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意地でも「生理」と言わなかった私が、言い始めてみた理由【#生理の話ってしにくい】

初めまして、二階堂はるかと言います。報道番組のディレクターとして約10年、テレビ業界で働いてきました。

これまで私は、職場で「生理」という言葉を積極的に口にすることは、ほとんどありませんでした。男性が大半を占めるこの業界(最近は変わりつつありますが)、「生理」という言葉を口にした瞬間、周囲が若干“気まずい”雰囲気になったことを何度か経験したからです。

また、そうした周囲の“意外な”反応を見たり、感じたりすることがどことなくつらかったからです。でもここ最近、自分の気持ちが変わる出来事がありました。それを書いてみたいと思います。

▶▶#生理の話ってしにくい◀◀

「生理」を忘れたほうが、生きやすかった

いまでも記憶に残っている出来事があります。それは20代半ばの頃。会社でデスクワークをしていたところ、突然、生理痛が襲ってきました。

私の痛みは、下腹部をぎゅっと力強く握りつぶされているような、両手でぐーっとゆっくり押され続けているような、我慢できない痛みではないけれど、横になって休みたい…という感じが続くタイプでした。

しかし生理痛は気まぐれ。そのときの痛みは激しく、目の前もだんだんチカチカしてきて、座っているのもつらい状況に。頭もぼーっとしてしまい、脳が一時停止しているかのように物事を考えられなくなっていきました。この状態では終業まで働けないと思い、男性上司に「生理痛がひどく帰りたいのですが…」と申し出ました。

すると上司は間髪を入れず「そんなに詳しく言わなくてもいいよ!」とまるで怒っているかのように言いました。

上司の態度の急変に、私は驚きました。
「生理」という現象を伝えただけなのに、なぜそこまで“感情的”になるんだろう。ショックでした。上司はそんなつもりはなかったかもしれませんが、私には“拒絶”されたように感じたのです。

理解してもらえる、わかってもらえる、そう思って伝えた相手が“そうではなかった”という一種の“裏切られた”感…。私は早退しましたが、この出来事は生理痛の痛みよりも強く、心の中に残りました。

それから私は職場で、「生理」ということを言わないようにしました。特に何かをできない理由として、「生理」を意地でもあげませんでした。

生理中、貧血気味になり目の前がぐるぐる回っているような気分になっている中、上司から企画の構成を早く書いてほしいと言われたときも、撮影中、生理痛がひどく体がだるい中、カメラマンから重たい三脚やカメラバックを持ってほしいと言われたときも、ナプキンをかえる時間や場所がなかなかとれない長時間の取材を任されたときも、私は何事もないかのようにふるまい続けました。

「生理」と言うことで、また“拒絶”されたら嫌だなという思いや、「生理」と言ったときの相手の“変化”を見たくないという思いもありました。

何より「生理」とことさら強調して「何かをしない」ということは、男性がほぼ大半を占めるこの業界において、“逃げ”というか、“言い訳”だと捉えられたくないという思いが自分の中にあったからです。

こうした思いを生理のたびにためればためるほど、私の意識から「生理中の自分」がすっぽりと抜け落ちていきました。「生理」を忘れたほうが、この業界で男性と“対等”にやっていこうとするためには“生きやすかった”のです。

「生理」を語る人たちに出会って

そんな人生を送ってきた私ですが、2か月ほど前に興味深い取り組みを取材しました。それは、生理用品などを手がけるメーカーの「みんなの生理研修」。

「生理を気兼ねなく話そう」という思いのもと、2020年から無料で始めている研修で、社員が企業に出向き、男女問わず社員同士で学ぶ場を設け、生理の仕組みや心身への影響を学んだり、実際にさまざまな種類の生理用品を手に取って使い方を知ったり、悩みや思いなどをディスカッションしたりしています。

