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小説の投稿 #6   「In my life」

        第三章
        メトロポリス

 
音色は死ぬことはない、我々という、いや、その存在なくしても、今、ここにしかない忘れ河がある限り。

 そんな事を詩にして、詩人を廃業した若者が、遠い昔いた。17歳の頃かもしれないそこで、偶々ハーバードの図書館で手に取った詩の全集にぼくは打ちのめされた。その頃、大学機関が停止していたから、解放されてる大学の図書館を転々としていた。書籍は全て、データ保存され、ぼくは、端末で其れ等をさがした。そうで無ければ、あの状況で解放し続ける訳がない。そして時々、彼女の書いた、静寂と私という曲に痺れるのだった。

 ぼくとスタンは学会を後にし、barに向かった。別段行く宛もなく、午後まで街をふらつくことにしたんだ。あのシャンペン・スーパーノヴァの調べのする建造物から、そう遠くない所に、まるで違う雰囲気を感じた。アスファルトの破片は、少し痛い。でも、こいつはぼくの足って言う行き止まりに気付いてはいないはずだ。G線上のアリアは、そんなぼくの裡に湧き上がる。湧き上がってくる音を止めようとすると、手がびしょ濡れになっちまう。だから、浸ることに背徳感を得つつも、そのままにしておくのが良い。

レモンチェッロを頼もうか。
ぼくは、barまでそんな事を裡に巡らせていたのだった。

メトロポリスに革命を……

突然ぼくの横を一台の車が通った。
メトロポリスの若者らしい。
彼らは、ぼくが入ろうとしているbarに入った。

なんてことだろう。
鉢合わせるのか、あの連中と…。

それでも、手汗の出るのをひしひしと感じながら、店を目指した。

ぼくは、扉を開けた。
少し会釈をした。

いらっしゃいませ。
マスターらしき男が話した。

ぼくはまた会釈をし、カウンター席の左奥に座った。

何になさいます?

うーん…。レモンチェッロをお願いします。

レモンチェッロ…はい…。

ステージの近くの窓よりの席に、さっきの若者たちがいた。

すると、ギターをもった女性がステージに上がった。ドラマーとキーボードも来た。

あの…。毀れた世界の展望台という曲を歌います。

突然演奏は始まった。

この橋を歩いて行くと

行き止まりになってる

壊れているのか

造りかけなのか

この先を造ることはやめようかな

私が落ちてしまう

この下に落ちてしまうから

毀れた世界

支えきれない建設者の橋

それでも

私は落ちない

橋が無くても

この先に歩いて行けるはず

建設者の見るはずだった世界を

見れないだけね

それと交わる展望台

一見 建設者の橋を歩いているよう

でも 違う

毀れた世界を繋ぐことは出来ない

世界は

まだ完成していない

毀れた世界の展望台

ただ進めるだけでは足りなくて

失われたものを見付けないと

世界を拾うのでは無くて

自分なりに続けるために

月が流れる空の中…………………

 演奏が終わり、barの中は、静まり返っていた。ぼくは一口だけ、レモンチェッロを呑み、店の角に視線をやった。



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