「本当にやりたいことに集中する~次世代/ティール型組織の国内NGO導入事例から」HAPIC2021登壇でのセッションから事例紹介②

NexTreams広報担当ロールのやっさんです。前回に引き続き、HAPIC2021(2月15日)での「本当にやりたいことに集中する~次世代/ティール型組織の国内NGO導入事例から」ワークショップから自己組織化組織(Self-Organization)の支援事例を紹介します。

第2回目は、株式会社BowLでの支援事例です。
(注:BowLの支援事例はNexTreamsで行ったものではなく、NexTreamsメンバーの桑原香苗(以下かなえさん)が個人として自己組織化組織へのコンサルティングサポートをした事例です)

(導入前の状態と課題認識)
BowLは2013年1月に設立され、うつなどの精神障害から復職支援・予防サービスを沖縄で提供している株式会社です。現在の社員数は14人になります。

BowLは創業経営者が豊富なビジネス経験を持っているトップダウン型リーダーであり、従業員からも尊敬を受けています、組織が実現したいことへの響き合いも強く、もともと社内に培っていたケアスキルの高さもあり、人間関係は稀にみる良好さを培っています。

しかしながら、リーダーへの尊敬心が高いケースでよくありがちなのは、組織として合意尊重がないわけではなくても、自然とリーダーに意思決定や判断をゆだねる傾向が強くなります。BowLの場合、創業経営者が経営基盤安定後にもともと強く願っていた「全メンバーが自立して活躍できるチーム」を目指し、フラット化を進めました。意思決定は全員合意を基本とし、人事評価もなくした上で賞与を投票制に変更し、有給休暇を相互承認で取得可能にするなどを具体的に進めました。

その結果、すべての事項について全員で合意形成を進めることで、時間がかかることになり、業務上での混乱がみられるようになります。事業展開の拡大によるメンバーが増えて言ったこともこの混乱に拍車をかけていきました。その結果、最終的には代表が決断を下すという、合意形成の罠(グリーンの罠(注1))という不本意な現実が表れ出しました。具体的には、事業成長の鈍化、離職などの発生、ガバナンスの弱体化といったことです。

BowLにとっては、うつなどの精神障害からの復職支援・予防という、人を大切にしたい願いがとても強い会社であり、この本来の願いとかけ離れた不本意な現実に直面した時のメンバーの痛みはいかほどだったか察するに余りあるものです。しかし、こうした願いと痛みの表出がBowLを次の段階へと押し上げていくテンションになっていきました。

(何を行ったのか?)

BowLはかなえさんが個人的に2018年12月から支援を開始しました。導入の枠組みは、「ホラクラシー®を活用した自己組織化組織」となります。導入スケジュールは以下の流れになります。

導入スケジュール
① 2018年8月 :BowLのNo.2が桑原と出会い導入希望を伝える、BowL社長が導入決定
② 2018年12月:自己組織化組織導入ワークショップ(2日半)
〜その後、現在まで必要に応じ個人コーチング&コンサルティング
③ 2019年6月 :ランゲージ・オブ・スペーシズ(LoS)ワークショップ
〜8月までLoS個人コーチング
④ 2019年12月:プロセスワークワークショップ(2日半)
⑤ 2020年5月:LoSフォローアップ&シナリオプランニングワークショップ(2日半)

もともとBowLは自己組織化組織を導入する前にも、社内のメンバー全員でNVCなどを導入し、個人の内面を大切に扱い、内的成長を促していく組織風土を有していました。すでにそうした土壌が培われていたため、主に外面的なアプローチでかなえさんは支援していきました。

この内面・外面という表現はケン・ウィルバーがインテグラル理論で示される4象限モデルをイメージしてもらうとわかりやすいと思います。

内面的アプローチ
・メンタルモデルやNVC®などの内的な自己変容のアプローチの実施
(自己組織化組織導入前からBowLで実施)
・自己組織化組織の基本的な考え方の紹介
・組織パーパスの明文化
・自己組織化組織で働くためのスキル構築
・セルフマネジメントスキルのトレーニング(GTD®とランゲージ・オブ・スペーシズ(LoS))

外面的アプローチ
・全ての仕事の棚卸しを行い、仕事内容と権限を再定義
 (仕事の役割を「ロール」化し、ロール全てにパーパスとアカウンタビリティを持たせる)
・タクティカルミーティング・ガバナンスミーティングを導入

このあたりの具体的な手法・アプローチはJANICと共通します。これらの手法はある意味、武道で言う「型」であり、この「型」を通してそれぞれの組織や仕事のオリジナリティが発揮できると考えてもらっていいでしょう。(このあたりの「型」とオリジナリティの関係も大変興味深く、いずれこのブログで紹介したいと思います)

