2022/12/01映画の日『母性』

12月1日は、映画の日

映画の日は、一般社団法人・映画産業団体連合会(映団連)が1956年(昭和31年)に制定。
1896年(明治29年)11月25日~12月1日、神戸の神戸倶楽部において日本初の映画の一般公開が実施され、この会期中できりの良い日の12月1日を記念日とした。記念日は映画の一般公開60周年を記念したものであり、日本における初めての映画の有料公開という「映画産業発祥」を記念した日でもある。

ということで、この日は2本の映画を見てきた。
1本目は『すずめの戸締まり』、そして今回は2本目に見た『母性』の感想を書こうと思う。

ちなみに、映画の日には、様々な映画館で割引をしていて、私はTOHOシネマズを利用したのだが、なんと映画が全部1,000円だった!

母性 あらすじ(ネタバレ注意)

女子高生転落事件の報道

ある日、女子高生の転落事件が新聞で報道される。新聞記事によると、女子高生は首にロープを巻いた状態で自宅の庭に倒れており、第一発見者である女子高生の母親は、「愛能うかぎり、娘を大切に育ててきた」と証言したという。記事を読んだとある女性教師は、新聞記事の母親の証言の「愛能う限り」という表現がわざとらしいと疑問を抱く。すると、事件は同僚の男性教師の前任校で起こったものと分かる。
男性教師曰く、彼女は自殺するような人ではなかったが、噂では母親との不仲説があったという。
二人の教師は、行きつけの居酒屋りっちゃんで、母親と娘の関係性について話を始める。

母親の証言

場面は教会の懺悔室へと切り替わる。戸田恵梨香演じるルミ子が、神父に向かい、自らの思いを告白する。

ルミ子は、母親(大地真央)を心から愛しており、母親の喜ぶ姿に喜びを感じ、母の意見は絶対に正しいと信じ、母から注がれる愛情をまっすぐに受け止めて育った。その振る舞いや住まいから、裕福な家庭で育ってきたことが伝わる。

ルミ子は、通っていた油絵教室で、のちに夫となる田所(三浦誠己)と出会う。
ルミ子は、田所の描く油絵が好きではなかった。何だか暗いからだ。田所が描いた薔薇の絵も、はじめは好きではなかった。しかし、ルミ子と田所、それぞれが描いた薔薇の絵画が展示されることとなり、ルミ子は最愛の母と絵画を鑑賞していた。すると、ルミ子の母は、田所の絵を「命が最も美しく輝く時を知っている人が描いた素晴らしい作品だ」と言った。ルミ子は、母の言葉を聞いて、田所のことが気になり始める。
ルミ子は、母のために田所に薔薇の油絵を譲って貰えないかと交渉し、それをきっかけに田所との仲を深めていく。薔薇の絵は、ルミ子の母親の元に届き、母はその絵を自宅の玄関に飾った。ルミ子は田所の絵を暗いと言うことはなかった。
田所との三度目のデートで、ルミ子は田所からプロポーズを受ける。ルミ子は「母にあってほしい。母の意見を聞いた後に返事をする」と答える。
自宅に戻ったルミ子は、母に田所のことをどう思うか尋ねた。すると母は「湖のような人。感情を湖の底に秘めているのかもしれないけれど、ルミ子はお日様のようにキラキラとした子だから、彼はルミ子と一緒になることで、自分の感情をキラキラとしたお日様のもとに引き出して欲しいと思っているのかもしれないわね」と心からの笑顔で応えた。
一方、ルミ子と同じ絵画教室に通い、田所の幼なじみでもある
仁美(中村ゆり)からは、田所との結婚に難色を示される。田所自身が厄介な性格であることもその理由だが、なにより田所の母親(高畑淳子)がかなり気難しい人間で、仁美自身も昔からよく叱られてきたため、お嬢様のルミ子が田所家に嫁ぐと、姑の当たりの厳しさに精神を壊してしまうのではとのことだった。ルミ子は、よく考えてみる、と応える。
その後、ルミ子は油絵教室で田所に「私とどんな家庭が築きたい?」と尋ねる。すると、田所は「美しい家庭を築きたい」と答えた。ルミ子は、田所のその答えを聞いて、母親の考えはやはり正しかったのだと確信し、田所との結婚を決意する。

