ものの乱れは心の乱れ
私が会社員だった頃、とても優秀な後輩の男性がいた。
その男性は、新入社員として我々の部署に配属され、
なぜか分からないけど、私が教育担当者となった。
関われば関わるほど、彼は人間の出来た、とても優秀な人だった。
聞くと、学生時代はサッカーのユースに所属していて、
U-18の日本代表としてイギリスに短期留学していたような優秀ぶりだった。
どんな不足の事態が起きても、まったく動じる様子がない。
でも、本人曰く「本当はすごくパニックになっている」のだそうだ。
サッカーで相手に狼狽ぶりを見せないという戦略を学んだようだ。
彼は仕事面においても、とても真面目でかつ優秀であった。
けれども高飛車なところは一切なく、いつもとても謙虚だった。
そんな優秀な人に私が教育するなんて、
おこがましいんじゃないかという思いが常にあった。
そんな後ろめたいような申し訳ないような気持ちを
必死で隠して接していたが、
彼はそんな私の思いを知ってか知らずか、とても慕ってくれた。
ひよこが生まれて初めて見たものを親だと思う習性、
所謂「刷り込み」なのかもしれない、とずっと思っていた。
ある日、二人で車で取引先へ移動していた時のこと。
「〇〇さん(Gさん)の方が営業成績もいいし、
きっとあの人が教育担当になった方が学べることが多かったよね、ごめんね」
と、私は心の内を打ち明けた。
すると彼は、お世辞ではなくGさんより私の方が信頼できると言ってくれた。
彼には、学生時代からモットーにしている言葉があるそうだ。
「ものの乱れは、心の乱れ」
サッカーの監督から、ずっと口酸っぱく言われ続けた言葉。
常に整えよ!と。
現に、サッカーの試合の時、強いチームのベンチを見ると、
服が全てきちんと畳まれ、整然とした空間が広がっている。
対して弱いチームのベンチは、
服が脱ぎ散らかされたままになっているそうである。
例外は、ひとつもなかったそうだ。
営業成績の良いGさんは、机の上がいつも散らかっている。
散らかっているのに成績が良くてすごいな、といつも思っていた。
けれども、事件は突然訪れる。
Gさんが不祥事を起こし、会社を解雇になったのだ。
何かが乱れている人は、何事も成し遂げることはできない。
視覚的に自分が今やるべき大切なものが見えなくなってしまうばかりか、
相手にその心の乱れを見透かされてしまう。
彼はGさんの仕事ぶりが蜃気楼であることを見抜いていたのだ。
ものの乱れは、心の乱れ
「もの」の部分は何にでも言い換えることができる。
部屋の乱れは、心の乱れ
衣服の乱れは、心の乱れ
生活の乱れは、心の乱れ
髪の乱れは、心の乱れ
机の乱れは、心の乱れ
……
つまり、何かが乱れているということは、心が乱れているということだ。
心が乱れるということは、
他人からはもちろん、自分からの信頼の失墜となるから
よくよく気をつけなければならない。
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