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TOKYO JUNGLE/Stray|ゲームの遺伝子解析記録vol.10

いつも『ゲームゲノム』をご視聴いただきありがとうございます!
第10回「野性を遊ぶ~TOKYO JUNGLE/Stray~」を担当させていただきましたディレクターの高須です。今回は、私が“野性を遊ぶ”というゲームの遺伝子に辿たどり着くまでのつながり”の軌跡を記したいと思います。

GAME OVERからのNEW GAME

今年で27になりました。世代で言うと、ポケモンは『ルビサファ』から。モンハンは『セカG』です。やりこんだレースゲームは『首都高バトル01』。最近お熱なゲームは『VALORANT』です。

関西出身でNHKの在籍歴としては初任地が東京でした。毎年紅白などをやっているエンタ系の番組部に4年。約1年前に仙台放送局へ転勤となり、今年で5年目のディレクターです。最近「若手」という言い訳もだんだん通用しなくなってきました(いつまでも新人でいたいものですが…)。

さて、そんな私が仙台に着任し半年たったころのことでした。新たな職場での仕事にもなかなか慣れず、挙句あげくの果てに4年間付き合っていた彼女にフラれ、満身創“孤独”な日々を過ごしていた時に、この『ゲームゲノム』という番組に出会いました。大げさかもしれませんが、傷ついたときにこそ自分の中の“生命”が燃えることに気づかされたというか…。ぐちゃぐちゃになったキモチを自分の仕事であるテレビ番組の企画にぶつけよう、と。でも、もちろんエゴイスティックなだけでは当然ダメで、視聴者の皆さんの心を動かすことも絶対に忘れたくないと思いました。そんな折、『ゲームゲノム』の企画募集を見つけた、というわけです。正直、番組の企画書には自信がありませんでした。というか、今もありません。しかし、ことゲームとなると自分の大好きな作品、大切にしたいプレイ体験の記憶、そこから受け取ったモノ―それらが何なのかを自分なりに言語化する作業に時を忘れて没頭していました。

自分がお世話になってきた「ゲーム」の番組ができるかもしれないー。そんな中、直面した“恐怖”がありました。何のゲームでやるか、その“選択の重み”です。大好きな存在だからこその責任感といいますか、既にビビッていました。にもかくにも、まずは、自分の“ゲームゲノム”とは何かの探求の旅から始めました。向かったのは、自分の「ゲーム遍歴」が詰まった引き出し。仙台に引っ越してから初めて開けました。私たちゲーマーは過去、現在、もしかしたら未来まで、これまでやってきたゲームが入っている引き出しを見ればいつだって“心の世界を冒険する”ことができます。(今はダウンロード主流なのでゲームアーカイブスですかね笑)

最初目に留まったのは、メカメカしい作品たち。昔から一貫して自動車やロボットが好きでした。そのゲーム遍歴もそれにならった形で『グランツーリスモ』『アーマード・コア』と機械的ロマンあふれるタイトルがありましたが、中には例外も存在しました。それが大学生のころにプレイした『TOKYO JUNGLE』でした。

画像 TOKYO JUNGLE
(自宅で撮影)

当時、「ムズすぎる…」と思いながら夢中でやり続けた記憶があります。実在する「動物」を主人公にしたゲームをプレイしたのは後にも先にもこのゲームだけでした。なぜ、他のゲームとは色が違うこのゲームに夢中になれたのか。「俺、ぶっちゃけ機械の方が好きなんだけどなぁ。逆に?でもなんで?」そんな具合に自分が本作のとりこになった理由を取材してみるという“逆転”の発想で企画を書いてみることにしました。さらに企画会議で「ほかにも動物を主人公にしたゲームってないのかな?動物になれるってゲームならではの体験じゃん!」とチームの“ひらめき”も相まって議論が深まり、さらにリサーチ。今年の7月、発売後Twitterのタイムラインを「猫、可愛い」「猫、すごい」と席けんし、「犬派」の僕でも、ものすごく気になっていた『Stray』も含めて“アニマルゲームから見えてくるもの”というテーマで番組作りをしてみようと思いました。

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動物になれる!って、人間も動物じゃん

ところでみなさま、「動物」という存在に対してどんなイメージをお持ちでしょうか?

