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皮膜は破け欲があふれ出す

あなたは何者ですかと聞かれ、私はこういう者ですと答える。
選ばれないということは否定されるということ。
それはあまりに幼い理論ではあるが、一面でもある。あなたはうちには必要ないという宣告なのだから。

また、私はこういう者ですと答える。
縋るように答え、試すように答え、胸を張って答え、それでも私は必要ないらしい。
もっと人を見る目を養うべきだろう。

しかし向こうさんが人を見る目を養うのを悠長に待っている時間も余裕もないわけで、私は私をどうにか膨らましてどんなに近眼の人事採用担当でもわかるようにしなくては行けない。
私は日々エントリーシートでの自己紹介文で誰にでもわかりやすく、広く大きく自分を膨らませて文章を書く。足の先から頭の先、遠い過去のことからこれからの未来まできれいに舗装して分かりやすく示す。

そうしようとする。

しかし私はどうにも嘘をつけない性分のようだ。それもとことん。
誰にでもわかるように膨らませた客寄せバルーンも、客につつかれ摩耗し繰り返し空気を入れるものだから簡単に破けてしまう。

いや、白状しよう。
その着ぐるみを日々壊しているのは私自身だ。
私が着ぐるみを編み、私自身を膨らませ、私がそのすべての外面を破壊している。
ああ、まさにそうなのだ。
存在の否定という蒸留を経た私の自我は、いとも簡単に張りぼてを突き破り表に姿を現すのだ。
偽りの自分を見せることを許さず、ひたすらに液状化したその体を千変万化させ向かう人間に自分を理解させようとする。

もともと欲は強い方であったが他者から遠回しに否定されることがその欲を急速に成長させた。
膨らませることで内圧が増した。
膨らむことで壁は薄くなり自我が溢れやすくなった。
否定を受けるたびに認められたいという欲はより純度を増していく。
もっと私の本質的な生き様を、もっと私の醜い心を、もっと自分の不出来な性根を知ってほしい、認めてほしい。もっともっともっともっと。

企業の募集する人材像など二の次。それに当てはまろうが外れていようが、とにかく自分という人間の情報を押し付け理解を得ようとする化け物。

利害など目に入らない。
もしこの化け物を採用する企業があれば、きっとその化け物はその恩に報いるため馬車馬のごとく働いただろう。いや、そんなことはないのかもしれない。満足して次のことを始めるかもしれない。化け物に満腹はないのだ。





ふう。
文章にして出力することでずいぶんと落ち着いた。
客観視もできた。
よし。
これを見ている企業の皆々様。
会社に陰茎を受け入れてもらおうとする化け物は退治いたしましたので、安心して採用していただけます。よろしくお願いいたします。

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