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NIリサーチャーコラム #32 アフターコロナはゆっくりと ~自主調査の結果からみる人々の意識変化と社会~(2023年6月執筆)

執筆者: 営業推進部 シニアリサーチャー S.T

※NIリサーチャーコラムでは、当社の各リサーチャーが日々の業務等で感じた事を自由に紹介しています。

1)当社自主調査の4割は新型コロナ関連

新型コロナで世の中が騒ぎ始めたのは2020年年明け。気づけばもう3年半の月日が流れました。

その間報道やSNSなどのネット情報の把握・分析とともに自主調査を継続的に行うなど、私たちは世の中の流れを調査会社として把握していこうとしていました。

また、仕事の現場で、自身や家族などのコミュニティの中で、そして通勤や出先で見る光景から、報道で知る社会、SNSの中で見る社会、実際に目にする社会にズレを感じることもありました。

特に2022年に入ってからは、

「海外各国ではいち早く『普通の社会』を取り戻し始めているのに、日本ではまだコロナ禍を引きずっている」
「何も考えていない人が、早々に『コロナなんてもう終わったこと』という意識で行動しているのが怖い」

など、様々な意見の対立が見られました。

私たちがこの間に行った新型コロナ関連の自主調査は、45本のうち19本に及びます。

詳細は以下をご覧ください。

自主調査一覧

またコラムにおいても、コロナ禍の社会変化について、様々な角度から取り上げさせていただきました。

研究者仲間の中では、公衆衛生、疫学統計、行動社会学、経済学・・・多様な分野・視点で、データを収集・蓄積・解析し、この3年余りの社会変化を分析する論文も多々出ています。

そんな中で、今回、当社では、若いリサーチャーとともに、「~アフターコロナでどう変わる?~コロナに対する意識・行動調査」をまとめました。

2)ゆっくりとアフターコロナに変化し始めている

時系列で人々の意識変化を見ていくことはとても興味深いのですが、「今」もその流れの中に存在します。

その流れはコロナ禍の3年半だけではなく、ひとりひとりの人生の中の社会変化の流れ、その中での役割、経験など、まさに十人十色多種多様です。

コロナ禍の意識変化にしても、性年代に関わらず、収入が途絶えたり大きく減少してしまった方と、とりあえず生活には影響がなかった方では全く違います。

一斉休校やリモート授業についても、「学校に行けなくて寂しい」と思った子どももいるでしょうし、そうではない子どももいるでしょう。

親側からみれば、さらに事情は複雑になります。

詳細は各レポートやコラムを読んでいただくとして、全体としては、「名実ともにゆっくりとアフターコロナに変化し始めている」という結果になりました。

今回の調査では、「調査時(2023年4月末)で考えてみると、自分はそれぞれの時期、どの程度「コロナ禍」(10点)もしくは「アフターコロナ(日常)」(0点)だと考えて過ごしていたか」という主旨で、時期別に自分の気持ちを点数化してもらうという手法を試してみました。

それを平均点でまとめると、下図のような結果になりました。

この数字で見る限り、2022年秋ごろは、男女とも高齢者ほどやや「コロナ禍だ」という意識が強い傾向はみられるものの、時を経るにしたがって、年代別の意識差が徐々に縮小していく様子もうかがえました。

とはいえ2023年5月以降(調査時点では将来)でも性年代に関わらず5点前後。

つまりどの世代でも「もうコロナなんて終わったことだ!」と思っているわけではないこともわかります。

これは平均点ですが、「2023年5月以降」のみをとりだして点数の分布を見てみると、下図の通り。

同じような平均点であっても、それぞれの性年代間でも点数の分布は異なることがわかります。

女性の若年層では平均点が4点前半と低く、さらに分布を見てもアフターコロナに近い点数の割合が高く出ています。

これを「これからやりたいこと」等を聞いた他の問の結果と合わせてみると、女性若年層では他と比較して「これまでは我慢していたけれど、誰かと一緒にリアルで楽しみたい!」という意識が強くみられ、自分自身のだけではなく、自分の周りの家族や友人たち、そして社会全体が「そろそろいいよ」と思って欲しいという願望も表れているのかなと想像しました。

さらに政府の対応についての意識は下図の通り。

「通勤・通学などで『普通に流れている世の中』を見、『普通に仕事をしている自分』が多い世代では、自分の生活と乖離していたり、自分の生活に不要だと思われる制約を強いている規制について『大げさなんじゃないか』と思ったのかもしれないね」
「自分はもっと注意したいのに、普通の生活を送ったり、仕事に行ったりしないといけない人も多い世代ですしね」
「男性の50代以上は社会的責任が重い人たちも多いだろうから、経済への影響の懸念もあって、他の年代と比較して『緩和・解除のタイミングが遅すぎた』と感じるのかな?」
「女性の30代は小さなお子さんがいる割合も高いから、お子さんの健康のことも考えると社会全体でもうしばらく注意して欲しいという気持ちもあって『緩和・解除のタイミングが早いと思う』が高いのかもしれないね」

など、この1枚のグラフから何を感じるのか、年代も違う複数の分析者で議論するきっかけになりました。

さらに、「今後コロナ禍のようなことが起こると思うか」についての結果は下図の通り。

男性では年代が高いほど「またいずれ来ると思う」が高いのですが、女性は男性と比較すると年代による差は小さくなっています。

楽観的か悲観的かということではなく、これも自身の立場で受けた影響の大きさや、「将来に備えなければ」と思う気持ちの強さによるのかもしれません。

私たちが様々な結果を分析する時「性年代」を軸にするのは、見た目の姿かたちである程度イメージできるからです。

男性30代は他の年代と比較するとこう思っているようだ。
女性10代は男性10代と比較すると同じ10代でも意識が違うようだ。

とてもイメージしやすいですよね。

ただ、ここで気を付けなければならないのは、男性30代全員が、女性10代全員が、男性10代全員がそう思っているわけではないということです。

3)データをどう伝えればその結果を今後に生かせるのか

コロナ禍の報道で私が非常に悲しかったのは、世代間の割合(%)で表される意識差が、まるで「若者と高齢者の対立」ととらえられ、さらにはその対立が煽られていたことでした。

