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NHK100カメ:フクイチとコロナと特攻隊

少し前になるが、NHKの100カメという番組で、福島第一原発の廃炉作業の様子が放送された。

この100カメという番組では、様々な現場に100台のカメラを設置して、その様子を見るという番組だ。MCはお笑いタレントのオードリーだ。
今回放送されたのは、福島第一原発の一号機の廃炉作業に当っている全国から集まった鳶職だ。

水道なし食事はカップラーメン

廃炉作業自体は、全国から集まった職人さんたちや作業員の人たちが、放射線への被ばくを管理しながら懸命に行っていた。頭が下がる思いだ。
しかし、番組で放送された内容には、驚きの場面が映っていた。

水道なし

まず第一は、未だに福島第一原発の現場には水道が通っていないというのだ。聞き間違いではない。既に事故から13年以上経っているが、水道が復旧していないそうだ。
そのため作業員の人たちは、この猛暑の炎天下の中、全面マスクに防護服を着用して汗だくで作業に当っている。
しかし作業後にシャワーすら浴びることが出来ないようだ。しょうがないので汗拭きシートで体を拭くだけだ。
また浄化槽が復旧していないこともあり、水洗トイレが使えないそうだ。そのため建設現場によくある生物分解方式の簡易トイレを使っているとのこと。
それなら下水を海にそのまま放出してしまえばいいと思うのだが、環境規制とかでできないだろうか?
その一方で毎日何百トンも処理水を海洋放出している。なぜ下水をそのまま海に流せないか、意味不明だ。

食事はカップラーメン

さらに衝撃的だったのが、作業員がとっている食事だ。ほとんどがカップラーメンと菓子パン中心のようだ。しかも下水が使えないので、カップ麺の汁は飲み干すのがルールだそうだ。
虎の子の作業員に毎日塩分と糖質の塊のようなカップ麺ばかり食べさせてどうしようというのだろうか?成人病にでもしようとしているのだろうか?
せめて温かい食事を運べないのだろうか。それこそ冷凍食品でもいいから食事が改善できないのだろうか。

コロナの東京女子医大と同じ構図

この現象は今に始まったものではない。
例えば新型コロナが流行した時の看護師さんたちの待遇だ。
その中でも特に有名なのが、東京女子医大だ。

東京女子医大では、コロナ禍で外来患者が急減したとことで収入が激減した。さらに東京都の大病院として、特に距離が近かった新宿歌舞伎町の夜の街関係者の隔離先として、ホストなど大量のコロナ感染者の受け入れを行った。
コロナ病棟に配属された看護師は、全面マスクに全身防護服を着用して何時間もの連続勤務を強いられた。中には、トイレに行けないのでオムツをして勤務に当たった看護師もいたそうだ。
また仕事が終わった後も、感染防止のため自宅に帰ることが許されず、病院の近くのビジネスホテルに缶詰めになり、ホカ弁やコンビニ弁当で飢えを凌ぐという過酷な状況だったようだ。
しかし、何カ月もの試練に耐えた結果は、病院の収入減を理由にしたボーナスカットという理不尽なものだったそうだ。
そして400人以上の看護師の大量退職のニュースが流れることになった。

予科練パイロット

この危機に際して現場の最前線で活躍する人たちを軽視する現象は、今に始まったことではない。古くは第二次世界大戦の南太平洋での航空戦が有名だ。
太平洋戦争では、従来の巨大な大砲を積んだ戦艦や、大量の歩兵に代わって航空機が戦場の主役となった。
そして日本軍の代表的な軍用機と言えば、やはり「ゼロ戦」だろう。
この「ゼロ戦」を操縦していたパイロットの多くが「予科練」と呼ばれる水兵や下士官のパイロットたちだった。

少尉や中尉、少佐や大佐などの位の付くエリート軍人を普通は将校と呼ぶ。日本軍の場合彼らの大半は、陸軍なら陸軍士官学校、海軍なら海軍兵学校出身だ。ちょうど霞が関の高級官僚の大半が東大法学部出身なのと同じ、いやそれ以上に戦前は彼ら陸海軍将校は、全国民憧れのスーパーエリートだった。
一方でパイロットの大半を占めた「予科練」出身者の位は、基本的に兵隊(水兵)だった。
この兵士と将校の待遇には、物凄い待遇格差があったらしい。
例えば海軍将校の場合、一番位の低い少尉でも”従卒”という召使のような世話係の兵が付いたそうだ。この従卒は、将校の洗濯や部屋の掃除など身の回りの世話を全て引き受けていたそうだ。戦前の海軍将校の写真を見ると、全員パリッとした白い制服を着ているが、あの真っ白い制服は従卒がアイロンがけしたものだろう。

また食事も将校と水兵は別で、戦闘中以外は、将校は専用の食堂で給仕付きで食事をとっていたそうだ。特に戦艦大和のような大型艦の場合、将校が食事をする将校食堂は、まさに高級ホテルのレストランのようだったらしい。そして水兵の給仕付きで、昼食は松花堂弁当、夕食はフランス料理のフルコースなど豪華な食事が提供されていたそうだ。

