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いくら“勉強”したってわからないことの方が多い。でも…【#生理の話ってしにくい】

「視聴者コミュニケーション推進室」という部署で仕事をしている川上雄三と申します。
視聴者の皆様に「NHKは必要だ」と思っていただけるような施策を考える部署で、主に若い人向けのイベントなどの開発を担当しています。 

今年の夏までは報道番組を担当するディレクターとして仕事をしており、最近よく耳にするようになった「生理の貧困」を取り上げた「クローズアップ現代+」を制作しました。 

もともとジェンダー問題に興味があったのもあって、制作チームに入りましたが、メインで番組制作に携わったメンバーの中で男性は私一人でした。
ただでさえ、ドキドキしているのに、番組プロデューサーの一言でさらに私はおびえることになります。 

「私たちはこれまで今回の川上君のように、男の人ばっかりの中、女一人で闘ってきた。あなたもそれを経験してみなさい」 

どんな壁にぶつかるのだろう。放送を1か月後に控えた私は戦々恐々としながら、取材を始めることになりました。
そのときのことを振り返って書いてみたいと思います。  

▶▶#生理の話ってしにくい◀◀

わからないことを正直に伝える

私は国際番組で主に海外取材を担当するディレクターだったので、日本に先駆けて「生理の貧困」に向き合ってきたアメリカやイギリスの取材を担当しました。

「生理の貧困」は、女性だけの問題ではなく、男性中心の社会構造が根底にあるということが取材の中でわかってきて、番組の中でもそういったメッセージを伝えようと考えました。 

そのためには、自分一人でどこまでできるのか自信はありませんでしたが、前提となる知識に男女で大きな差がある「生理」というテーマに、“男性目線”をしっかり番組の中に入れ込むことが私の役割だと思い、実行しました。 

たとえば、ナプキンやタンポンの描写。アメリカでは生理用品への課税が議論になっていることを、イラストを使って表現しようとしたのですが、男の私からするとイラストだけ見せられても、何が何だかわからない。 

それを伝えると他のメンバーからは「女性たちからすると当たり前だけど、男の人はそこからなんだね」と理解を示してくれました。 

結局、ナプキンやタンポンはイラストだけでなく、下に名称をいれることで、生理用品を見たことのない男性でも理解できるように修正をしました。「その程度のことをおおげさに…」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、「男性がチームにいてくれることは、男性に理解してもらう上でとても大切だ」と言ってくれたのが今も印象に残っています。 

イラスト 生活必需品:食品、薬、野球チケット、ゴルフ会員権、タトゥー その他(課税)ナプキン、タンポン 生理の貧困 社会を動かす女性たち 問題の根源に何があるのか PeriodEquityより
最終的にこうなりました


「わからないことはわからない」

これをきちんと伝えると、「男は何もわかってない」ではなく、女性たちも「どうすればわかってくれるのか」考えてくれて、結果的に番組の内容も男女間のギャップが埋まったと感じています。

仕事だけでなく、家庭にも変化が 

生理用品を買ったこともなければ、さわったこともない私は意を決して、妻にもある相談をしてみました。 

 「今度スーパーで生理用品コーナーを案内して欲しい」 

嫌そうな顔をするかなと思いきや、「どうしたの?まあいいけど」と意外と乗り気な妻。後日、一緒に買い物に行くと、本当に生理用品コーナーに連れていってくれました。

これまでなんとなく聖域というか、近づきづらかったこの場所。まじまじとパッケージを見ていると、妻が説明を始めました。 

「羽根つき、羽根なしというのがあって…(以下、説明)」 
「え、羽根つきの方が付けやすそうでいいんじゃないの?」 
「羽根つきのほうがちょっと高い」 

このような感じで、スーパーの一角で妻→夫の生理用品講座が行われました。 

以来、同僚の女性ディレクターが教えてくれたYouTubeにアップされた生理に関する動画を見ていると隣で「わかるわー」と話しかけてきたり、ふとしたときに「生理の時は…」というような妻の生理観をレクチャーしてくれたりと、これまでになかった生理の話題を夫婦でするようになりました。 

「わからないことはわからない」と言える空気を 

最初にも書きましたが、私はこれまでジェンダー問題についてずっと関心を持ってきました。 

きっかけは、マイノリティの人たちがあつまって自分のことを他人に話す「ヒューマンライブラリー」というイベントの取材です。 

ここにはLGBTの人たちも来ていて、 

「性の話は男/女だけでは二分できなくて、グラデーションがある、誰もが関係ある話。だから、“性的少数者”のために考えるんじゃなくて、自分たちのために考えるんだ」 

という話を聞きました。
生理の貧困もそうですが、こうしたジェンダーの課題は「女性のために考える」のではなく、「自分が生きる社会をより生きやすくするために考える」ものであるということに気づき、以来、取材を続けています。 

それからは、たとえば、社会の中のジェンダーギャップをテーマに番組を作ったり、LGBTの取材のためにスウェーデンに行き、“ジェンダーフリー”の姿を目の当たりにしたりするなど、普通の男性よりは、「ジェンダー」や「男女」について理解していると思っていました。 

しかし、それは傲慢な考えで、いくら勉強してもやっぱりわからないことの方が多い。「生理の貧困」の取材を続ける中で、一番感じたことがそれです。 

かといって「わからないこと」は恥ずかしいことではない。女性の生理について、学校や社会で学べる場はほとんどありません。

「だから、わからなくてもしかたない」と開き直るのではなく、「わからないことをわからない」と伝え、知りたいという姿勢を示すことはとても大切なことなのです。そして打ち明けられた女性の皆さんにも、私の同僚たちのように、そんな男性を受け入れてあげてもらいたいと思います。 

日本社会で生理の話はまだまだオープンにしにくいテーマですが、互いに一歩ずつ歩み寄ることで、男性にとっても女性にとっても生きやすい社会ができあがるんじゃないかと思っています。 

 ディレクター ・川上 雄三 

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