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虫か花か

虫か花か。虫か花か。
「そりゃぁ花でしょう。誰がすき好んで虫なんか選ぶんだ」
「そうですよね。」
虫の何がそんなに気に入らないのか。まぁ、そうか。

「この間、佐貫さんの家の娘さん亡くなったってね。お葬式出られなかったんだけど、あの子は本当に可愛かったね。お友達のお手紙とお花に埋もれた姿が本当に白雪姫みたいだったんだってさ」
「今度お線香あげにいくわ、あの子バラが好きだったし、菊なんかよりそっちの方がいいかなぁ」
花の方に行けた人は大丈夫だ。予期せぬ事態だとしても、大丈夫じゃなかったからいなくなってしまったにしても、大丈夫だ。所詮切花、枯れるにしたってあなたと同じだ。同じ灰になる。

「藤井さん、全くLINEも返さないし、電話にも出なくなったね。仕事、飛んだのかな」
秋にも関わらず暑い日が続いている中、静かな部屋で静かな儀式があった。どうやら、家族にも友達にも伝えておらず、SNSなんかでもその儀式の遂行を知らせることはなかったようだ。そろそろ一週間とちょっと前の話だった。知らなかった。真夏日ではなく、秋にしては、というくらいのこの程度の暑さなら、そりゃぁ生き物達は元気でしょう。お腹を空かせて。ただお腹を空かせて。生きるために辿り着いた餌の、それがなんであるかなんて虫には分からない。ただみんなで食べられるご飯が見つかってみんな嬉しそうだ。私は人間だからわかった。首を吊った人間の死体だ。ただ、机の上の彼が綴った手紙には、虫すら興味を示さないようだ。

虫か花か。虫か花か。
死んだ時私は、花に埋もれるのか、虫に塗れるのか。
どちらにせよ、きっと私は何も思うこと等ないだろうに。


早くちょうちょになりたい