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好きなことを続ける

合唱生活9年目の秋。
人生2度目の全国大会。


「ゴールド、金賞!!」
司会者の声がかき消される程の歓声が、ホールのあちこちから上がる。さすが合唱人と言わんばかりのいい声がホールに響く。結果発表と言えど、学生の頃のような緊張感はなくて、どちらかと言うと会場全体がワクワクで包まれているような気がする。私たちの番は最後の方で、今か今かとその瞬間を待ちわびていた、その時。
前の団体の結果発表がされて、みんなの気持ちが司会者の声に全集中する。
「ゴールド、金賞っ!」
何かが放たれたように溢れ出す声。こぼれる涙。発表前、「結果で一喜一憂しちゃダメだよ」と笑った指揮者の先生も思いっきりはしゃいでいる。大人になってもなお、あれほど喜び、涙できるのは、本気になれるものがあるのは、どれだけ素晴らしいことなんだろうと思う。青春は、終わってなんかいなかった。まだまだ加速している真っ最中だった。


『全国大会金賞』
合唱をやっている人間なら、1度は夢見たことだろう。1度は目標として唱えた言葉だろう。私は、これまで誰かがその言葉を口にする度、「取れるわけないだろ」と内心、馬鹿にし続けてきた。それがついに、手に入ってしまった。意外にもあっさりと。

「私には力がなかった、、、」と中学生活最後の全国大会後に悲しそうに笑った中学の顧問の先生の顔を思い出す。私の中学は、銅賞だった。先生はすごく怖かったけど、優しくて、愛情深くて、強い人だった。中学生活で負った傷は大きく、今でも辛くなる瞬間はたくさんあるけれど、先生から得たものは今日の私の生きる糧となっている。あの時間がなければ、間違いなく私はこの場には立てなかった。あの時間がなければ、私は今日、こんなにも合唱を愛していなかった。そう思うと、指揮者にかけられるメダルが、時を越えて、先生の首にもかかったように見えた。あの頃の自分が、ようやく報われた気がした。


私の周りの大人たちは、毎日仕事をしていて、その中で毎週土曜の夜に集まって歌っている。それを継続することは決して簡単ではないと思う。団に入るまで、大人はそれなりに絶望して、何かが抜け落ちたような顔をして、生きているのかと思っていた。でも意外にもそんなことはなくて、社会人になっても、すごく楽しそうで、社会人にしかわからない話題で楽しそうに笑っていたりもする。

大人も意外と悪くないなって、思った。
早く大人になって、みんなともっと対等にお話ができるようになりたい。
私はまだ子供だから、みんなの大変さとか辛さとかが全然わからない。
もっとみんなと同じ感覚でお話がしたい。

入団する前は、大人になんかなりたくないと感じていた。
これ以上自分の人生に、幸も不幸も、何もいらないと感じてて、20歳で死んじゃっていいやって思ってた。もう辛い想いをしたくなかった。
でも入団してから、もっと先を見てみたいと思った。
みんなが結婚したり、子供が生まれたり、今練習に来ている小さい子の成長を見守ったりしたい。あわよくば私のこれからだって、見せたい。
だからまずは、早くみんなと同じ大人になりたい。

これから先、辛いことや悲しいこともあると思うけど、好きな人たちと好きなことを続けられたら、大丈夫なんじゃないかなと思う。
みんなと出会って半年。大好きな合唱がもっと好きになった。好きなことを続けることは、これから先の私にとって、これから先を生きる理由となるのだと思う。

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