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ドラマ『17才の帝国』脚本・吉田玲子×佐野亜裕美P 制作談義

5月から全5回で放送した土曜ドラマ『17才の帝国』。
実験都市UA(ウーア)で、AIにより選ばれた17才の総理大臣を筆頭に若者が政治を行うという、異色の青春SFエンターテインメントドラマは、若い人たちを中心に大きな反響を呼びました。

 脚本を手掛けたのは、数多くの人気アニメ作品の脚本家・吉田玲子さん、プロデューサーは話題作で知られる佐野亜裕美さんという、これまた異色の制作陣。NHKの制作統括、訓覇くるべ圭と3人の座談会が実現しました。作り手ならではの制作秘話をお届けします。 

画像 座談会のようす

脚本家:吉田玲子さん 
「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」「ガールズ&パンツァー」など
プロデューサー:佐野亜裕美さん 
「カルテット」「大豆田とわ子と3人の元夫」など
制作統括:訓覇圭 「いだてん」「あまちゃん」など
聞き手:武内陶子アナウンサー

アニメ×AI×SF→ドラマ

 ――今回の「17才の帝国」はジャパンアニメの立役者たちが集まって新たな風を吹き込む、NHKドラマとしてはちょっと新たな試みだったと思いますが、これはどういう流れでこの企画が立ち上がったのですか。

 訓覇:「土曜ドラマ」の放送枠ですけど、こういう時代なので配信での視聴がすごく大事になっていて、NHKとしても海外に向かって番組を配信していきたい思いがあるんです。このドラマも、NHK WORLD-JAPANというチャンネルと一緒に組んで全世界に出していこうっていう大きな目的があって。

それで僕も、海外配信を目指すならNHK外のプロデューサーの方と一緒にお仕事できればと思い、佐野亜裕美さんが良いんじゃないかなと思ってお声がけしました。

そして、海外のプロデューサーの方に「日本のドラマだと何が見たい?」ってリサーチすると、実写よりもジャパンアニメの印象が強くて、やっぱそこってすごいんだなと思いましたね。さらにその中で、「AI」や、今回の題材の「SF」とかに興味あるよというリサーチ結果も得て、佐野さんと相談し、佐野さんが「アニメという切り口をどういうふうに実写に入れていくか」という流れで「吉田さんに頼めないかな」と。佐野さんが吉田さんを訪れたところからすべて始まりました。

 ――佐野さんは民放でも本当に多くの大ヒットドラマを連発していらっしゃいますプロデューサーですよね。

 佐野:大ヒットはしてないんですけど。 一部の人から深く愛していただいているという感じです(笑) 

――NHKでドラマをプロデュースするっていうのはどうでしたか。

 佐野:じつは今日、今作の衣装を担当してくれた伊賀大介さんと別作品の衣装合わせで再会して、図らずもそんな会話をしたんですけど。完全に別の星に来たみたいな感覚でした。全てのやり方・進め方・考え方とか価値観が違って。もちろん同じ部分もあるんですけど違うことがすごくたくさんあって、違う星でドラマを作るみたいだった。ていうのが率直な感想です。

でも本当にすごく学びが多くて、ここのことをここまで深く丁寧に考えて作るんだっていうことですとか。

時間のかけ方もすごく勉強になりましたし、NHKにしかできないドラマの作り方だなと思って、すごくいい経験になりました。

画像 佐野プロデューサーと武内アナウンサー
「違う星でドラマを作るみたいだった」と振り返る佐野亜裕美プロデューサー(右)

 ――プロデューサーというとキャスティングもお考えになると思うんですけど、今回もアニメ界のすばらしい声優でいらっしゃる緒方恵美さんが、AIの声を担当されましたよね。

 佐野:ソロン(劇中にでてくるAI)の声をどうしようかといろいろみんなで話し合って。 最初は普通に、実写で俳優さんをやっていらっしゃる方にお願いしようかというお話もあったんですけれども、やっぱり「声だけ」でどう見せるかっていうお芝居がソロンにはすごく多いので、アニメの声優さんがよいのではないかと思い、そこで私の浅はかな知識の中で誰がいいかって考えるよりは、もうプロフェッショナルである吉田さんに相談したほうがよいなと思いまして。吉田さんに、どなたかイメージされる方はいますかとお聞きして…という経緯でした。 

細かなニュアンスの積み重ね

 ――吉田さんも本当にいろいろなアニメを手がけていらっしゃいますが、今回実写のドラマというところでアニメと違う意識をなさったことはありますか。

 吉田:書く際にはそんなに意識はしていないんですけれども、実写とアニメの1番の違いは、アニメーションは絵ですので、キャラクターたちが自分で芝居をしないっていうところで、実写の場合は役者さんたちが自分の役柄について考えてご自分で演技を作ってくださる。そこが一番、違いとしては大きいんじゃないかなと自分としては思っています。

 ――実際に今回もすばらしいキャスティングで、総理大臣になる17歳の高校生は神尾楓珠さん、それから星野源さん、柄本明さん。などなどたくさんの方たちがご出演ですけど、実際に吉田さんがお書きになった脚本でリアルの役者さんたちが動いていくのはどんな感じでしたか。

 吉田:ちょっとした芝居、しゃべらない、セリフじゃなくて目線を外したりであるとか、ちょっと表情を変えたりしてくださるところとか、そういう細かなニュアンスの積み重ねで芝居をしてくださってるんだなっていうところに感動しました。

 ――アニメではなかなか無いでしょうね。アニメはアニメーターの方がそこも全部書くしかないんですもんね。

 吉田:アニメーションで細かい芝居はなかなか難しい部分がありますので、たとえば目だけでとか、顔の圧とか、顔だけで存在感があってどういう人か分かるみたいな、面構えみたいなものですかね、そういうものがすごく画面の中で生き生きとしてきたっていうか存在感があるなと思いました。

顔の圧はやっぱりあるなと思いました。刻まれた年輪であるとか、その人がどう生きてきたのかさえ、その過程が何かちょっと透けて見えるような顔っていうんですかね。 

――なるほど…。 やっぱりアニメ映画の脚本を書いている方なので言葉が面白いですね。 

劇中写真 神尾楓珠さん

訓覇:吉田さん、セリフを書く感じとかは、実写だとこうだなとか何かありました? 説明しなきゃいけないことがアニメのほうが多いんですかね?

