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SS|亡霊の花嫁

一人の男が、毎日退屈そうに墓地の見回りをしていた。
いつから始めたのか、なぜ始めたのか、男は全く覚えていない。

その日も、いつものように誰もいない墓地をぶらぶらと歩き回っていると…奇妙なものを見た。

ウエディングドレスを着た女が、墓の前に突っ立っている。

びっくりした男は、思わず墓石の陰に身を隠した。見間違いだろうか。
しかし何度目を擦ってみても、やはり女はそこに立っている。
ついに幽霊に見てしまった…と思った男は、そのまま気付かないふりをすることにした。



ところが次の日も、その奇妙な女は現れた。
前日と同じウエディングドレスを着て、前日と同じ墓の前に突っ立っている。
青白く細い腕が、だらりと力無く下ろされている。じっと俯いたままの顔はよく見えない。
しかし男はその幽霊のことを、怖いとは思わなかった。

そして次の日も、やっぱり女は現れた。
前日と同じウエディングドレスを着て、前日と同じ墓の前に突っ立っている。
男がそっと近づいて、墓石の陰から様子を見ていると…女は肩を震わせていた。泣いているようだった。

男はなぜか放っておけない気持ちになった。
思い切って、女に声を掛けた。

すると女は驚いたように振り向いて、男の姿を見るなり目を見開いた。
男を見つめる目が、涙でキラキラと揺れている。男は、この女を助けたいと思った。

女は男の方に真っすぐ向き直ると、暫く男の顔をまじまじと見ていた。
暫くの沈黙のあと、彼女は静かにこう言った。

「ここに来れば、あなたに会える気がして…救われていたの。でも、もう自由になっていいのよ」
「私たちはずっと一緒。あなたが死んだって、私の気持ちは変わらないわ。ずっと、ずっと…」

今度は男が目を見開いた。涙を流して微笑む女を暫く見つめると、男の目にも涙が溢れた。
二人は何も言わなかった。


やがて男は微笑むと、女の額に優しくキスを落とし、そのまま姿を消してしまった。
その場には、頬を濡らして空を仰ぐ、一人の花嫁だけが残されていた。

「愛してる」


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