自分の話をすると、幼少期に実家で柴犬を飼っていたくらいで、最近は仕事で疲れたらスマホで飼い主の「さんぽ!」というワードに反応する犬の動画をひたすら見たり、某水族館のラッコの動画を見たり。人間と仲良くしてくれる動物たち、その姿や絆、それはそれは尊いものです。がしかし、人間が普通に生活しているとあまり触れることのない「野性」の部分を垣間かいま見せてくれるのが今回取り上げた二つのタイトルだと思いました。どちらの作品も違ったアプローチでそれぞれ動物の野性的な部分がゲーム中のプレイ体験に落とし込まれています。

「人間がいなくなった世界で動物たちがどうやって生きていくのか、そういった世界が見てみたいと思った」というゲームクリエイター・片岡陽平さんの発想から生まれた『TOKYO JUNGLE』。テレビでしかその様子を見ることができないライオンやトラはもちろん、普段ふだん人間の前で見せないポメラニアンやネコの“かわいくない姿”―、「捕食」、「縄張り占拠」、「交尾」という極めて野性的な姿を、都心というこれまた普段の動物が関わりのない世界観を背負って体験することができます。

このゲーム、どんな内容かごく簡単に説明させていただきます。とある理由で人間がいなくなった東京・渋谷を舞台に、様々な動物を操り、とにかく生き残ることを目指す“アニマル・サバイバル・アクション”です。ミッションをクリアするたびに、使える動物は増えていき、最終的にはおよそ50種類の動物でプレイすることができます。大きくは、「草食動物」と「肉食動物」に分かれていて、その生存戦略も異なるため操作する動物によってプレイ体験の質感が大きく変わってきます。さらに、それぞれの動物には攻撃範囲や寿命、ハングリーゲージ(お腹がどれくらいのスピードで減るか)・スタミナゲージ(どれくらいダッシュなどを連続で行えるか)・ライフゲージ(体力ですね、尽きると死んでしまいます)も細かく設定されています。さらにさらに、寿命も当然違います。さらにさらにさらに、繁殖で増やせる個体数も異なります。つまり、種族ごとの特性を見極めて、どうやって弱肉強食、群雄割拠の世界を生き延びるか、一生懸命考えてプレイしなければならないのです。

さて、そんな本作の“ゲームゲノム”を見つけるべく、たまたま自宅に遊びに来ていた友人Hと一緒に、まずはトーキョージャングルの奥地へと向かったわけですが…。

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※番組では紹介できませんでしたが、マルチプレイ(2P)だと草食動物と肉食動物でタッグを組みサバイバルモードにチャレンジできます。(双方の動物で共食いができなくなるという細かい仕様!)

久方ぶりにゲームに夢中になれるうれしさをかみしめながらプレイしていると…。

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わりかしすぐにこうなります。肉欲しさに威勢よく調子に乗ってデカめの動物に勝負を仕掛けたり、「いけるやろ」とMAPを見ずに狩りをさぼって捕食せずにいると、すぐ息絶えてしまいます。

息絶えないために、生き残り続けるために「世代交代」のシステムがあります。これがまた生々しい設定でして…。「交尾」を行えるパートナーには約三種類のランクが存在します。オスの動物でプレイすると「サゲメス」「タダメス」「アゲメス」といった具合です。ランクの高いパートナーと交尾をすることで子孫の数が増えたり、引き継がれるステータスが高かったりとメリットが享受できます。当然、メスライオンなどでプレイする場合、出現するパートナーは「サゲオス」「タダオス」「アゲオス」となります。―――“アゲ”、“サゲ”……、現代の人間社会ではかなりパンチの強いワードだと思います。一方で、動物たちの世界ではより強い子孫を残し、命をつないでいくには、本能的に避けては通れない概念であることも間違いありません。体が大きい、捕食が得意、巣を作るのが上手、求愛ダンスに自信あり…と動物たちは生きることに堂々と必死です。表立っては言えないことかもしれませんが、人間も少なからずこうした側面があるのも事実ではないでしょうか?しかも、パートナー探しをする中で、自分が相手に見合っていないーという現実もあるわけで…。こうした“生々しさ”を突き付けられるのも本作の醍醐味だいごみの一つだと感じました。