田所と結婚したルミ子は、美しい家で、美しい家庭を築いていた。そんなある日、ルミ子の妊娠が発覚する。ルミ子は、自分の中の得体の知れない生物が、自分を貪り食い破って出てくるかと思うと、恐ろしくてたまらなくなり、母に助けを求める。
母は、怖がらなくていい、私は私の命が未来に繋がっていくことが心から嬉しいと言い、ルミ子は安心する。
ルミ子の娘清佳(子役・落井実結子/永野芽郁)が幼稚園に通うようになる頃、ルミ子の母は清佳の道具袋に得意の小鳥の刺繍を施す。喜んだ清佳は、祖母に次はピアノ用のカバンにキティちゃんの刺繍をして欲しいと頼む。それを耳にしたルミ子は、せっかく母が施してくれた刺繍よりも、既製品をねだる娘の発言に驚き、作っていた娘の弁当を床に落としてしまう。そして、お弁当の中身を片付けに来た娘に対し、ピアノの鞄も小鳥の刺繍で揃えた方が周りに小鳥が好きなことが伝わるから良いのではないかと諭す。娘の発言が信じられないルミ子であったが、清佳は祖母にやはり小鳥の刺繍のピアノ鞄が欲しいと言い、ルミ子の母は、後日小鳥の刺繍が入ったピアノ鞄を清佳に送るのだった。

そして、ある嵐の夜、事件が起こる。その日はルミ子の母がルミ子宅に来ていた。田所は仕事に出ていた。夜、酷い嵐で停電したルミ子宅。ロウソクを灯してあかりを確保するが、雷鳴に怯える清佳は、祖母と共に眠ることを強く懇願する。ルミ子は難色を示し、ルミ子と田所の寝室で三人で眠ることを何度も提案するが、結局ルミ子の母と清佳は、2人で別室で眠ることになった。
その日の深夜、ルミ子の母は強い雷雨の音で目覚める。すると、大木がルミ子の母と清佳が眠る寝室の窓を突き破り、ルミ子の母達は木で押し倒されたタンスの下敷きになる。そして、居間ではロウソクが倒れ、部屋中に炎が燃え移ってゆく。
ガラスが割れる音で目覚めたルミ子は、急ぎ母の元へ向かうも、倒れた家具が邪魔をして母と娘が眠る部屋の扉からは片腕を伸ばすのがやっとの状態であった。ルミ子は必死で母を助けようと手をのばすが、母から、「私ではなくあなたの娘を助けなさい。あなたはもう娘じゃない、母親なのよ」と言われる。ルミ子はそれでも「ちがう、私は娘よ」と叫び、必死で母の手を掴むが、母はそれを振り切る。曖昧な記憶の中、結局ルミ子は清佳と2人で燃え盛る家から逃れるのだった…。

娘の証言

ルミ子の娘、清佳(永野芽郁)は、幼い頃から大人の反応を気にする子供だった。清佳は、ルミ子がいつも自分ではなく祖母を喜ばせることが出来る自分のことを褒めていることに気づいていた。幼稚園の発表会でルミ子にとっての義母をもてなした日も、ルミ子の母と戯れる時も、母は自分ではなく祖母たちだけしか見ていなかった。
祖母が家に来る日は必ず、気に入られるような振る舞いをするようルミ子から何度も言われていた。毎日、その日の出来事を母に報告することが清佳の日課であり、そこで母に褒められることが楽しみだったが、母は、自分のことを純粋に褒めることはなかった。祖母たちが喜んでくれた行いしか、褒めてもらえることはなかった。
一方で、ルミ子の母からは無償の愛を受け取っていたことを確信していた。ルミ子の母から小鳥の刺繍の入った道具袋を貰った時は心から喜び、次は祖母が刺繍してくれた、世界で一つだけの自分の好きなキャラクターのピアノ袋が欲しいと思った。しかし、祖母と母には、自分が既製品をねだったのだと勘違いされたのかもしれない。私の発言の後、母は自分の弁当箱を床に叩きつけた。慌てて片付けを手伝いに行くと、やはり小鳥の柄の刺繍をお願いした方がみんなに小鳥が好きなことを分かってもらえるのではないかと言われる。清佳は「でも…」と自分の気持ちを離そうとするが、ルミ子に真顔で「でも…?」と他の意見を許さぬ剣幕で返され、清佳は何も言えなくなってしまう。