またSNSの投稿なども含めて、マスクをする・しない、飲み屋に行く・行かない、旅行をする・しない等、いつまでもいつまでも二者間の対立が煽られていたことでした。

前段でも書いたように、同じ性年代の中にも様々な人がいます。その中で「高齢者vs若年層」といった対立が何を生むかというと、

「若者が周りのことを考えずに遊んでいるって言うけど、高齢者だって遊んでいるよね」
「高齢者はこんなに不安に思っているのに、若者は自分のことだけ考えて楽しんでいるよね」

といった『目に見える現象のかけら』をとらえた更なる批判合戦です。

これが過熱していくと、世代間だけではなく、さまざまな場面で「そっちの方が悪い」という、解決策も改善策も、進むべき方向も、理解し合うためのコミュニケーションの方法も検討することなく、何も生み出さない批判合戦が続いていくだけだというのは、この3年余りで誰もが多かれ少なかれ経験したことではないでしょうか。

2021年9月に「データを読み解く力と伝える力 ~コロナ禍で考えたこと~」でも書いたのですが、データは一人歩きします。

そして「読み解く」場合にも分析者の主観が入ります。これは致し方ないことです。

また、SNSの怖さについては、「世論とSNS ~SNSとともに動く人と社会~」で、ノイジーマイノリティとサイレントマジョリティについては「世論調査って何?~「なんだかしっくりこない」は、実はとても大切~」で書きました。

この3年余りは、自分にとっても「データを読む」ことだけではなく、「データをどう伝えればその結果を今後に生かせるのか」を含めて、いろいろと考えさせられる日々でした。

その迷いや発見をコラムに書き、自主調査のデータから読み解いてきました。

「とにかく過ぎ去るのを待てば良い」と思えなかったのは、私のこれまでの経験によるところも大きく影響しています。

4)新しい社会へ

1995年に起こった阪神・淡路大震災。この頃私は都市計画関連の仕事をしていて、被災地復興のみではなく、その後各自治体が策定する防災計画策定にも携わりました。

阪神・淡路大震災の時は何もかもがシステム化されておらず、現場は大混乱していました。

それでも目の前のことを何とかしていこうと皆さん必死でした。

私たちはその中で、いつ来るともわからないけれども「次に生かせるように」、第三者の立場として記録し、課題を洗い出し、分析し、解決策のアイデアを出し合っていました。

今では当たり前になった災害対策には、その頃からのアイデアを長い時間をかけて実現していったものも多くあります。

その後2011年の東日本大震災では、それらの教訓は生かされたものの、さらに津波対策、都市部では帰宅難民対策など、また新たな課題が浮き彫りになり、徐々に対策が進められています。

今回のコロナ禍でも、当社内だけとってみても、かねてから言われていたけれどなかなか実現できなかったリモートワークもやってみたら意外にできることがわかったり、新たな調査手法の開発につながったり、様々な変化が起こっています。

もちろん課題もありますが、その都度「やっぱりダメだね」ではなく「どうしたら実現できるのか」を考えていくようにもなりました。

実は、首都圏では、2020年夏に開催が予定されていた東京オリンピック(実際には2021年夏に開催)の期間中、交通機関や道路の混雑を緩和するために、リモートワークの普及はコロナ禍に入る前から検討・推進されていました。

しかし、おそらく2週間のオリンピック開催だけではここまで皆が真剣に、スピーディーに、大規模に、全国で、リモートワークを進めることはなかっただろうと個人的には思っています。

今回、改めて過去調査を含めたデータを俯瞰して眺めていく時、私が非常に興味深かったのは、「元の社会に戻っていく」のではなく、「コロナ禍を経て新たな意識の中で新しい社会を築いて行こうとしている」と感じ取れることでした。

これもまた、社会に、個人に、多大な影響を及ぼしたコロナ禍であるからこそ、単にもとに戻るだけではなく、よりよい社会になっていくきっかけになって欲しいと私が思っているからこその分析者の主観が入ってしまったからでしょうか。

でも、きっと皆さんの中にも、この3年余りの間に、行動でも気持ちでも、何らかの変化は起こったのではないかと思います。

そしてその経験は、個人個人の将来にも大きな影響を及ぼすのではないでしょうか。

これからもゆっくりと進んでいくアフターコロナ。

もちろん辛かったこと、悲しかったことは忘れていくことも重要なのですが、課題は課題として解決策を探り、良い変化はより良い変化としてさらに発展させていく方がきっと未来は楽しいぞと、還暦過ぎの様々な経験を積んできたおばさんは思っています。

執筆者プロフィール
営業推進部 シニアリサーチャー S.T

工学部工学研究科博士課程都市・交通計画専攻で道路計画、交通計画、都市計画を学ぶ
公共系シンクタンク、大学研究所では総合計画・各種計画・施策の立案、
住民参加型まちづくり事業の推進を担当
高速道路建設の経済効果等を研究する中で、「満足度をお金に換算して経済効果に計上できないのか?」と思い立ち、マーケティング理論に出会う
39歳でマーケティングリサー会社に転職
その後は各種公共施策の立案と並行し、商品開発、市場分析等を担当
海外調査(グローバルリサーチ)については、気づいたら16か国延べ40都市で50以上のリサーチを実施
8年前から現職