見出し画像

恋せぬふたり制作日誌⑫ロケ地から見る「恋せぬふたり」

初めまして、毎週月曜よる10時45分から放送中のよるドラ「恋せぬふたり」制作部の長船おさふねです。
今回は、「恋せぬふたり」のロケ地ついて書きたいと思います。

ロケ地のお話をする前に、制作部をいう言葉を初めて聞いた方が殆どでしょうから、制作部とはどんな仕事をする部署なのかを簡単に説明します。

制作部は、プロデューサーやアシスタントプロデューサーと一緒のプロデュース部になります。

劇中写真

担当する仕事の一番はロケーションハンティング(通称ロケハン:撮影する場所を決める打ち合わせや下見)ですが、それだけではなく、絵に映るもの全てが仕事と言っても過言では無いかもしれません。

スタッフが移動する車両を手配しどこに停めて搬入するか、誰よりも早く現場に入りロケ隊の受け入れをし、最後に忘れ物や不備がないか確認してからロケ地を出る、スタッフの食事の手配をし、遠方のロケなら宿泊地を手配。決まったロケ地のスケジュールを押さえ必要な申請や近隣へのご挨拶をする、安全にロケをする為に警備員を手配し配置をする。
そのほかにも他部署の手伝いをするなど本当に多岐に渡ります。

劇中写真

ここまでが簡単な制作部の仕事です。 自分で簡単に書いていても大変だと思います(笑)

制作部がやることをざっと知ってくださった中で、まずは、一番の担当であるロケ地の選定に話を進めていきたいと思います。
本当はたくさん話をしたいですが、このドラマの特に大事なロケ地2つに絞ってお話したいと思います。

1つめは、このドラマのメインであるロケ地「高橋家」です。

劇中写真

まずは、ドラマのメインキャラクターの設定を台本から読み解きます。聞くと高橋羽の設定は、都会で祖母と2人で暮らしていたというのが初期設定としてありました。
それを聞いて最初に想像するのは、家の大きさはどうするか?街感はどうするか?どんな立地にあるのか?ということです。

ただそれだけだとざっくりし過ぎているので、2人の監督やデザイナーと話し合い、イメージは、古さと新しさが混在していている街で住み心地が良いところ、建物自体は平屋で豪華になり過ぎず、来るもの拒まない入りやすい雰囲気。
そして、家の内部はセットでという方針を立てました。それを経てようやくロケハンをする事になります。

劇中写真
劇中写真

私の考え方ですが、ロケハンを開始する時は、余り対象を絞り過ぎず、時には変化球を交え何件かのロケハン写真でパターンを示し監督に見てもらいながら方向性を探っていくようにしています。

不動産屋で賃貸物件を提示していくのに似ているかもしれません。バストイレ別でオートロックを希望する人に古いアパートは勧められまんよね。譲れない条件と提示出来る良いポイントで少しずつ進めていくのです。

今回のロケハンで大変だったのは、ハウススタジオ以外にもいろいろな住宅街を歩いて「ここは?」と思った家を訪ねて廻るのですが、ロケハンを始めた2021年の夏ごろは(今もですが)、お借りしたいような平家に住まわれている方は、ご高齢の方が多数です。
コロナ対策でマスクをしているとはいえ知らない人と話すのはとためらってしまうと思います。特殊詐欺や訪問販売に間違われるのも日常茶飯事です。

そうして、少しずつロケ地候補を集めて監督に相談する日々が続いていきます。

高橋家だけで10件以上の候補が上がったと思いますが、最終的に決まったのが、現在の「高橋家」となる古家を改装したハウススタジオでした。

劇中写真

決め手はあたたかい周辺の街の雰囲気と高橋家の横にある長い坂道でした。

実はこの物件2か月、色々と歩き回る中、最初にロケハンしたものです。最初のインスピレーションが的を射るのはよくある事です。(笑)そこに決まるまでに色々と廻り道をする、もうこれは人生と同じです。

2つめは第1回の冒頭で咲子と高橋が出会う重要な場所となる「スーパーまるまる」です。

劇中写真

都内や近郊に何件か撮影で貸して頂けるスーパーはあるので、監督とデザイナーとで下見に行きましたが、監督からは「カラフルさが強調されるような色味がもっと欲しい」という要望を受けて改めて探す事になりました。

野菜売り場のセッティングはある程度、美術が作るという事なので都内や近郊のスーパーに片っ端から電話でお伺いです。
このご時世もあり、なかなか受け入れてもらうまでに時間がかかったのですが、最終的に都内に多数の店舗を持つスーパーでの撮影許可が頂けました。

ただ、ここでひとつ課題が!