ユニ・チャーム 企画本部広報室 藤巻尚子さん
「多くの人が生理について話すことをちゅうちょしてしまう原因の一つは、幼少期に学校で男女が違う教室で性教育を習ったことだと考えています。女性はなんとなく生理は“周囲に語ってはいけないこと”、男性は“踏み込んではいけない領域”のような思い込みが生じてしまったのではないかと思います。また、当社で行った調査では、女性の8割近くが生理について『男性に理解してほしい』と思っているにも関わらず、男性の半数近くが生理について『知らない』ということが分かりました。このギャップを少しでも埋めることが出来れば男女ともに過ごしやすく、職場においても働きやすくなると考えました。生理について知り、理解し、話す機会が増えれば相互理解にも繋がり、『生理は語られにくい』という価値観が少しずつほぐれていくのではと思い、研修を始めました」

生理をことさら語らなかった私とは正反対の、生理を語ろうという動きがあること自体に驚きました。さらに驚いたのが、男性社員も積極的に研修に参加しているということ。生理がこないのに、生理は“他人事”であるのに、なぜ知りたいと思ったんだろう。

私は、研修を受けたあと、いままで無給扱いだった生理休暇を有給化にしたり、生理用品を社内トイレに設置し社員が自由に使えるようにしたりなど、変化があったという会社の男性社員たちに話を聞いてみました。

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オンラインの生理研修に参加した株式会社「アイル」の社員

経営企画部 松坂英俊さん
「私の部署は13人いるのですが、そのうち7人が女性。会社にも女性社員がどんどん増えています。これまで部下の女性たちからは一切生理についての相談などはなかったのですが、もしかして悩んでいても言えないだけで、何か困っていることがあるのではないか。そうであるなら少しでも働きやすい環境にしたいし、何か力になれることはないかと思いました。社員たちが話せるためには、上司である自分に理解できる力がないといけないと思い、これまで『生理』という視点は全く自分の中になかったので、少しでも知ろうと思って研修に参加しました」

CROSS事業部 加藤祐樹さん
「妻が生理の影響で体調が悪くなったり、意味もなくイライラしていたり、そうした様子を見てきましたが、これまで気恥ずかしさもあって、生理について聞いたり話したりしたことがなかったんです。『生理』というと女性のもの、触れてはいけないこと、アンタッチャブルな領域という感じがしていました。個人的なことだし、踏み込みすぎると不快に思われてしまうのではという思いもありました。でも、これから妻と共に生きていくうえで妻を理解したいし、知らないといけないことだなと思って」

あれ、こんな風に生理について知ろうとしたり、理解しようとしたりする人がいるんだ。
生理の“当事者”ではないけど、それぞれの立場で、自分が力になれることがあるならば相手のために何かしたい…など、生理において相手を思いやろうとする気持ちが、男性の中にこんなにもあることを恥ずかしながら初めて実感しました。

生理を語っても“拒絶”されるだろうし、理解しようともしてくれないだろうという私の思い、もしかして“誤解”…?自分の中で積み上げてきた感情が揺らぎ始めました。

さらに、この生理研修を生かして、生理を語るオンラインイベントを学生たちが企画、実施した大学もありました。

取材した都内の私立大学では、学生たちがお互い配慮しあえるような社会を目指したいと、生理がある、ないに関わらず、生理について自由に意見を語りあうオンラインイベントを開催していました。

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実際に生理用品を手に取り使い方などを学ぶ学生

オンラインイベントを発案した早稲田大学 学生生活課 稲生穂高さん
「社会で『生理の貧困』が話題になったころ、早稲田大学でも生理用品を配布する取り組みを行いました。でもそのとき、『生理は日常的なことなのに、ある一定期間だけの取り組みで良いのだろうか』と思いました。そんなときにユニ・チャームの生理研修を知り、大学向けにアレンジしたものを実施できないか打診、協力を頂けることになりました。学生たちが主体的にオンラインイベントを企画、実施することを通して、学生たちと一緒に日常の中で改めて生理を考えたいと思いました」

