ラップイベントやったら急に本音で語りたくなった
「みんなでサイファーやるらしいよ」
そんな会話を聞きつけ、急いで声がする方へ向かう。
え、サイファーって?
輪になり、1つのビートに乗せて、フリースタイルでラップを繋いでいくのが聞こえてきた。みんなが自由にその時に思った言葉を吐き出し、音楽に体をまかせ、楽しんでいる。
なにやら「サイファー」というのは、複数の人が輪になって、即興でラップすることを言うらしい。
…かっこよすぎる。
こうやって、思いを自由に言葉にできるってすごい。
ああ、こんな光景が見たかったのかもしれないなあ。
これは、あるイベントの休憩時間の一幕。
“あるイベント”とは、6月4日に茨城県水戸市にあるライブスペースで開催されたNHK水戸放送局主催のラップイベント、「イバラキ⤴イタダキ⤴」。
茨城にゆかりのある若者たちに集まってもらい、それぞれが約1か月をかけて講師と一緒に自分の思いを込めたオリジナルのラップを制作し、披露しました。
自分の思いを言葉にすることってとても難しい
さかのぼること1年前。
2022年4月に水戸放送局が開局80周年を迎えるということで、何かできないかと私たち含め水戸放送局のメンバーが集まりました。
遅れましたが、“私たち”の自己紹介をさせてください。
NHKで働いて4年目の神谷風歌と申します。ふだんは水戸放送局の広報担当として水戸局の番組である「いば6」「いばっちゃお」をみなさんにどうお伝えするか考えています。
そして、同じく4年目の藤本星香と申します。私もふだんは水戸放送局で、みなさんからお預かりする受信料を取り扱う業務をしています。
「80周年」に向けてなかなか良いアイデアが思い浮かばず、検討を繰り返していた私たち。
ある日、神谷がこうつぶやきました。
「気持ちを手紙にして伝えるっていうことが、私好きで。高校生の頃は恥ずかしいとかで、自分の気持ちをあまり伝えることができなかった。今思うと、自分の気持ちはきちんと伝えないとわからないって、とても感じる。」
私(藤本)は、この言葉にすごく共感しました。
私は自分の気持ちを言葉にすることがそんなに得意ではありません。
結局言わないと何も伝わらないことは分かっているのに、なかなか自分の気持ちを表すぴったりの言葉が見つからず、いつもそれっぽい言葉でまとめるか、何も言わずに終わってしまいます。よく仕事から帰ってから「ああ、ちゃんと言っとけばなあ…」と反省することもしばしば。
“自分が抱える思いを、自分の言葉で伝える”
そんなことのきっかけになるイベントができたらいいなと、私たちは思い始めました。
本音をぶつけるには…ラップじゃね!?
では、自分の思いをどうやって伝えるか。
単純に口に出すのはかなり難しいです。
いろいろ調べているうちに、たどりついたのが「ラップ」でした。
YouTuberの誕生日ラップ、K-POPでのラップパート…
私たちが毎日YouTubeを見てよく見かけるなあと思っていたラップ。
そういえば、水戸駅でもラップをしている若者がいたことを思い出し、調べると…茨城にはHIPHOPカルチャーが根付いていて、ラップをする若者もたくさんいるとのこと!
でも、実は私たち含めメンバーのほとんどがラップに関してはド素人。
ありとあらゆる人のラップを聞き、そしてHIPHOPやラップに関する記事を読み漁りました。
…ラップってすごい!!
純粋に「いいな!」と思いました。
ラップではいま抱える素直な気持ちをぶつけあっている。
普段の会話やSNSじゃ言いにくいことも、ラップなら本音をぶつけられるかも。
しかもラップだったら、歌の得意不得意は全く関係ない。
これだ!!!!!
「イバラキ⤴イタダキ⤴」誕生
私たちの思いから始まった企画は、水戸放送局全体のプロジェクトとして動き始めました。そして、茨城にゆかりのある若者たちにいま抱える思いをラップに乗せ表現してもらうというイベント「イバラキ⤴イタダキ⤴」を開催し、それを番組として放送することに!