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動物に託した“必死に生きる人”への賛歌

番組中では、この約50種類の動物たちは「人間を代替」したものであると片岡さんが語られていました。我々人間も現代社会で生きることに必死です。必死な人のドラマが動物の姿となって鮮烈に描かれている本作には、必死に生きることを諦めないというメッセージが込められているようにも感じました。さらに取材で伺った話ですが、片岡さんは「当時のゲーム業界に対して人の率直な欲求等を描いている作品は少なく、いわゆるキレイ事がテーマであるものが多かったように感じていた。そこに対して何らかのアンチテーゼはテーマとして用意しておきたかった。」とおっしゃっていました。これを「動物」で表現するという発想、さらには人間の肉体とは異なる構造を持った動物たちを動かすことへの挑戦、たくさんのメッセージが一つのゲームの中に詰め込まれていました。初めてプレイした当時私がそれらすべてを受け取っていたわけではないですが、夢中になってやっていた理由がすこし分かったような気がします。

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収録では、出演いただいた皆さんがそれぞれを動物に例えるなら…というトークが盛り上がりました。片岡さんは10年前の「ポメラニアン」から今は「番犬」に、MCの三浦大知さんは「パグ」(似てる、とよく言われるそうです)、ゲストの髙橋ひかるさんは「カエル」(都会にわずかに残る緑に擬態して隠れたいときがあるそうです)、とご自身を表現なさっていました。いつも「ライオン」のような強い人たちにペコペコしながらおこぼれをもらっている自分はさながら「ハイエナ」です。しかし、これも立派な生存戦略。誇りをもってこれからもペコペコしていこうと思います。本作のストーリーモードではそんなハイエナが縄張りをかけて立ち上がるという雄姿を見ることができるのでぜひプレイしてみてください。(ハイエナのストーリー攻略は個人的にかなり難関だと思います。友人と交代しながら1時間半は格闘したかと…クリアすると演出も相まって“究極の達成感”が待っているはず!)このストーリーに出てくるようなイケてるハイエナに私もなりたいものです。

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高効率、コストパフォーマンスを重視した人間が暮らす現代社会はある意味「便利」になり過ぎました。こんな時代だからこそ『TOKYO JUNGLE』の動物たちが持つ「プリミティブな生存原理」は、我々にとって忘れ去られた何かを思い出させます。生き残っていくのに不可欠な「本能」や「欲求」をもとに「何をすべきか」自分の人生を振りかえってみることも一興かもしれませんね!

目線を変えると見えてくる世界の姿

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番組後半で取り上げた『Stray』は、ひょんなことからロボットだけが暮らす世界に迷い込んだ猫を主人公に、元いた場所に戻ろうと旅するアドベンチャーゲームです。本作の特徴は人間よりも低い「猫目線」ともいえる三人称視点でネオン街や路地裏を探検できること。毛並みやフォルムの写実的な描写はもちろん、猫を動かしたときの骨格や筋肉の動きなどの描写の細かさには強いこだわりを感じます。

番組でも紹介しましたが、どこでもボタン一つで「ニャ~」と鳴けたり、特定の場所で爪とぎが出来たりします。(基本的にゲームの本筋には関わってこない…?と思わせての!なところもすごいです。)

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まさに「猫になる」ことが醍醐味だいごみなわけですが、例えばビリヤードのボールを散らしてみたり、キーボードの上を歩いたり、人間からすればただのイタズラともとれる猫っぽい行動を人間がコントローラーを握って行うことで、猫の思考に没入できるようになります。「ここは行ける!」「ここは行けないんかい!」みたいな、猫になってできること、できないこと線引き体験はこのゲームならではですし、それが究極のリアリティを生んでいるという解釈もできるかもしれません。こうした「野性」的な要素、「野良」として猫がどう過ごしているのかをプレイすることにより、我々が普段触れることのない猫の世界を想像させてくれました。これには自らの「犬派」なアイデンティティも揺らぎました…!

