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#詩
詩 食卓にコトンと音一つ
食卓に
コトンと音一つ
つかむと冷たい曲線が
指の腹に五つ
支えているのは細い足
一本のガラス
日本酒派の友が
なぜワイングラス
飲み口からにょきにょきと
複数本の長いもの
角ばっているもの
丸いもの
いずれも少し
斜に構えて
この状態を言葉にすれば
「さしてある」
「切っただけよ」と友は言う
一本二本三本と
抜きとってかじる
だいだい……白……黄緑……
かみしめる
若くない心拍に適した
小さな発
詩 頭数
街灯が灯る瞬間を見た
瞬きすると
また灯る瞬間が見える
瞬間と瞬間の間に
とてつもないところへつながる
入り口の気配
軽い興味で中をのぞいて
後ずさり
中は針の孔よりも狭くて
入れそうにないから
肥大した頭たちは
つべこべ言わずに
去りゆく秒を数える
頭数にでもなればいいかと
あきらめれば
チリリ チリリーン
先回りした風鈴が
時の道すがら
鳴り続けている
詩 すみません
つい「すみません」と言っている
この一言で理不尽も
いったんは影をひそめる
そんな便利な言葉
癖になって
互いにむしばんでいる
相手は肥大した足で
荒れ野をこしらえ
私は霧の中で足をくじく
しょっぱなのあやまち
裏返しに置かれたカードを
表向きにして
問う勇気を持たなかった
詩 テントウムシの絵筆
手のひらを大きく開いて
大気にさらす
とまったテントウムシが
宙に打った一点
そこが私の中指の爪のありか
とコトコトはって降りていく
くすぐったい
谷底へ降りたかと思えば
また登りにかかる
ほんとうにくすぐったい
急に止まって一休み
テントウムシは私の絵筆
人差し指のてっぺんから飛び去っても
くっきりと見える
初夏の空に描かれたVの字