古文単語について考える回(完結編)~大学受験生応援コラム3月
語句問題は案外難しい
’** 0 はじめに ***
当コラムに目を留めていただき、ありがとうございます。大学受験国語の勉強に資する内容提供を目的に書いています。
今月はかなり古い古文の問題を使って、語句問題について考えています。
*今回のイラストは、「別れ」で検索して出てきたものを借用いたしました。一見誰でも描けそう、でもやってみると…という感じが気に入りました。
’** 1 古文単語「ほだし」・・・前回の内容 ***
問題:「去りがたきほだし」の解釈として最も適当なものはどれ?
選択肢:① のがれられない束縛
② 避けられない運命
③ 身動きの取れない重み
⓸ 消し去ることのできない関係
⑤ 断ち切れない固い結びつき
取り上げている問題は上のようなものです。解答は①です。
しかし実は、最も多く選ばれるのは「② 避けられない運命」なのです。
理由の一つは、単語の理解不足です。前回こう書きました。
「ほだし」とは「何かをするのに支障となる人間関係の束縛、例えば情愛」。この「何か」とは何か? そして出題文中の「ほだし」が示す人間関係とは具体的に何か? を考えることがポイント
このポイントを押さえられていないと、間違える可能性が高くなります。このことを、今回は原文の中で確認しようと思います。
’** 2 出題文中の「ほだし」 ***
本文には前書きがついており、吉野(奈良県)の宮が二人の姫君(娘)を都(京都)に移そうとしている場面であることが示されます。冒頭を読むと、まさに娘が京都に移る当日、別れの場面であることも分かります。そこで吉野の宮は二人の娘のうちの長女に対し、私がお前(たち)に会うのはこれが最後だと、別れを告げます。それに続く宮の言葉が以下です。
「年ごろ去りがたきほだしとかかづらひ聞こえて、後の世の勤めも、おのづから懈怠(けだい、なまけること)し侍りつるを、今よりは、一筋に行ひ勤め侍るべきなれば、いみじうなむうれしかるべき」
この太字部分が設問です。
この会話文には「勤め」「行ひ」などの、受験生がよく知っている単語が散りばめられています。この二つは仏道修行という意味を持ち、「仏道と言えば前世の因縁」みたいに連想して「答えは②の運命だ!」となっているのではないか…と勝手ながら想像します。
しかしこれでは、ただの連想ゲームであって、全く本文を無視しています。
もし解答が「② 避けられない運命」だとすれば、本文は、「私は前世からの避けられない運命・宿命にとらわれて仏道修行をおろそかにしてしまったが、今後は修行に専念できる」という意味になります。なんのこっちゃ? おろそかにするのが宿命なのに、今後は専念できるなんて矛盾しています。
せっかく単語の意味を覚えた(と思っている)のだから、知識で即答するというのは、判断としては合理的です。
しかし、ここで注意しなくてはならないのは、
1 単語集には、その単語の全ての意味が書かれているわけではありません。入試古文でよく出てくる意味のみが掲載されています。
2 あなたが覚えたと思っている単語の意味は、そもそも勘違いかもしれません。現に、受験生の「ほだし」の意味理解は、私の見るところ、おおむね不完全なものです。
これへの対応策は、先に書いたように、自分が選んだ意味が正しいか、本文に当てはめて、自分でちゃんと古文を訳して確かめるしかありません。
’** 3 「ほだし」の意味を正しく当てはめてみる ***
では、「ほだし」の意味やポイントを正しく本文に当てはめるとどうなるでしょうか。
引用した部分をもう一度読んでみましょう。先に挙げたポイントを押さえつつですよ。
私は長年、【 A 自分と誰との関係を? 】避けられない【 B 何の? 】支障(これが「ほだし」)と考えて、【 C 誰と? 】関わり合い申し上げ、来世のための仏道修行も、自然と怠けてきましたが、これからは一筋に仏道修行をできるはずですので、【 D 何が? 】たいそううれしいことであるはずだ。
ポイントを踏まえるならば、最低限A、Bを補いつつ読まなければならなくなります。C、Dは補うほうが本文が分かりやすくなります。解答は以下です。
A=「自分と娘との関係を」。「ほだし」は人間関係の束縛でした。吉野の宮と人間的つながりのある人は誰なのか? 本文から分かるのは娘しかいないでしょう。
B=「出家の」。後ろに仏道修行の話が出てくることから判断します。
C=「娘と」。親である以上、子どもの世話はしなくてはなりません。一方、出家すると山寺などに籠り、世間の人々との一切のかかわりを断つことになってしまいます。つまり、子供の面倒を見られなくなります。宮はずっと出家の願望があったものの、娘を育児放棄するわけにはいかず、自分の希望をぐっとこらえて娘を今日まで世話してきた、と言っているのです。
D=「娘が自分と別れて都に行くこと」今回引用した文中にはありませんが、娘を都に行かせるのは娘の将来のためです。そして一方、自分は出家の願望を果たせる。今風に言えばウィンウィンでしょうかね。
’** 4 語句問題は案外難しい ***
以上で見てきたように、単語は訳を知っていればよいわけではなく、押さえるべきポイントというものがあります。現に、単語集は訳だけを載せているわけではなく、解説も併せて掲載されているのが普通です。
ただ、掲載されている全ての語について解説を熟読しポイントを網羅するというのは現実的ではないように思います。もちろん一度は解説を読むべきです(色々発見もあるでしょうから)が、受験生は他の科目も勉強しなければなりません。
そこで学習法としては、試験などで自分が間違えた語や出題された語について、単語集や辞書の説明をきちんと読み、押さえるべきポイントを身につけていくというのが現実的でしょう。一方で普段の暗記作業は、とにかくまず訳を頭に入れていく。。。英単語の学習も同じようなものではないかと思います。
一方で、実際の試験においては、知識だけに頼らず、選んだ答えを必ず原文に当てはめて確認しましょう。先にも書きましたが、単語集は全ての訳を載せているわけでもないし、私たちの語彙理解は案外不完全なものです。このことを忘れてはいけません。
こう考えてくると、語句問題は案外満点通過が難しいものだと分かります。国語教師は「単語なんて覚えたら終わりじゃん」と流しがちですし、そこを間違えると「もっと単語の勉強をしなさい」とつい言ってしまいがちです。しかしここはむしろ、「その意味を古文に当てはめて確かめをしたのか?」と問うべきなのでしょう。問題を解いた時点で意味を知らなかったことをどうこう言っても後の祭りです。
私は、語句問題は一問間違いはしょうがないと割り切っています。全滅は困りますけどね。
というわけで、今回一番のポイントは、「選んだ答えは必ず本文に戻って確認すること」としておきましょう。以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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