そんなプレイヤーが猫になって関わっていくロボットもまた興味深い存在です。彼らは「スラム」と呼ばれる場所で独自のコミュニティーを形成して暮らしています。ロボットですから、きっと人間が作ったのでしょうが、どうしてロボットだけなのか…なぜ人間がいないのか…など、世界の姿がストーリーを進めると徐々に分かってきます。そんな中、ロボットたちの生態(?)は、どこか“人間くさい”のも面白いのです。編み物をしたり、バーでオイルを飲んで泥酔したり、植物をでたり・・・。不思議なことに、彼らのほとんどは鬱屈としたセリフを繰り返し、ささいとも思える問題に対して簡単に解決策を見出せない様子を見せます。彼らと関わっていくことで「ロボットとは?」、「人間と何が違うのか?」みたいな疑問が自分の中に積み上がっていく感覚が生まれるわけなんですが、それもプレイヤーが猫だからこそ。

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「犬系男子」「猫系女子」というような言葉から代表されるように、人間にかなり近い存在の犬と猫を比べた時、すべてがそうとは言えませんが、明確に人間に対するアプローチが違うと思います。人間との関わりに限定すれば、猫には何となく自由、マイペース、ミステリアスなどというイメージがあると思います。彼らは我々人間のそばにいるのにもかかわらず、どこか人間を傍観・俯瞰ふかんしているなと個人的には感じるのです。そんな「彼ら」になることでロボットたちの人間を超えた人間っぽさが見えてくるように感じました。

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一方で、このような「住む世界の差分」は、猫は猫であり、ロボットはロボットという壁を感じることもできます。ロボットの言語は相棒のドローンによって翻訳されますが、一貫して猫が何か言葉を返すわけではありません。我々プレイヤーに残された選択肢は、「ニャ~」と鳴くか、せいぜい膝にスリスリするくらいです。けれどもストーリーを進めるにつれ、猫はロボットに希望を与える存在となり得るのです。それくらい、「複雑なそれぞれの世界」を理解することは難しいけれど、「想い」や「願い」を持つことの尊さをこのゲームは見せてくれているような気もしました。両親、友達、会社の上司から、マッチングアプリで出会ったあの子まで、これは人間対人間にも言えることなのではないでしょうか…。

画像 開発者インタビュー

『Stray』の開発者のSwannさんも「“伝えよう”とするのではなく、“見せた”ことでプレイヤー自身が想像し、自分なりの結論を導き出してくれた」とおっしゃっていましたが、このゲームをプレイした人の感想は本当に十人十色。私自身は、”今見えている世界、その本当の姿”や”自分は一体何者なのか”といったちょっと哲学的な疑問が湧いたり・・・。猫という動物やぎこちないロボットとの関わりを通して「人間」が見えてくる、という仕掛けには個人的にすごく驚きました。

“ゲームの遺伝子”を探す旅は続く!多分!

スタジオにお越し下さり、お話しいただいた片岡さん、インタビューに応じてくれたSwannさん、本当にありがとうございました。私も引き続き、「プリミティブな生存原理」を思い出しながら人生の駒を進め、相手の世界を想像しながら、ここ仙台を第二の“ふるさと”と呼べるようなディレクターになりたいと思います。
 
私自身、このタイミングで自分の人生を2つの「ゲーム」で振り返り、これからのことを考えることができたことに感謝したいです。私がそうだったように一人でも、ゲームという存在と向き合って、そして自分と向き合って…みたいな “自問自答”を繰り返し、前向きに生きていこうという気持ちになってくださる方がいれば、この番組を作った価値があるかなぁって思います!

では皆様引き続き、Enjoy game life!です。


「ゲームゲノム」第10回は、2022年12月28日23:28まで「NHKプラス」で見逃し配信をしています。

画像 NHKプラス 見逃し配信のご案内

ディレクター 高須郁弥(新人)


※大変名残惜しいですが、今回の第10回でゲームゲノムの「シーズン1」としての放送は最後になりました。ここまで見てくれた皆さま、ありがとうございました!もし「シーズン2」が来る時があればよろしくお願い申し上げます。

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