時間いっぱい
Hallo, Guten Tag!
気づけば今年もすでに後半に突入しておりますが、時間の感覚というのはずいぶんと主観的なものですね。
時計の刻む1分1秒を見守っていてそう感じることはないのに、その積み重ねである数ヶ月、あるいは数年という時間のまとまりには、あっという間、なんて感じたり。
ということで、今日はあっという間に終わった3連休の後、ドイツ語のちょっと変わった時間表現について書きたいと思います。
半はどっちより?
「〜時半」という言い方があります。
例えば11:30。
ここでは24時制ではなく、12時制の表現について書きます。
日英独の表現比較をしてみると、
日: 11時半 (11時 半分)
英: half past eleven (11時半分過ぎ)
独: halb zwölf (半分 12時)
あれ^_^?
ドイツ語だけ軸足が12時です(せっかちなの?)
15分はどうでしょう。
例えば11:15。
日: 11時15分 (11時「と」 15分)
英: quarter past eleven (11時 1/4過ぎ)
独: viertel nach elf (11時 1/4過ぎ)
これには整合性がありますね。
では11:45。
日: 11時45分 (11時 「と」45分)
英: quarter to twelve (12時に1/4時間)
独: viertel vor zwölf (12時の1/4時間前)
あれ^_^?
今度は日本語だけ軸足が11時ですが、12時15分前とも言えます。
正時はそれぞれにO’clock・Uhr・ 時、が付くだけで英独日の表現方法は同じです。
ではドイツ語の半だけ、なぜ軸足が違うのか?
そもそもドイツ語の11:30の表現は、「halb zwölf/ 半分 12時」で「(〜時)過ぎ」や「(〜時)まで」という起点になる表現が抜け落ちていています。
なので「halb zwölf」だけでは、
「12時まで半分」という意味で11:30なのか、
「12時半分過ぎ」という意味で12:30なのかが、
わかりにくいのです。
日本語も字面だけ見れば、「11時半」に「過ぎ」とか「まで」という起点になる表現がありません。
日本語話者は当然のように11時半を「11時(と)半分」と思っていますが、起点がないだけに11時半を「11時(まで)半分」としてこれを10時半と解する言語文化があったら・・・?
例えばドイツ語です^_^
11:30に待ち合わせた2人を想像してみましょう。
ドイツ語を習い始めたばかりの日本人。
ドイツ人に11:30(halb zwölf)と聞いて待ち合わせ場所に12:30に現れます。
一方、日本語を始めたばかりのドイツ人。
日本人に11:30(11時半)と聞いて10:30に現れます。
幸か不幸か日本人もドイツ人も時間に正確といいますから、この2時間のズレはそのままに、きっとお互いに会えませんね^_^。
3時のケーキ
そんなわけで、時間表現のドイツ語「〜時半」は、日本語の感覚と違うので、慣れないうちは言いにくい、聞き取りにくい、ということがあります。
そこで助けになるのが、時間のこんな捉え方です。
「時が満ちる」という感覚、同時に「時間が欠ける」という感覚です。
ドイツ語では正時になった時のことをフル(voll)と考えます。ドイツ語のvoll(英語のfull)には、正時の、という意味があります。
例えば先ほどの11時を例にとると。
11時ジャストの時、それは11時が(変な言い方ですが)満ちた(フル)、という感覚です。そして、11時1秒にはすでに11時は「欠けている」という感覚。
あるいは、11時は11時のバケツがいっぱいである(フル)、と考える。これ以上、一滴も入る余地はありません。11時を過ぎたその瞬間から12時のバケツを満たしていきます。
3時のケーキが食べたければ、2時を過ぎた瞬間から食べ始めるべきですね。
そして3時を過ぎたその瞬間、ケーキが消滅します(TT)。
時間いっぱい
この感覚を如実に表しているのが、ドイツを縦に3つに(北東から南西に向かってやや斜めに)分けた真ん中の地域で使われる時間表現です。
そこでは、時間をこんな風に表現します。
2:15=viertel drei (quarter three)
2:45=dreiviertel drei (three quarters three)
この表現には15分前や15分後に当たる「前」や「後」の表現がありません。
先ほどの考え方でいくと、まさに
2:15を「Viertel drei 1/4 3時」と表現することは、その「3時のケーキを1/4食べちゃった」ことを、
2:45を「Dreiviertel drei 3/4 3時」と表現することは「3時のケーキを3/4食べちゃった」ことを表していることが見えてきます。
日本語では2:00〜3:00になるまでを2時台と表現しますが、この地域のドイツ語ではそこは3時台。少なくとも2:30以降は全ての地域で3時台。
2時台が2時に始まる日本語と違い、2時台が2時に満ちて終わりを迎え、2時以降は3時台が満ちて行き、3時に消滅するドイツ語。
時間が満ちる、という感覚は大相撲の仕切り制限時間の「時間いっぱい」を思い浮かべてみても分かりやすいかもしれません。
制限時間「いっぱい」で「待ったなし」。
持ち時間は「ゼロ」です。
進んでゆく時間の中、減っていく残り時間と、満ちてゆく過ぎた時間。
一方が増えると一方が減るゼロサム状態。
時間の満ちていく感覚に重心を置いて考える日本語と、欠けていく時間に重心を置いて考えるドイツ語。
どちらの考え方でも、制限時間が「いっぱい」に満ちて、持ち時間が「ゼロ」になるその刹那、
待ったなしの人生もいつか、時間いっぱい。
今日も最後まで読んでいただきありがとうございました。