一方で兵隊(水兵)の生活は、悲惨だったらしい。まず寝るのはハンモックだ。
そして船の上では、例えば真水は一日洗面器二杯分しか支給されなかったそうだ。この二杯分の水で洗顔から歯磨き、そして濡らした手拭いで体を拭いて、最後は洗濯までしていたそうだ。風呂は週に二回程度しか使えなかったらしい。そのため水兵の間には、皮膚病が蔓延していたとの話もある。
また水兵に対しては、「壮絶な体罰」が行われていたのも有名な話だ。

そして、ここで問題になるのが、予科練パイロットが水兵の待遇だったということだ。つまり彼らは、日中はゼロ戦に乗り敵と空中戦を戦い、夜は自分で洗濯をしたり身の回りの世話も自分でしていたということだ。
食事も、毎回豪華な食事の出る将校とは異なり、基本的には「水兵の粗末な食事」だった。

居眠り飛行で墜落

この待遇の格差が大きな影響を与えたといわれているのが、有名なラバウル航空隊によって戦われたガダルカナル戦を中心とする南太平洋での航空戦だ。
ガダルカナル戦では、海軍航空隊のゼロ戦が、基地のあるラバウル島から前線まで片道約千キロ、約三時間の飛行を強いられた。三十分程度の戦闘時間を含めると往復で六時間以上の飛行になる。
この長時間の飛行を、当時のラバウル航空隊のゼロ戦パイロットは、休みなしに連日強行した。
その結果は破滅的だった。
当初は米軍に対して無敵を誇っていたゼロ戦隊も、連日の飛行から疲労が蓄積したのか、戦いの後半になると飛行中に「居眠り飛行」をする隊員が続発、かなりのゼロ戦が「居眠り飛行」で墜落したそうだ。この話は、「永遠のゼロ」で有名な百田尚樹氏の雑誌記事にも出てくる話だ。

一方で、アメリカ軍は、パイロットを全員将校待遇とした。全てのパイロットには、可能な限り従卒がつき、身の回りの世話は全て従卒が行うようになっていた。
また食事も配慮がされ、朝は玉子とペーコン、そしてパンケーキ、夕食にはステーキが出されるなど、可能な限り本国と同じような食事が出されたそうだ。そして何よりパイロットには、戦闘中以外は、「睡眠を取る」ことが求められたそうだ。

MBAによる計算

重要な点は、この日米のパイロットの待遇の違いが、国民性や民主主義とは全く関係がなかった点だ。
米軍では、日本と太平洋戦争を戦うに当たって、今でいうMBAの資格を持つ人間が、勝利に向けてコスト計算を行ったそうだ。所謂オペレーションリサーチと呼ばれるものだ。
この調査の結果判明したのが「パイロットの生存率の重要性」だ。
飛行機や戦車などは、女子供を使って軍事工場でいくらでも大量生産できる。
一方でパイロットになれる人間は数が限られる。パイロットになれるのは、厳しいテストに合格した非常に少数の人間だ。
また初期の日本軍との空中戦を分析した結果、特にビギナーのパイロットの損耗率が異常に高いことが判明した。
こうして米軍では、勝利の鍵として「パイロットの人命」が一番重要な項目として認識されるようになった。パイロットの生存率を高めることが出来れば、いずれ消耗戦から日本軍は崩壊するとの結論だ。
米軍では、この調査結果を受けて、パイロットの損耗を減らすための施策が実施された。
例えばパイロット全員の待遇を将校並みにすること、十分な食事や睡眠を取らせることなどだ。
また新人パイロットの初陣には、ベテランパイロットを付けるなど、パイロットの生存率を高めるために、あらゆる配慮がなされた。また戦闘か予想される海域には、予め脱出したパイロットを救助するために潜水艦や飛行艇が配置されていたそうだ。
実際に、当時海軍のパイロットだった後のブッシュ大統領(父)は、第二次大戦中に搭乗していたアベンジャー雷撃機がゼロ戦に撃墜された際、脱出した後に海上で潜水艦に救助され九死に一生を得ている。

このままでは廃炉が止まる

フクイチの廃炉作業の現場を見ていて、この先も廃炉作業が順調に進むのか不安を覚えた
ただでさえ少子高齢化の日本では、今後、廃炉作業にあたる人員の確保に苦労することは予想に難くない。
鳶職やクレーンオペレーター(そして看護師も)などは、言うなれば「現代のゼロ戦パイロット」だ。この人たちの待遇を改善せずに本当に廃炉ができるのだろうかと大いに疑問を抱いた。

PS.デブリ取り出し中止

この文章を書いている最中に、フクイチで、正に心配している事態が起きたようだ。
原子炉の底にたまっている「デブリ」の回収作業の過程で、ロボットアームの組み立て作業で単純な組み立てミスが発生し、デブリ回収作業が中止されたらしい。

なんでもロボットアームの組み立て作業を、発注者の東京電力が確認していなかったと言うのだ。
普通の常識では、考えられないミスだ。
もしかしたら、

東電の人間は、ちょうど80年前の海軍将校のように当事者意識を失いつつあるのかもしれない。





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