 吉田:今回は、現実というよりもちょっと一歩“世界”を作ってるのでいろいろ説明しなければならないこともありますし、そういう意味ではアニメーションの書き方とそこまで変えたようなことはないです。

現実のほうが加速してきた

 ――ここでまたすごくおもしろい核になるのがAIのソロンと一緒に政治をしていくっていう展開。AIって今すごく注目されていますけど実際には無いことを書いていらっしゃるわけじゃないですか。 その辺はどういう発想で吉田さんは書かれましたか。 

吉田:AIに関してレクチャーいただく時間をセッティングしてくださって、「今、AIではすでにこういうことまでできますよ」とか、「これからはこういうことができていきますよ」っていう取材をさせていただけたので、そこを取っ掛かりにしました。

――たしかに「こういう時代が来るかもしれないな」「これからどうなっていくんだろうな」って彷彿とさせるようなストーリーもありましたよね。

 佐野そんなに遠い未来じゃないんじゃないかなっていうか、むしろそういうことが起こり始めてるんだなと思って、現実の方が自分たちが想像してたことより近づいてきてるなという感じがあります。

ドラマの最初のオープニングで出てくる「円安が進んで…」というところも、最初にこのドラマを立ち上げて作っていた去年、2021年8月の段階でそういうセリフを書いてもらってたんですけど、結果いま、円安も進んで大変なことになっていて。あのときは誰もこんなに速いスピードで来ると思ってなかったのに、そういう事態になったりして、あくまでSFのファンタジーとして作ったはずなのに現実の方が加速してきたなという感じがあって、それはそれでやっぱりドラマ作りって面白いなって思いました。

 ――こうやって後から制作秘話を聞いてみると面白いですね。 吉田さん、今回のドラマにはどういうメッセージを込めてお書きになりましたか。

 吉田:政治を題材にした話ですけれども、政治に関わらないほかの人たちでも若い頃、17才の頃に理想を抱いたり失望を抱いたり絶望したり、むしろ社会を憎んだりしたことがあって、その時代を経て大人になっていくんですけど、だんだん大人になっていくと考えていったことが現実に負けてしまうというか失われていくというか、自分の中で損なわれたことがあると思うんです。そのことがむしろ一番描きたかったことかなって今は思っています。

今17才の人たちは今の自分を、これから17才になる人はこれからの未来を、そしてかつて17才だった人たちはそのころに自分が何を思っていたかを考えてもらえるドラマになればなと思っています。

 ――ドラマを全部撮られて、吉田さんはちょっとグッと来たみたいなところあります?

 訓覇:それおもしろいね。僕も聞きたいな。

 吉田真木くんの演説シーンは、やっぱり神尾さんの声で聞くとすごくいいな、グッとくるなと思いました。感情を出しすぎず、かといってその想いはあふれそうになるのを懸命に自分の言葉で言おうとする喋り方が、胸に迫るものがありました。

劇中写真
神尾楓珠さん演じる “17才の総理”真木亜蘭の演説シーン

――佐野さんはいかがですか。

 佐野:私は、1話にある「星野さんが靴を磨く」ところと最終話のシーン。初稿にはなかったと思うんですけど、 途中で星野さんの「靴を磨く」っていうシーンが加筆されたタイミングがあって。これは一体、その後このキャラクターのこれはどう展開してくるんだろうと思って吉田さんにそのことをお伺いしたら、「最終話では、星野さん演じる平が真木君の靴を磨くっていうシーンを描きたいなと思ってるんです」とおっしゃって、「すごくいいです!」って言った記憶があるんです。

 ――どういう展開でそうなるのかぜひ皆さんごらんいただきたいポイントなんですけど。伏線の回収みたいですね!

 佐野天才って思いました!「平の靴磨き」からの「平が靴磨く」っていうところはすごく好きなところですね。

劇中写真
星野源さん演じる平清志が真木の靴を磨くシーン(最終話)

――最後に制作統括の訓覇さん、一言お願いします。

 訓覇:今回1回放送してるので、いろんな感想をお聞きしていてちょっと不思議な感じで今しゃべってるんですけど、いただいた感想に、小学生のお子さんや「子どもが見てすごく喜んでます」という声もあるのがすごくうれしくて。

難しい政治の話でもあるんですけど、僕らとは違った子供が見て新しい政治への興味だったり、そういうところが届いていくといいなと思っています。大人の方にはワクワクしていただけるでしょうし、よかったらお子さんにも見て頂けると楽しいんじゃないかなと思います。

 今週末、全話イッキ見放送あります!

画像 一挙再放送のご案内

 【放送予定】『17才の帝国』 総合テレビ
6/25(土)※金曜深夜
午前1:55 #1「帝国誕生」
午前2:45 #2「幸福への選択」

6/26(日)※土曜深夜
午前0:25 #3「夢見る街」
午前1:15 #4「理想の世界」
午前2:05 #5「ソロンの弾劾」

出演:神尾楓珠、山田杏奈、河合優実、望月歩、染谷将太、星野源ほか
作:吉田玲子
制作統括:訓覇圭
プロデューサー:佐野亜裕美
演出:西村武五郎、桑野智宏

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