そして、件の祖母との別れの日が訪れる。煙の匂いがする中、清佳は母と祖母との会話は断片的にしか聞こえなかった。そして、母の手で燃え盛る家から救い出されるのだった。

母と娘の証言

ルミ子の母が亡くなってから、事故の日のことが語られることは1度もなかった。
ルミ子達一家は、田所の実家に離れを建ててもらい、そこで暮らすようになる。田所の母は、以前仁美が言っていたように、ひどく口うるさい人だった。ルミ子は毎日、田所の母にひどくいびられながら、文句ひとつ言わず田所の家の家事や畑仕事の全てをこなしていた。
高校生になった清佳は、そんな田所の家で、居所がなくいつも肩身のせまい思いをしていた。田所の妹の律子(山下リオ)も田所の実家に住んでいたのだが、律子には甘く、ルミ子に厳しい祖母にいつも腹立たしさを覚えていた。清佳は一度、祖母に対して「お母さんはいつも家事を頑張っている。りっちゃんは何もしていないのに」と言ったことがあったが、律子は働きに出ているからと、言いくるめられてしまう。その日の夜、ルミ子はベッドの中に横たわる清佳に「なんで、なんでなのよ、、、」と言いながら、清佳を布団の上から殴り、泣き続ける。部屋の外から様子を見ていた田所は何も言わずその場を立ち去り、清佳は目覚めぬふりをしながら、涙を流した。

翌日、母の負担を少しでも減らそうと、清佳はルミ子の家事の手伝いを申し出る。しかしルミ子は、私が望んでいるのはそんなことでは無い、と清佳に吐き捨てる。
ルミ子は、義母のおかげで今自分達は生活できており、義母に心から尽くせば、義母から好いてもらえると信じているのだ。

清佳は、幼い頃からの母の教育や田所の実家での生活の中で、真面目で正義感が強く、遊びのない性格になっていた。同級生の亨から、自身の性格を指摘された際も、その意図を理解出来ないでいた。

ある日、田所の妹律子は、離の家のルミ子を訪ね、恋人の親の借金を返すために100万円を貸してほしいとお願いする。ルミ子は返答に困り、田所に相談すると言ったが、律子はもう良いと離れを飛び出す。
ある晩、律子は恋人を連れて田所家にやってきたが、その恋人は金目当ての男であることは明らかであり、田所家から交際を猛反対される。ルミ子は、律子のことを可哀想だと言った。それを聞いた清佳は、母は自分と同じ考えなのだと知り、律子を助ける決心をする。
翌日、清佳は駆け落ちしようとする律子を見張るよう祖母に言いつけられる。しかし、律子に懇願され、清佳は律子を家の外に出すのであった。
祖母は清佳に激怒し、駆け落ちした律子を求め、毎日泣き暮らすようになる。いたたまれなくなった清佳は、律子の居所の手がかりを求め、律子の部屋へ忍び込む。その際、父親の日記を見つけ、父は幼なじみの仁美とともに、学生運動に明け暮れていた過去を知る。
清佳は、図書館で当時の資料を調べるも、父は何に対し怒り、暴動を起こしていたのか理解できなかった。
家では、すっかり牙の抜け呆けてしまった祖母を、ルミ子は変わらず支え続けていた。ある日、清佳は、おばあちゃんを施設に入れないかとルミ子に持ちかけるが、ルミ子は信じられないと言った表情で「私たちがここにいられるのはお祖母様のおかげなの。それなのに、どうしてそんな酷いことが言えるの。」と言い、その場を離れてしまう。清佳の母親を解放したいという思いは、義母にもに尽くすことで愛されたいと思うルミ子にとっては、厄介に感じるものだった

