませエリー様に電話した。24時間電話は大丈夫だ。

「はい、エリーよ。順調?」

とエリーラインハート様が機嫌やや悪そうに言う。ことの流れを話すと明日21時には基地に集合ということになった。今日はタクシーで豊洲に帰ることにした。アベンタドールはアルが銀座から陸送したそうだ。

〈第七章〉

5月末日、約束通り、特別諜報捜査隊の基地の入り口。今日は湾岸警察署の方からサニトラで出勤。駐車場のドアを開けてバラバラのコンテナとボルボトレーラーヘッドも改造中で挨拶してるみたいに前のめりになっている。その脇を通って会議室のドアを指紋認証で開けた。大きいテーブルが2列に並んでいて、いつも席にエリーラインハートキャップ様がレーザーポインタを片手に持って立っていた。テーブルには、老若男女で埋まっている。なんか皆んな偉そうだ。多分高階級の者たちだろう・・・。

「内藤捜査官、遅いわよ。皆んな待ってるんだから、こっち来て座りなさい。」

とお母さんみたいに指示する。皆んな俺を見て「???」となっている。良かったのが昨日のスーツのままだったから、少しはマシに見えた。ここは習ったように自分の階級をわきまえて話すこととする。切り替える。それと同じにエリーラインハート様が

「それじゃ、皆さん!本日行われる捜査を担当します。内藤靖警視です。それでは、内藤警視お願いします。」

ほとんどの皆んなが顔を見合わせて驚いて見せた。続けてヤスが

「では、皆さん紹介に預かりました内藤です。若輩者ですがよろしくお願いします。それで今日は皆様にお互いがどの部署で何の担当か名刺を名前プレートに入れて胸に付けてもらってます。各自ご挨拶は今のうちにお願いします。」

と言うとざわざわと挨拶が始まった。俺もひと回りする。検察庁から警察庁まで、決裁権を持つ者を集めてもらった。

「皆さん、お気づきの通り検察庁から警察庁で決裁権がある方に来ていただきました。気を悪くされたらすみません。」

ガヤガヤまだ言っている。何をする気か・・・と言った感じになるだろう。

「皆さん、私どもは政府から極秘に作られた、あなた達をも命令できる部署にあります。今回の捜査に対し勝手な事をしないと頭に入れてください。すべてエリーキャップを通すように。ご存知の様に私どもは他国から日本に入っている諜報員とその組織を壊滅するのが任務です。ただの薬物事件ではありませんので、履き違えない様に。」

またざわざわする。

「文句ある奴は前に出ろ!いくらでも聞いてやるぞ!」

と初めてアルフレッド中渡瀬捜査官が叫んだ。やっと静かになった。壁掛けの大型テレビに電気が付き部屋を少し暗くした。ヤスが説明する。

「本日、午後10時に原宿の駅を出て右手に代々木公園の入り口がありますが、そこで情報皆無の韓国人と思われる男と銀座のホステス本城聡子25才がコカイン10gを取引する約束をしています。本城は私が準備したSです。コカインは私が回収しますので、本人はスルーで構いません。問題は韓国人と思われる男、もしくはその他仲間です。何人で来るのか不明です。確保はまだしないで下さい。おそらく私の感じですが、韓国人らしい男と言う事でアジトは大久保あたり、もしくは都心を外れた郊外だと思います。各所轄に渡り連携してアジトを割り出すように。アジトは一箇所とは限らないと思います。関係者と思われる人物と接触があった場合は、随時報告お願いします。」

とヤスが言うと、エリー様が何か分からないことありますか?と言った。1人の女性検事が手を挙げ

「東京地検の山垣純子検事です。では本日は尾行のみと言う事でええんですね。人定確認ということですね。」

と女検事が大阪弁訛りで聞いてくる。多分自分の受け持ちの身柄関係の調整に関して、すぐには身柄は送検されてこないのか?と聞きたかったのだろう。まだ、30才そこらで新任のとき、矢﨑社長が地方で随分いじめられたと聞いた名前だ。

「そうです。お願いします。」

と返事をするヤス。背が小さくて可愛らしいが気が強いと聞く。

「SWATの皆さんは、アジトが判明して、行確後急襲しますので、よろしくお願いします。」

とエリーが言うと、

「押忍!」

と言った。

「それでは、解散で。10時前からインカムは2chでお願いします。」

無言で早々に離席する幹部たち。正直、大丈夫かなぁ〜と思う。チームワークは各部署で取れているんだろう。本日の尾行は管轄を超えての行動捜査なので警視庁でその専門が集められるだろう。茂原まではたどり着くと思うけど、販売先が花田組の他にもあるのかどうか?無ければ花田を暗殺するのは花田組以外が濃厚で、他の組にも販売している形跡があれば花田組の可能性が高い。要は花田組がコカインをひとり締めだと他組織がシノギの邪魔になるという訳だ。しかし、逃亡中のヒットマンの花田組の若頭は出頭しないのは花田誠が極桜組の直参にならないからだ。ジギリを掛けたのだから自分の地位を確率させておきたいものだ。ヒットマンの黒沢も関東の組織が仲介して引退した矢﨑と一緒に引退しとけば、黒沢自身もどこかの元若頭補佐
の組預かりで帰参して木下組長を暗殺すれば直参確定だったのに、花田誠は帰参してしまった。考えてみれば誰に殺されてもおかしくない。この前の花田暗殺のミスは大失態だ。しかし、本人は誰が狙っているのか分からないのだから、まだチャンスはある。