営業終了後の深夜の撮影でないと難しいというのです。それはそうですよね…。営業が最優先です。
ただ、ご覧になった方はわかると思いますが、スーパーの野菜売り場のシーンは日の明るい時間の設定です。という事で、野菜売り場の近くに大きな窓がある店舗は今回の撮影には不向きである事を伝えてさらに選定させていただきました。スーパーのような広い場所の夜を昼にするのは撮影隊でもなかなかの難しさなのです。

劇中写真

クランクインが第1回の冒頭シーンからだったので、スーパーロケから開始です。
クランクインというものはソワソワするものです。今まで探してきたロケ地に俳優部、スタッフが一堂に介します。皆さんの親近感があるものとしては、入学式みたいものでしょうか。ただ、不思議とロケが進むうちに体育祭や文化祭のような奇妙な一体感が生まれるのもドラマ撮影の妙であります。

営業終了後の21時に準備開始です。

劇中写真

野菜売り場の写真を撮り、ディスプレイされている売り場を一度退かしてから、2時間掛けて美術部が飾ります。 美術部がスーパー全てを飾れる訳ではないので、一部は元の売り場をそのままお借りします。

スーパーの売り場にあるのは、当然ですが売り物です。撮影に邪魔になるからといって勝手に移動したり、足したり出来ません。全ては事前に監督やデザイナー、撮影部と打ち合わせをし、スーパーの方にお伺いをし、ここからここまでを飾ると決めます。そしてロケが終わると現状復帰で野菜を戻していきます。
2時間掛けて売り場を元に戻して、忘れ物がないかチェックして店を出ると「朝」というとても気持ちの良いクランクインでした!(笑)

劇中写真

ここまでロケ地選びとロケでの制作部の動きを書いてみました。

最初にも書きましたように、制作部の主な仕事は、ロケ地を探すロケーションハンティング、これが制作部の1番大きな仕事だと思われているかもしれません。

劇中写真
劇中写真
劇中写真

しかし現代のネット社会においてロケ地の情報は、誰でも簡単に調べられます。「ドラマ ロケ地」と検索すればほとんどのロケ地が出てくるのです。良いロケ地は誰しもが使いたいので、人気のロケ地なるものもあるのです。 「あっ!これあそこと同じだ!」と勘のするどい方は気が付いている事でしょう。好きなドラマのロケ地巡りをしている方も大勢います。

だからこそ、制作部に1番大切な仕事はなんなのか?それはロケを滞りなく進める為の準備だと考えています。その為にロケーションハンティングがあります。俳優部やスタッフが気持ちよく仕事をするために最大の努力をする。ロケ地を探して終わりということは決してないのです。

このドラマに関わっている50名近いスタッフは、基本的に良い作品にする為に一生懸命に前だけを見て自分の仕事をしています。そこで、少し引いた位置からスタッフやご通行の方の安全を守り、迷惑を掛けないようにするのが制作部の1番の役目ではないかなあと思っております。

「恋せぬふたり」の物語に注目していただくのはもちろんですが、ロケ地にも少しだけ目を向けてくれると、色々なものが見えてくると思います。

長船おさふね たくみ
1978年東京生まれ。制作部として2007年から活動 NHKでは、「今ここにある危機とぼくの好感度について」(2021)、「ひきこもり先生」(2021)、「ミスジコチョウー〜天才・天ノ教授の調査ファイル〜」(2019)、よるドラ「ゾンビが来たから人生見つめ直した件」(2019)、代がドラマ「いだてん」(2019)など。ほかに「俺のスカートどこいった」(2019)、「日本をゆっくり走ってみたよ〜あの娘のために日本一周〜」(2017)。

画像 執筆者へのメッセージはこちら

よるドラ「恋せぬふたり」
[総合] (月)よる10時45分〈全8回〉
NHKプラス&NHKオンデマンドでも配信中
最終回 3月21日(月)  よる10時45分

――――――――――――――――――――――

▼「恋せぬふたり」HPはこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第1回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第2回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第3回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第4回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第5回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第6回はこちら▼

▼「恋せぬふたり」考証チームブログ第7回はこちら▼


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!