見出し画像

熱狂の裏側に潜入!カタールW杯の不都合な真実『ワーカーズカップ』

みなさん、こんにちは。ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジン第11回を担当します、スタッフの細川です。よろしくお願いします。

今回は、「YFFFオンラインシアター」『ワーカーズ・カップ』をご紹介します。
「FIFAワールドカップカタール2022」のスタジアム建設現場で行われている労働者たちによるサッカー対抗戦「ワーカーズカップ」。本作は、試合に挑む選手たちの姿を追いながら、建設現場で働く労働移民の実情を収めたドキュメンタリー作品です。

スタジアム建設現場の現状

いよいよ来年に迫った「FIFAワールドカップカタール2022」。コロナ禍で延期になっていたアジア2次予選もスタートしました。5/28のミャンマー代表戦の勝利で、最終予選進出を確定させた日本代表への期待が高まっていますが、本戦の大舞台となるカタールのスタジアムは一体誰が作っているのでしょうか?
デザイナーは誰なのか?どの業者が受注して、いくらかかるのか?スタジアムの建設においては、そのデザインや建設費用については、報道でもよく目にします。一方で、建設現場の労働者や、その労働環境についてはあまり知らされていません。

カタールがFIFAワールドカップの開催国に決定したのは2010年。大会に向け、カタールでは1つのスタジアムを改装、新たに7つのスタジアムが建設されています。この一大事業に何百もの建設会社が携わり、各社でインド、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、アフリカ諸国などからの労働移民が雇われています。その人数は、カタールには総人口の60%にあたる約160万人に及ぶそうです。

「難民キャンプのようだ」と語られるように、壮大な敷地の中に簡易的なコンテナが並べられただけの居住地域の周辺には何もなく、彼らは現場とキャンプを往復するだけの日々を送っています。労働時間は肉体労働にも関わらず、1日12時間。法律上は週1日の休日が与えられなければならないのに、それさえもままならない現場もあるでそうです。最低限のレベルに満たない生活を強いられ、さらに、労働者たちの居住許可証は会社が管理しているため、転職や退職、そして出国も自由にできない。ワールドカップ開催ということで、国連やアムネスティの監視が厳しくなっているようですが、それでも現状はあまりにも過酷です。

ワーカーズカップ_ 4

「ワーカーズカップ」の目的

それぞれの会社が持つサッカーチームの対抗戦「ワーカーズカップ」は、2年目には「2022ワールドカップ組織委員会」が関わり、年々規模も大きくなっています。労働だけの生活に、モチベーションが上がるもの、娯楽を用意したというのは、一見彼らのためのように思えますが……実際には、世間の目を人権問題から逸らさせるためのものだったようです。結束力が高まり、会社に貢献するようになるという期待もありました。また、活躍をその選手の母国で報道することは、新たな労働力獲得のためのプロモーションにも繋がります。

高まる士気

GCCは「ワーカーズカップ」に出場する会社のひとつです。チームには、海外で働くことに希望を持って来た者、サッカー選手になれると約束された者、母国で職を失った者…さまざまなバックグランドを持ったメンバーが選出されました。出身はケニア、ガーナ、インド、ネパールと多国籍のチームです。そして、その選手たちが本作の主人公です。
試合で大敗を喫したキャプテンは、もっと練習がしたいと会社に申し出ます。でも、労働へのモチベーションを上げるためのサッカーが、労働時間を削るようでは本末転倒です。そんな要望は会社は一蹴するだろうな……と、胸を痛める覚悟をしていましたが、それは杞憂に終わりました。ワールドカップで得られる膨大な利益の前には、多少の労働時間削減による損失は微々たるものでした。「ワーカーズカップ」を充実させることで、労働者の満足度は上がり、また世間に対してもそれをアピールすることができる。組織委員会や会社にとっても好都合だと判断したのでしょう。
ただ、サッカーが好きで選手にもなってる人は楽しいだろうけど、それ以外の人にしてみれば、自分が働いてる間サッカーの練習してる人がいるのはおもしろくなく、溝ができてしまうのでは?という疑問も浮かびました。でも、これもまた要らぬ心配でしかなく、選手以外はサポーターとしてチームを応援し、またサポーターとしての誇りもあるようでした。会社の期待通り結束は固くなっていきました。スポーツの力は偉大ですね。

ワーカーズカップ_ 1

彼らの声が届く時

チームGCCの活躍は本編でご確認いただくとして、組織委員会の目論見通り「ワーカーズカップ」の開催は功を奏しました。彼らは労働者たちを見くびり、手のひらで転がせると思っていたのかもしれませんが、労働者たちだってまったく気付いてないことはなく……それでも彼らはそこに留まり、働き続けるしかありません。

彼らはそれぞれ個性的で、チャーミング、そして、みんなが誰かの愛しい人です。「160万人」と言ってしまうとただのデータになってしまい、尊厳のあるひとりの人間がその数集まっているという事実と切り離されてしまいます。でも、彼らひとりひとりの声を聞くことで、同じく声を持つ人々がその数だけいるということが実感できると思います。

ワーカーズカップ_3

カタールではメディアの規制が厳しく、そこに潜入することは難しかったそうですが「ワーカーズカップ」は世間に対するプロモーションとして活用したいコンテンツでもあったためか、撮影が実現したようです。この記録としても奇跡的なドキュメンタリーは、建設現場の労働者たちの声を聴く貴重な機会を与えてくれます。

画像5

『ワーカーズカップ』
サンダンス映画祭 ドキュメンタリー部門出品作品
原題:The Workers Cup 監督:アダム・ソベル
88 分/ドキュメンタリー/2017 年/イギリス/日本語字幕
© The Workers Cup LLC, 2017
本編レンタルはこちら

映画祭チケットプレゼント!感想文投稿キャンペーン

「YFFFオンラインシアター」では、2021年10月開催予定の「ヨコハマ・フットボール映画祭2021」の映画鑑賞チケットが当たる<ヨコハマ・フットボール映画祭オンラインシアター 感想文キャンペーン>を実施中です。

作品鑑賞後に「 #いつでもフットボール映画祭 」のハッシュタグをつけてnote、instagram、twitterに感想を投稿するだけでご参加いただけます!ハッシュタグをつければ、ブログ、レビューサイトに掲載した感想のリンクでもOK!
感想をシェアして、一緒に盛り上がりましょう!詳細はこちら

ヨコハマ・フットボール映画祭note公式マガジンでは、今後も不定期に作品の紹介をしていきます。

-------
最後までお読みいただきありがとうございました。
マガジンのフォローや、SNSで拡散してくださると嬉しいです。
みなさんの応援が明日のヨコハマ・フットボール映画祭を創ります。
次の記事もお楽しみに……!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?