ある日、清佳は亨と下校時にバスに乗ろうとしていた所、反対方向からやってきたバスから父親に似た男が降りていくところを見掛ける。清佳は亨に予定があると嘘をつき、男の跡をつける。男は、ルミ子の実家であり、現在はルミ子の友人仁美に貸している家へと入っていった。清佳もルミ子の実家へと忍び込むと、そこでは、父親と仁美が仲睦まじい様子で話していた。父親と仁美は、不倫関係にあったのだ。
清佳は父親と仁美に向かって信じられない、気持ち悪いと吐き捨てる。そして、父親に離婚するのかと尋ねると、田所は「それはありえない」と即答した。清佳は、 「それでは母が可哀想だ、おばあちゃんや畑仕事の全てを母に押付けて、自分は学生運動に共に明け暮れた仁美と当時の思い出に浸って、2人は現実から逃げているだけではないか」と叫ぶ。すると、仁美は「あなたこそ、実の母親にベッタリだったルミ子に好かれようと必死じゃない。ルミ子はあなたなんか見ていないのに、あなたはルミ子に好かれることを望み続けている。まぁ、ルミ子の母親はあなたを守るために自殺したんだから、ルミ子は貴方に対して割り切れない思いがあるのだろうけれど。」と言った。
清佳は祖母の自殺という初めて聞く事実に、衝撃を受ける。そして、どうしようもない強い感情に突き動かされ、ワインのボトルを投げ飛ばしてルミ子の実家を飛び出す。
そして清佳は、学生運動に明け暮れた者たちの気持ちに気づく。自分の中の強烈な怒りや悲しみは、自分の周りに吐き出してしまうと、自分自身が傷ついてしまう。だから、彼らは叫んでも誰も傷つかない抽象的なことや大きなことに対して自らの心な中の苦しみを吐き出していたのだと。

ルミ子は、清佳の様子がおかしいことに気づいていた。義母の施設の件で自分が清佳に強く当たりすぎたからだと思い、ルミ子は、その日清佳が帰ってきたら優しく声をかけ出迎えるつもりでいた。
しかし、清佳はルミ子の実家での修羅場のあとで中々帰ってこない。そんなことを全く知らないルミ子は、帰りの遅い清佳の様子を見に、玄関先に向かう。すると、そこには、これまで見たことのない悲しみを湛えた表情の清佳がいた。ルミ子は優しく清佳にどうしたのと語りかける。すると清佳はルミ子に尋ねた。「おばあちゃんは、私を守るために自殺したって本当なの?頸動脈を切って死んだって、本当なの?」
それを聞いたルミ子は動転してその場に座り込む。清佳は、自分のせいで祖母を殺してしまった罪悪感から、ごめんなさいと泣き叫びながらその場にへたり込む。

ルミ子はそんな清佳に近づき、無表情で「愛している」と言いながら優しく抱きしめる。
清佳は一瞬抱きしめられるのかと思った。しかし、母親は無表情で「愛してる」と、言いながら、清佳の首を絞めていたのだ…。
このまま母に殺されてしまっては意味がないと思った清佳は、首を絞める母の手を振り解き、離れの家に逃げ込む。そして、自らの意思で実家の大木で首を吊った。

庭からドサリと鈍い音を聞いた義母は、地面に横たわる清佳を発見する。そのあと、ルミ子も首にロープを巻いた状態で倒れる娘の姿を見て、何も出来ずにその場に立ち尽くす。そして、倒れている清佳に触れ、何度も清佳の名前を呼ぶ。清佳は、失われていく意識の中、誰かが「さやか」と呼ぶ声を聞く。そして。そういえば自分の名前が清佳だった事に気づく。清佳は、誰からも自分の名前を呼ばれずに生きてきたのだ。
そして、死に近づく中でも、清佳は自分の名前を呼んでくれる人が自分の母親だったらいいのに、と、まだ思っていたのであった…

結末

清佳は、ルミ子が付きっきりで見守る中、病院で目を覚ます。清佳は生きていたのだ。
そう、これは女子高生転落事故についての物語ではなく、女性教師の実体験だった。その女性教師こそが、大人になった清佳だったのだ。
大人になった清佳は居酒屋で母性について話し出す。
「人間は、母性は生まれながらに女性に備わっているものだと思い込んでいるけれど、私は後天的に育っていくものではないかと思う。人間の中には、生まれつき母性が無い人もいるのだ。」
そして、同僚の男性教師にこう放つ。
「女には二種類いる。母と娘です。世の中には、ずっと誰かの娘であり続けたい女もいるのです。」

