電子投票と政治教育
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電子投票と政治教育

一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)

先日、ニュースでつくば市の高校の生徒会の選挙で“ネット投票”の実証実験が実施されたと報じられていた。実にすばらしいことだ!

https://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000221785.html?fbclid=IwAR3T8dQlYMKgN9hM-719k_a5O34n4e1EILXLJuEjpD-9psqER3IS0oY6DLc

ネット投票ないし電子投票については、早く導入して欲しいという声もあり、とくに若い世代で導入への期待も高まっているようだが、まだ国政や地方選挙での本格的な導入の動きはない。

若者の政治的関心が低く、投票率も低いとき、投票しやすくすることによって、政治参加を促すことができると思うが、社会全体としてはまだ消極的である。

どうやらセキュリティが心配で不正のリスクがあるとか、現状の方法で問題ないのにあえて信頼のおけない方式に変える必要性が感じられないといった思考の慣性が、導入の障害となっているようだ。

だが、現代社会における選挙は、何よりも民主主義の基盤であり、それが適正に実施されて初めて正当な代表者を選出することができる。海外で不正選挙がしばしば紛争の種となっていることは改めていうまでもない。

たしかに、投票の方法を今の方式から電子投票へ変えることは、コストもかかりリスクもある。それならば、つくば市のケースのように、小さな単位で実験し、それを自治体規模に拡大し、実証しつつより信頼のおけるシステムに改善していってはどうか。

海外でも公式の制度として導入されているところはまだ少ないようだが、すでに導入しているのがバルト諸国の一つエストニアである。エストニアは、近年、デジタル先進国として有名だが、デジタル技術の社会への応用が進んでおり、電子投票制度もその一つである。

選挙は、さまざまな公的手続の中でもとりわけ公正、厳格さが要求される。被選挙権者、有権者の資格確認はいうまでもなく、有権者が確実に一票を投票したか、なりすまし投票は行われていないか、また、誰かに強要や監視されることなく、つまり誰に投票したか他者に知られることなく、自らの意思で投票したか、投票箱に入れられた票は、差し替えや抜き取り等の恐れもなく、開票所に運ばれ、開票所でも紛失やすり替えもなく、正確に集計されたか・・・等々、大勢の人出と時間、費用をかけて確認しつつ実施されることが要求される事業である。

それにもかかわらず、現状では、票の集計において紛争が起こることもある。海外では珍しくない。わが国では開票や集計をめぐる紛争はめったにないが、有権者に、投票用紙に印刷された候補者名にマークさせるのではなく、候補者名を書かせるため、判読において曖昧さを払拭できない。また、投開票や集計は厳格に行われるのに、投票において有権者の本人確認は行われていない。その意味では、紛争の種は存在している。

これほどの手間暇をかけて実施される選挙であるが、電子投票にすれば、その作業は格段に効率化されるといえよう。

たとえば、つくば市の高校の生徒会の選挙のように、スマートフォン(スマホ)のアプリを利用すれば、投票自体容易であるし、集計、開票の手間は著しく減少する。おそらく次のようなイメージだろう。

まず、各自のスマホにダウンロードした投票用アプリを立ち上げ、自分のIDを入力し、パスワードや顔認証の方式によって本人確認を行う。それは、自動的に選挙システムに記録される。国政選挙や地方選挙の場合には、マイナンバーにリンクさせ、投票したことを確実に記録することが必要だ。

ログインできたら、次に候補者リストのページを開き、自分が投票したい候補者名の前のボックスにチェックをする。もう一度確認のメッセージが出て、確認ボタンをチェックすれば、それで有権者が行う投票行為は終了である。

投票する前に、候補者についての情報をもっと知りたければ、候補者名をクリックする。すると、候補者の写真、プロフィール、そして政治信条や公約等をみることができるようにしておけばよい。

このような投票方法の便利さは、まず何処でもいつでも投票できることだ。決められた投票日に、悪天候の中、長い道のりを投票所へ行かなければならないといった地方での投票の負担は大いに軽減される。有権者にとって、投票のコストは大幅に減り、それだけ投票率の向上に貢献するだろう。

そして、スマホでの投票結果は、途中に人間が介在することなく即座に集計され、安全なストレージに保存される。そして、投票終了時間が来れば、そのときの集計値が公開される。娯楽としての開票速報をみての一喜一憂はなくなるが、システムが安全で信頼できるものである限り、集計や開票に不正の余地はない。

もちろん、現状では、このような電子投票の方法に問題点がないわけではない。

第1に、投票のシステムが本当に安全なのかという点である。技術的な事項についての評価能力はないが、すでに導入しているエストニアでは、これまでに何回もこの点についての議論があり、改善が積み重ねられてきたという。参考にすべきだろう。