オンラインイベントを運営した早稲田大学の学生
「ジェンダーのゼミに所属し、性に関して学んでいるのですが、ゼミ以外、例えば初対面の人や友人などの前では、自分が発言するべきときに口をつぐんでしまうことに気づきました。そういうときに、自分はこう思うと言えるように自分が変わりたいと思って、運営に携わることにしました。隠しがちな生理を学び直して、オープンに話すよい機会だと思いました。生理に関するオンラインイベントに来るのは、生理がくる人といったイメージも変えたいとも思いました」

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オンラインイベントを発案した稲生さん

オンラインイベントには30人近い学生が参加していました。ディスカッションでは、男女問わず生理についてざっくばらんに、ときには盛り上がりながら話し合っていました。

その様子を見て、「生理」って意外と話して良いことなのかもと、いままで自分の中にあった語ることへの抵抗感みたいなものが少しだけほぐれたような気がしました。

もちろん生理について無理に語ろうとする必要はないと思いますし、語るも語らないもそれぞれの選択です。

でも、語れる場があること、語れる人たちがいること、「生理を語ることができる」という選択肢が社会にあることが、さまざまな人たちが生きやすくなる、豊かな社会になるんじゃないかなと思いました。

オンラインイベントで、「楽しかった」「時間が全然足りない!」と言い合う学生たちの姿を見て、社会は少しずつ、でも確実に変わってきているなと思うと、なんだか心が熱くなりました。

自分の中にあった“偏見”

「生理」を語っても相手、特に男性は理解してくれないだろうと思ってきた私。でも今回の取材を通して、それは私の中にある“偏見”だったことに気づきました。

かつて生理を語ったことで“拒絶”されたという経験から、また相手に“拒絶”されたくない、自分が傷つきたくない、嫌な思いをしたくないなど、本当は私に語らない理由があるにも関わらず、その理由を相手の”無理解“に求め、相手のせいにしていたんだなと。

また、日常で「生理」の話題がほとんどのぼることがないことから、相手が生理についてどう思っているのかわからず、わからないからこそ自分の“色眼鏡”で相手を見つめ、わかってくれない、理解してくれないなどといった自分の“偏見”をさらに助長させていたんだなと思いました。

私は、相手の気持ちに思いをはせる前に、自分のことしか考えていなかった、私の方こそ相手への無理解があったんだと思いました。

生理と伝えたときに、態度を急変させたあの時の上司も、生理や生理である自分を“拒絶”したのではなく、ただどう対応していいかわからなかっただけだったのかもしれません。

周囲はもしかして自分が思っているよりも優しいかも。生理でしんどい時、何かをできない時、頼りたい時、周りの同僚を、先輩を、上司を、もう少し信頼して、「生理だ」と言えそうなら言ってみようと思いました。

伝えた時の周囲の反応にもしかしたら嫌な気持ちや悲しい気持ちになる時があるかもしれません。でもきっと、決してわかろうとしていないわけではないんだと、そういう思いを抱いてみようと思いました。

つい先日、わりと重めの仕事が当たりました。昼から短時間で取材し、夜のニュース番組で放送するという、時間がない中での制作。

こういうときに限って生理2日目。案の定、朝から頭がぼーっとしていて、体もだるい。次第に座っているのも辛くなりましたが、自分が休んでしまったら迷惑かけるし、ちょっと我慢すればなんとかいけると、いつもの意地っ張りな思考回路。

でも、と思い上司に

「あの…腹痛というか、生理痛がひどくてちょっときついです」

と言ってみました。

「ええ?!」と目をまんまるにして驚いた上司。一瞬、次にどんな言葉がくるんだろうと身構えましたが、上司は

「無理しないで、帰ってもいいんだよ」

と何事もなく言いました。

あぁ、伝えて良かったかも。
上司の驚いた、そのすっとんきょうな表情に吹き出しそうになりましたが、なぜだか憎めないなと思いました。

ディレクター・二階堂はるか

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