午後9時50分になった。原宿駅の回りは、色んな服装をした刑事が山盛り居る。尾行を失敗すれば次がないからだ。アルも応援に来ている。
聡子には昼のうちに会わせておいたので怖がらせずに済んでいる。ヤスは代々木公園側の歩道橋の上から待ち合わせ風にふらふらしながら接触場所を見えるようにしている。
その時、インカムに女性が現れたと所轄の刑事が通知する。
接触場所に着いた。その時を影で見ていたように韓国人風の男が現れて一瞬回りを見たが、現金を受け取ったと同時にコカインと思われる封筒に入れられたものを渡し、それじゃ〜と言う様な感じで韓国人風の男は原宿駅の方へ向かい、聡子は代々木公園の方向でアルが車に乗せた。アルは受け取ったコカインをジップロックの袋に入れて聡子を渋谷の交差点で降ろした。
韓国人風の男は何人か分からないがヤスも一緒に遠巻きに尾行している。山手線内回りに乗り込んだ。さぁ、どこのアジトに誘ってくれるのか、駅が近づく度に緊張する。
ドアが閉まる前にフェイントで降りる時があるので注意だ。原宿駅から乗って現在、東京駅を過ぎた。外回りでも同じくらいの距離だ。
インカムで誰かが、もしかして囮かも知れませんと言う。でも、外回りで新宿駅に行くかもしれないしと様子を見ようと言う事で我慢して待った。そうしているうちに、原宿駅に戻ってきた。
インカムで、マルタイは囮ではないか?降ろして職質すべきとの意見が飛び交った。どこかで降り損なった可能性もゼロではないが、山手線を2週目はおかしい。
渋谷で職質して降ろし、すぐ渋谷警察署の取り調べ室を借りることになった。韓国語が喋れる捜査員も準備してあったので、その捜査員に声を掛けさせる。
すると、ポカンとした顔をして、頷き捜査員に付いてくる。サンドイッチにして逃げられないように渋谷署まで行く。渋谷署に着いたと同時に聡子に電話をしたりラインしたりした。
ところがラインは既読にならないし、電話は出ない。これはやられた・・・と思った。
韓国語が話せる捜査員はヤスに、あいつは韓国版裏仕事の募集で原宿駅であの封筒を渡すと20万円もらえるというX(旧Twitter)のハッシュタグで言う通りしただけだと言う。スマホを取り上げ見せてもらっても韓国語だしその韓国語の分かる捜査員もそのようだと言っている。
聡子にやられた!聡子にこちらの動きが完全にバレてしまった。きっと今頃・・・。
他の捜査員たちも呆れて撤収し始めていた。アルフレッドに彼女はどんな感じだった?と聞いても普通だったと。何か言ってなかったか聞いたら、う〜んと一旦考えて、

「原宿の部屋には帰れないね。どうしよう。」

と、2回くらい言ったほどで他は別に変わりは無かったとか。ヤスはクソーッ!と思い、カレンに電話した。すぐ出た。

「カレン、聡子はカレンの入店より先にサードフロアには入店していたんだよね。」

「うん、そうだけど。えっ、もしかして何かあったの?」

と察したようにカレンは言う。

「始末書どころじゃ済まないかも・・・。」

とヤスも自分のミスを認める。

「カレンからももう連絡取れないかも知れないけど、連絡してみてね。あと、店長にも何か理由を付けて履歴書を見せてもらって写メもらえるかな。」

「ヤス大丈夫よ。きっと見つかるわ。そんな沈んだヤスの声聞きたくない。」

「聡子の演技にやられたわぁ〜。」

クスッと笑った後に

「ヤスの色仕掛けの方が良かったんじゃない?」

と言われた。それも見破られて逆手に取られたかもしれないと思った。今回は沢山の人に迷惑をかけてしまった。よーし、やられたら、やり返すじゃないけど、1人である程度のとこまで捜査してから応援かけないと、やっぱバカにされるなぁ、警視だってよ?!って今頃言われてるんだろうな。

「何か分かったら連絡して。俺は違う方面から少し強引に攻めてみる。」

とカレンに言うと、

「あまり無理しないでね。今は特に頭に血が昇ってるから・・・。じゃあ履歴書の写メ送るね。頑張って。」

と優しく言われて切った。もはやカレンに裏切られたら人間不信になってしまいそうだ。頭を冷やしに基地に戻ってトレーニングをしに行った。案の定、エリー様から大目玉をくらった。次は失敗しないようにと割と優しかった。
筋トレしながら色々考えた。銃打ちながら色々考えた。次は無い。
今度はこっちから攻撃する番だ。クソーッ!相手に俺の正体がバレたってことは茂原はどうなっているんだろう。アルフレッドにトレーラーヘッドはアップデート完了してると聞いたので、少し睡眠取ってからトレーラーヘッドで明日乙仲〝三協〟の茂原の客のコンテナ運ばせてくれと矢﨑にお願いした。
運送会社の同僚、春山が代わりに休んでいる間も行っていたので、交代してもらった。春山にお礼を言うために電話をした。呼び出し音しないうちに出た。春山が