ただ、わが国でも、選挙における投票ではないが、同様の仕組みは、企業の株主総会における株主の投票ではすでに使われている。また、投票ではないが、電子決裁等、社会において重要な行為がすでにデジタル化されている。これらのセキュリティと比較して、投票はとくにリスクが高いという根拠はあるのだろうか。

第2に、投票の秘密をどのようにして担保するかということである。投票所の台の上で候補者名を書く場合は、他者の圧力や監視を防止することができる。しかし、いつでも何処でも投票できるとしたら、密室で背中にピストルを突きつけられて特定候補をクリックするように強要される可能性がないとはいえない。

だとすれば、秘密投票、自由意思による投票は担保できない。この点については、エストニアでは、投票締め切り日までは、何回でも投票をやり直すことができる制度を設けている。

投票開始から締切日まで何日もの間、脅迫や監視を続けていることは不可能であるから、監視がなくなったときに、自由意思に基づいて自分が入れたい候補に投票すればよい。

私が聞いたときには、このような説明を受けたが、実際には脅迫による投票の例は少なく、むしろ期日前にある候補者に投票したが、その後の演説を聴いたり、スキャンダル情報に接して、心変わりをしたときに利用されるのであろう。

ただその場合、一人の有権者が重複して投票することのないように、誰が投票したかという情報とどの候補者に投票したかという情報を分けて記録しておく必要がある。

物理的イメージを示せば、いわゆる二重封筒方式という方法で、有権者名の書かれた外側の封筒の中に、投票する候補者名を書いた投票用紙を入れた無記名の封筒をいれて提出するのである。受け取った選挙管理者は、外側の封筒の名前を見てその有権者が投票したことを確認し、内側の封筒を取り出して投票箱に入れ、それを投票終了後に開封するというやり方である。

エストニアのケースの場合、投票をやり直す場合には、内側の封筒を入れたままの外側の封筒を返却してもらい、内側の封筒のなかの候補者名を書いた投票用紙を入れ替えて、内側の封筒を封印し、それを外側の封筒に入れて再提出するのである。この手続を電子的に行うのが、エストニアの方式である。

第3に、電子投票が普及した場合の問題として指摘されることがあるのが、たしかに投票率は向上するだろうが、容易に投票できるため人気投票的に安易に投票が行われる可能性があるというものである。政治とは、選挙とは、もっとまじめに国や地方のリーダーとしてふさわしい人物を慎重に選ぶ行為であって、世論調査とは異なるという意見である。

その可能性は否定しないが、有権者の認識はともかく、選挙のコストを下げ、投票率を高めるのが狙いであり、この批判は当たらない。そもそも現在の方式において人気投票的要素がないとはいえないであろうし、それすら面倒だという者が投票率を下げているのではないか。

第4に、スマホは普及しているとはいえ、まだもっていない人、もっていても使いこなせない人は少なくない。とくに高齢者はそうである。彼らはどうするのか。スマホ投票を導入すると、彼らの権利を奪うことになるのではないか。

電子投票制度を導入しているところはどこでも、また今回の実証実験を行ったつくば市の高校でも、全面的に電子投票にしたのではなく、従来通りの紙による投票も認めている。当分は、併用を認め、次第に電子投票の割合を高めていくべきであろう。

それとともに、電子投票の仕組みを改善して、誰でも容易に使いこなせるようなデバイスに変えていくことが重要である。

これら以外にも、まだ検討すべき点もあると思われるが、わが国でも導入を推進していくべきだと考える。とくに、わが国の場合、投票所における本人確認が行われていないので、二重投票やなりすまし投票のリスクが存在している。アプリへのログインという方法で、しっかりとした本人確認を行うべきである。

それらの点を確認し、よりよい投票システムを形成していくために、つくば市のような高校の生徒会選挙や大学の自治会選挙その他の団体等で試行し、改善を図っていってはどうか。そして、地方自治体で実証し、次第に国政選挙への導入を図っていくのがよいと思う。

なお、関連して述べておきたいことがある。

第1に、政治教育の重要性である。とくに若者に対して、投票の仕方だけではなく、候補者の人物、資質、所属政党、そして公約等をどのように評価して一票を投じるべきか、それについての考え方や判断の仕方を教える場を作らなければ、電子投票によって投票率だけを上げても意味がない。

わが国では、政治家の主張や政党に関わることについての教育はタブー視されているが、それでは.仮に投票率が向上しても、有権者は育たず、政治はよくならない。

第2は、高校や大学で実証実験をするとき、参加する若者は、あえてシステムの悪用や不正行為を試みて欲しい。そして、不正行為を実行できたら、今度はそれを防ぐ手立てを研究して欲しい。不正をするなといっても、悪事はなくならない。そうした試みによって、よりセキュアで信頼できるシステムを作り上げていくことが重要である。


一般社団法人次世代基盤政策研究所(NFI)
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