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2つのアイリス

偶然にも、2つのアイリスが重なった。
同じ日同じ街で、こんな人生の交差を目の当たりにするなんて。

先月、友人に会う為に上京した。
一泊二日の一人旅。
両日とも彼女と約束していたものの、
合流するまでにまだ時間があった。

下調べしてあった美術館。
ちょうど、「ゴッホと静物画」展の会期中だ。
時計と携帯の中の地図を片手に
いそいそと会場へ向かった。

ひまわりではなく、アイリスが前面に

アジアで唯一、ゴッホの『ひまわり』を所有するSOMPO美術館。
アクセスしやすい立地と抜群の知名度で、
あっという間に入場待ちの長蛇の列。
さすがの盛況っぷりだった。

美術鑑賞も読書も趣味のひとつ。
原田マハさんのアート小説はよく手に取るが、
自分から遠くかけ離れた存在であっても
その人の文化的背景や交流関係を辿ると
生身の人としての輪郭がみえてくる。

対象が現実的にぐっと身近に感じられる瞬間が
たまらなく好きなのだ。

黄色一色の表現への探究心
5作目のひまわりである今作は、共同生活を送っていたゴーギャンとの仲が芳しくなくなってきた頃に描かれた
元々赤紫のアイリスが描かれていていたが、
経年による色落ちで鮮やかな青になったのだそう
ひとめぼれしたアネモネ
ルノワールの描く線や色の柔らかな多幸感に包まれた
ふたりのレスラーの絵の上に描かれた野牡丹とばら

存分に鑑賞し、余韻に浸ったまま
待ち合わせ場所である国立新美術館へ。

「イヴ・サンローラン展」

今回の友人からの誘いがなければ、
きっと足を運ぶことはなかっただろう。
日頃ハイブランドとは縁がない。
イヴ・サンローランの人物像については
映画の中でのイメージがあるくらい。
未知の世界をのぞき知るいい機会に恵まれた。

訪れたことのない異国を本や資料を元に想像して
デザインに落とし込んだコレクションや
熱心に舞台衣装を手掛けていたことなど、
初めて見聞きすることが多く興味深かった。
ファッションもまた芸術のひとつ。
美術館で展示される意義について
ぼんやりと思いを巡らせているとき、
壁一面の大きなショーケースが目に飛び込んできた。

先達アート作品との華麗な融合


そして、みつけた。

イヴ・サンローランのアイリス

ぶわっと自分の中でなにかが駆け巡った。
時を越え、確固たる別の意思のもとに生まれたオマージュのアイリス。
間接的に交差したゴッホとサンローランの人生。
それを今、偶然にもほぼ同じ場所と時刻に
ほとんど並んで眺めたのだった。

取るに足らない大衆のひとりの人生に
2人の2つのアイリスが交差した。
目の当たりにした奇跡に、心が震えた。


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