「お疲れ!久しぶりじゃん!このモテ男め!」

と開口一番言った。訳わからず、

「お疲れっす。えっ、どういうことっすか?俺、まぁまぁモテますけどどうしたんすか?」

とそんなテンションあげずに言うと・・・。

「お〜っと、俺しか多分、分かんないと思うんだけど発見したんだよね〜。」

何言ってるのか分からなかったけど、会話中に送ってきたラインの写メに、あらら・・・と思った。

「俺さぁ、今井ミミ大好きだった。ってか、今でも好きだけど、相当ショックだった・・。」

とさすがSNSマニアだと思った。葛西臨海公園で写り込んだところを切り取ってあった。

「う〜ん、似てるけど俺じゃ無いっすね。」

と普通に言うと、

「俺もそんな風に自分の彼女を隠してみたい・・・。」

と確信的に言われても、認めず話を変える。

「茂原、ありがとうございます。あれから着け場所も変わらないですよね。」

と言うと

「お〜っ、茂原ね変わんないよ。ただ、フォークリフトの人が変わった程度かな。」

あの親切な人辞めたのかぁ〜、それとも別の仕事しているのかな?

「そうなんですね。ありがとうございます。」

と言うと、

「あの仕事、当日配送だから、かなり楽だよね。いいな内藤くん今度ミミちゃん会社連れて来てね。まぁ、いいか。ってか、内藤君は芸能界と繋がりかなんかあんの?今さぁ、俺、暴露系ユーチューバーにハマっててさ、あっ、いやいや内藤君のこと暴露とか、そんなことはしないけど、見る方が好きで知ってる?ナンシーってユーチューバー。ドバイに居てさぁ、芸能人を暴露なんかして登録者数150万人超えているナンシー。」

と今まで見てたんだろう。テンションがユーチューバーみたいだ。たとえ春山がミミのことを言っても知らぬ存ぜぬを通せばいいし・・・。あんま塩対応しないで、

「聞いたことあるんすけど、見たことはないですね。今度見てみますよ。ありがとうございます。」

と興味ありげに言っておいた。電話切った後にさっき話に出た暴露系ユーチューバーのナンシーの動画が送ってきた。ボルボの運転席でアップデートしたところを色々見ながら電話してたので、いつのまにか助手席にアルが乗ってきていた。アルが

「ナンシー、面白いよ。今まで仲良かった芸能人を裏切られたと言いながら、あることないこと真実は分からないけど、色々喋っている。また話が上手いから笑っちゃうんだよね。」

「そうなんだぁ。」

と興味なさげに春山が送ってきたリンク先を開く。
するとボルボの中にある大きなモニターに同じものが写る。ミラーリンクだ。へぇ〜と思い春山とのラインのやりとりに戻るとアルにミミの写真を見られてしまう。慌てて消したがアルが

「マジっすか。俺めっちゃファンなんですよ〜。」

もうアルに隠したら変なので、

「実は、そうなんだよ。俺がさぁ、ミミが芸能人だって知らなかったんだ。」

と言うと、マジっすか?!ってしばらくボーッとしていたので意地悪して一緒に撮った写メを何点か見せた。

「もう今日は寝れません。これは凄いです。」

とアルが苦笑いのような驚いた顔をしている。

「そのうち実物を見れると思ったらワクワクします!」

とアルが期待するような顔をしてたので、

「連れて来るわけないじゃん。」

と一蹴した。

「それで、どこがどうアップデートしたの?」

と言うと、アルがよいっしょと座り直し、

「今回は武器関連を少し。銃の収納場所とか、ロケットランチャーが搭載しています。GPSなど検索されても分からないようにジャミング装置も付けました。これです。」

と一通りあれよこれよと説明した。ロケットランチャーは大きいから車の外で使ってくださいと言うが、外でしか使えないし、使う時あるのか?

「あと、レーダーもこのスイッチを入れるとAIが『何をしましょうか。ヤスさん。』と言います。」

ヤスは要らないのにと内心思った。

「レーダーをお願いって言ってください。ヤスさんの言葉しか反応しませんから。」

「レーダーをお願い。」

するとテレビに飛んでる航空機がグチャグチャ動いて飛行機の形をしてその横にANA023とか便名まで書いてある。

「PAC3の台車を繋いだときに使います。」

「えっ、PAC3ってあの迎撃ミサイルの?」

「そうです。基地にありますよ。すぐ繋げます。」

もう防衛省クラスだな。一通り、説明されてアルは去って行った。シャワー浴びて5時まで寝ることにする。今日は、色々あった。

(つづく)

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