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「清潔」と「清潔感」の違い

なんとも不思議な人がいる。
それは、清潔感にいまいち欠けている人である。
その人の暮らしぶりをそれとなく窺ってみると、
朝ちゃんと顔を洗って歯を磨いている様子だし、
お風呂にもきちんと毎晩入っているようである。
洗濯も定期的にしているみたいだ。
だから、決して不潔なのではない。
けれども失礼を承知の上で言わせていただくと、
なんだか全体的にくすんでいるというか、透明感がないのである。

そして、こういった人とは正反対の人というのが存在するのも事実だ。
実際の暮らしぶりは決して清潔とは言い難い、
けれども、なんとなく醸し出す雰囲気に清潔感がある、という人。

はて、これはどういった現象なのだろう?
私はなんとか原因を突き止めようと、
得意の人間観察をしたり、過去の経験を記憶の中から掻き集めてみたりする。

あるひとつの、遠い記憶がよみがえる。
それは会社勤めをしていた頃のこと。
私は、毎日ちゃんとハンカチを持ち歩いていた。
若い頃はアイロンをかけないといけないタイプのハンカチを使っていた。
でも、アイロンをかける行為がどうにも面倒で、
ちょうどタオルハンカチが世に出回り始めた頃に、
思い切って持っていたハンカチを全てタオルハンカチに取り替えた。
ちゃんと毎日洗濯済みのものに取り替えて持参していた。

ある時、机の上にハンカチを置いて仕事をしていた。
するとそこへ、少しだけデリカシーにかける同僚(男)がやってきて
ふと、こう言ったのである。

「これ、台拭き?」

!?!?!?
一瞬私は頭が真っ白になった。
そして咄嗟にハンカチを引き出しに隠し、
「……失礼ね!(怒) これはハンカチ!!!」
と、やっとの思いで言い返した。
とても恥ずかしかった。

その後、私はずっと考えていた。
どうして毎回きちんと洗濯しているハンカチが台拭きに見えたんだろう。
清潔にしているのに、なぜ……???
けれどもしばらくハンカチを見つめていると、
なんとなく理由がわかった気がした。
使い込んだことによって、全体的に色落ちしヨレていたのである。
汚れてはいないけど、古びて汚そうに見えたのだ。

そうか。
清潔にしているのに、今ひとつ清潔感が感じられない不思議な人の正体。
客観的な見た目、という視点に欠けていたのだ。
洋服も毎日着ていると、だんだん繊維はくたびれてくる。
毎日シャンプーをしても、きちんと梳かさなければボサボサに見える。

「清潔」と「清潔感」は似て非なるもの。

清潔は、主観的である。
実際に歯を磨いたりお風呂に入ったり洗濯をしたりして、
汚れを落とす行為である。
対して、清潔感とは客観的である。
見た目で他人を不快にさせていないかどうか。
清潔感に欠けるものを見た時、人は嫌悪感を覚える。
嫌悪感までは感じないまでも、少なくとも違和感を覚える。
口髭が生えていたりしたら、もう、とてもびっくりする。
そういうマイナスの感情を芽生えさせてしまうということは、
配慮に欠ける行為だということだ。
たとえ本人にそんな気はさらさらなかったとしても。

清潔感は、その人を醸し出す雰囲気、詰まるところ人となりに繋がる。
よく「見た目だけで人を判断してはいけない」と言われるけど、
それは理性だ。
人はまず、本能で快・不快を感じ取ってしまうのだから、
見た目の清潔感にもよくよく気をつけた方がいいと思うのである。


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