制作・技術部門のメンバーだけでなく、イベントの運営や出演者の募集など、管理部門のメンバーも総動員で「イバラキ⤴イタダキ⤴」の成功に向けて走り始めました。
新型コロナウイルスの影響で、部活・サークルの大会、その他今まで私たちが「当たり前」に楽しむことができていたイベントが軒並み中止・延期になっているのを知り、このイベントが若者の一つの思い出になれば良いなと思い、毎日準備に奔走しました。
MC・ゲストには…
そしてこのイベントには、MCにお笑い芸人のカミナリさん、ゲストには音楽プロデューサーのTRILL DYNASTYさんとラッパーのあっこゴリラさんが出演してくださいました。
カミナリさんは、もちろん茨城県出身ということもありますが、何よりラップ好きということに運命を感じ、オファーさせていただきました(事務所に入った時もネタ動画ではなく自分たちのラップをする様子を動画で撮って提出したとのこと!)。
そして、2021年1月、アメリカの音楽チャート「ビルボード」の「R&B/ヒップホップ」部門で、日本人初の1位に輝いたTRILL DYNASTYさんは、なんといまも地元・茨城での制作活動を続けています。以前水戸局でインタビューをさせていただいた時、こんなことをおっしゃっていました。
「地元への還元っていうのが、僕の中のヒップホップの正義としてあって。」
ぜひ茨城の若者にアツいエールをいただきたい!と思い、ご出演いただくことになりました。
また、あっこゴリラさんも、水戸局のインタビューで、「言いたいけど言えないなと思ってずっとためこんでいると、本当はこう思っていることすら自分で感知できなくなってしまう。そういうのを気づけるきっかけにラップですごく良いツール」とおっしゃっていて、すごく共感しました(NHK水戸放送局のHPにもインタビューさせていただいた際の動画を掲載しています)。
いろんな茨城の若者12組と出会う
そして、4月。
水戸局が開局80周年を迎えるとともに、「イバラキ⤴イタダキ⤴」の出演者募集を開始しました。様々な思いを抱えた茨城にゆかりのある若者から応募が集まり、選考を経て、最終的な出演者は12組に。
例えば…
■道の駅で鮮魚を売る仕事をしつつ、アルバイトで貯めたお金でスタジオを借り、オリジナルのラップを作っている19歳
■夢は歌手・俳優・タレントとして活躍すること。有名になって、もっと広く、地元・笠間の魅力を発信したいと考える23歳
■発達障害に悩みながらも、ラップで思いを歌詞に吐き出すことで心が軽くなったという22歳
みんな年齢もバックグラウンドも異なりますが、「誰かに伝えたいアツい思いを持っている」という1つの共通点で集まった12組。ラップ講師のマチーデフさんとともに、約1か月自分の思いを込めたラップを制作してくれました。
そして、イベント当日。
6月4日(土)。
約1年前から話し始めた開局80周年記念イベントが、ついに幕を開けました。
「せーの!イバラキ!イタダキ!」
カミナリの2人の掛け声でイベントが始まりました。家族や友人などが見守る中、12組それぞれの出演者たちは照明でバチバチに照らされたステージに立ち、マイクを手に、約1か月準備したラップを披露していきます。私たちはお互いイベントの裏方として、12組それぞれのラップをフロアの後ろから見守っていました。
時には準備した歌詞を忘れてしまっても、流れるビートにフリースタイルで言葉を紡いでいく姿。会場の熱気もどんどん上がっていきます。
ラップを披露し終えた出演者たちは、「めちゃくちゃ気持ちいいですね」と清々しい顔をしていました。
めちゃくちゃかっこいい…
自分の思いを口に出すというとても難しいことを、人前に立って堂々とやっている。ずっと心の中で「最高!!!」という文字がぐるぐると回っていました。
ジブン、開放!ラップ、最高!
そして、冒頭に書いた、休憩時間に出演者が始めたサイファー。こんなことが起こるなんて全く想定していませんでした。
そこでは、みんなその時思ったことを即座にラップにしていました。イベント本番でのラップのパフォーマンスももちろんですが、私たちが当初話していた“自分が抱える思いを自分の言葉で伝える”を日常的に自然とやっているんだなということを目の前で感じました。自分たちにはなかなかできないことをさらっとやっている。かっこよくもあり、すごく羨ましくもありました。
そして、こう思いました。
このようなイベントを企画した私たち自身は、自分の思いを吐き出せているのか、と。たぶんすぐにはできないけれど、今回このnoteを書いたこと自体が一歩成長なのかなあと思います。
ジブン、開放! ラップ、最高!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
このイベントの模様は、6月24日(金)に茨城県域内で放送予定です。
番組では、今回出演してくれた12組のアツいラップを紹介します。コロナ禍で学校行事が制限されてしまった高校生やイベントの数が激減してしまったご当地アイドル、芸能界で活躍することを夢見ていたり、発達障害に悩みながらもラップで思いを吐露したりする若者など…。ふだんなかなか知ることができない「若者のリアル」がここに詰まっています。
放送後2週間はNHKプラスでも配信される予定で、全国のみなさんも見ることができます。もしお時間があればご覧ください。
両親に、友達に、先生に、上司に、社会に…
言いたいけど言えないもどかしい思いをもっている方に届きますように。
NHK水戸放送局
企画編成部 神谷 風歌
営業部 藤本 星香
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