清佳は高校の同級生の亨と結婚し、子供を宿していた。行きつけの居酒屋の女性店員から、「もしかして、妊娠してる?どっちか分かった?」と問われ、「うん、女の子みたい」と答える清佳。その視線の先には、かつて駆け落ちをして田所の家を去った律子の姿があった。

居酒屋からの帰り道、清佳は母親に、電話で妊娠したことを伝えた。すると、ルミ子はこう言った。
「怖がらなくて良いのよ。私たちの命を未来に繋いでくれてありがとう。」
それは、かつてルミ子が自身の母に言われた言葉そのものだった。

母性 感想

わたしは湊かなえの原作小説を読んでいなかったので、予告動画だけを見て、女子高生転落事件の真犯人を見つける話だと思って映画を見始めた。そしたらなんだか様子がおかしい。実際は、永野芽郁演じる真面目な女性教師と、戸田恵梨香演じるずっとだれかの娘であり続けたいと尽くす母親との悲しい親子の物語だった。
何が悲しかったのかというと、清佳が首を吊るまで、誰も満たされていなかったということだ。

ルミ子は、最愛の母を失い、厳しい義母の元で献身的に尽くすが、義母からは娘のように愛しては貰えなかった。それでも、義母のことを決して恨まず純粋に思いに応えようとする健気さと、田所や実の娘である清佳に対しての無関心さを、戸田恵梨香が迫真の演技で表現しており、作中ではルミ子の異常なほどの娘であることへの執着が描かれていた。

清佳は、常に祖母達のために振る舞う母からの愛情にずっと飢えていた。

田所は実家とルミ子の間に入ることから逃れ、仁美と共に現実逃避をすることで自らを保っていたが、逃げている最低な自分に気づいていた。

仁美は、田所と割り切った関係を築き、ルミ子の実家で不自由なく暮らすが、割り切っていたとはいえ、ルミ子を利用し愛する田所と不貞関係を続けていた。

田所の母は、最愛の娘律子の駆け落ちによりぼけてしまう。

律子は、金目当てだと分かっていながらもその男と駆け落ちし、おそらく自分の力で多くの試練を乗り越えることを課された。

ルミ子の母は、最愛の娘に、自らの命を以て我が子を愛することの幸せを伝えようとしたが、それがルミ子に伝わっていたのかは定かでない。

しかし、大人になり、自らも結婚した清佳の周りの状況は、少し好転していたように思う。

ルミ子は相変わらずボケた義母の介護に明け暮れていた。しかし、義母は実の息子である田所のことは忘れ、ルミ子のことを実の娘だと言い、ルミ子に素直に感謝していた。ルミ子は、満足そうな顔で義母を見つめながら介護をする。再び、誰にも邪魔をされることのない環境で誰かの娘になれたのだ。

義母は「よくできた娘」に介護をしてもらって幸せを感じている。

律子は、最愛の人と出会い、居酒屋を開くことができた。

清佳は、自分自身は、母と娘、一体どちらの女なのだろうと、少し不安を抱きつつも、最後は前向きな笑顔で亨の元へと帰路に着く。

 結局、ルミ子と清佳はそれぞれの 母と娘として愛し愛されたい という欲求をお互いに補完することはできなかったと思う。それは、ルミ子の中の娘の感情が清佳の母として生きることに違和感を感じていたからであり、清佳はそんなルミ子に気づきながらも、ルミ子に母親としての普通の母性を求めていたからだ。
でも、自殺未遂から生還し大人になった清佳は、母のことを理解することができた。ルミ子は「母の証言」の章の冒頭にいた懺悔室で、「私は、間違っていたのです」と自らの行動を省みることができた。
そこから、2人の関係性は、それなりに再構築されていると思う。
しかし、ルミ子と清佳の関係性が普通の母娘と同じものになることはないし、これからも2人はすれ違いながら、それぞれ愛されることを求め続けてしまうのだろう。
しかし、完璧な親子関係など存在しないと思う。誰しも、相手を完璧に理解し、相手を完璧に愛し、相手からも完璧に愛されることは不可能なのだ。

これからルミ子と清佳は、それぞれの生活を送りながら、2人だけの母と娘の関係を築いていけると思う。


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