(何が達成できたのか?)
自己組織化組織の導入から約1年半がたち、BowLでは以下の変化がありました。

・発言の少なかった若いメンバーも声を出し始めた
・ロールが責任をもって決める
・若いメンバーが事業を任され実績を出した
・メンバーが主体的に働きやすい環境整備や自己成長のケアを行うまでに 個々のリーダーシップスタイルが変容
・LoSやNVC®の実践で組織が安心安全を見出せる場になった
・コロナ禍の対応:ロール同士が主体的に動き合い、大きな混乱なく、支援スタイルのオンライン化という大胆な経営転換に柔軟に適応。黒字を維持。以前にもまして組織のレジリエンスの向上を実感。

もともと仕事内容に共鳴してきたメンバーですが、組織パーパスが明確になり、仕事の判断軸がより明確になりました。「あの上司が喜ぶから」「あの人と争いたくないし」といった属人的判断ではなく、パーパスドリブンだと「この組織と自分自身のパーパスのために本当に必要なことは何か」といった視点から判断するなり日々の仕事に取り組むことが増えてきます。そして、仕事と情報共有の効率化により全体像が前より見えやすくなりました。

(望ましい変化を促したもの、スローダウンしたもの)
BowLに望ましい変化を促したものはなんだったでしょうか、以下のようなことがあげられます。

・組織のパーパスを全員参加のワークショップで策定した。これはすでに設立当初から創業社長が体現していた
(パーパス:「働く人が自然に自分らしく輝き、愛や エネルギーを循環させる社会を共創する」)
・創業社長&No.2の高いビジネススキルをもともと有していた。
・創業社長&No.2が、「全メンバーが自律して活躍できるチーム」をめざし自ら変容を続け、言行一致で権限委譲、人のサポートに注力した。例えば、No.2は高いITスキルと実務能力で「ホラクラシー®定着」ロールとして多様なサポート実施した。
 ・メンバーは20〜30代中心で若い組織であり、パーパスとの響き合いが高く協調性が高い。
 ・社内でのメンタルモデルやNVC®など内面を扱う研修の継続実施
・フラット化の痛み、”グリーンの罠”の実感し、次のステージへの準備がある意味できていた


以上のように、トップを含む組織メンバー全体に組織を進化させたい想いと、変化に対する柔軟性の高さ、組織へのコミットメントが望ましい変化をもたらしたといえます。

反面、今後この動きを進めていく上でスローダウンさせる要素としては、以下があると思われます。
 ・組織のトップリーダーの経験や視座の高さからアドバイスや影響力を発揮したくなる
 ・新たな考えや行動への戸惑い(当初は指示待ちが習慣化していた)
 ・仕事の効率化・明確な言語化・ITスキルのメンバー間のバラツキ
 ・人間関係の維持優先の傾向が強く出る
 ・リーダーシップスタイルの変容途上(変化変容に対処することは大きなチャレンジであり、そして大きな可能性でもあります)

お気づきのように、望ましい変化も、スローダウンさせる要素も前回のJANICとの共通点が多いです。しかし、BowLの場合は、もともと創業社長の高い視座と理念に共鳴したメンバーがいて、創業社長への強い尊敬があったこと、内面の成長について高い意識を持っていたことが特徴的です。

BowLの自己組織化プロセスで素晴らしいのは、社会が抱える課題(鬱などに苦しむ人への就労支援など)を1人1人のメンバーが解決したいと強く願い、創業者のジレンマ(自ら作り出したものを変えていく大変さと痛み、尊敬するが故に創業者に頼りたいメンバーの気持ち)を抱えていながら、一人ひとりが「本当に大切にしたいものは何か?」に立ち返り、そこに勇気と誇りをもって踏みとどまり、個人も組織も自己変容を遂げてくプロセスを歩んでいることです。課題やチャレンジはBowLも抱えていますが、大きな次のステップに踏み出しているといえます。


注1)「グリーンの罠」とは?
  人間の意識の発達段階を示すモデルであるスパイラル・ダイナミクスでは、各意識段階を  色で表現しており、グリーンは第6番目の段階です。グリーン段階の世界観として、「世界は多元的であり相対的・平等的である」と考えます。この考え方が行き過ぎるとその状況やステージに応じて必要なものの優先順位をつけられない、もしくは優先順位そのものをひどく嫌う傾向になり、その結果、何も進まずにまとまらないといった悪影響のことを「グリーンの罠」と表現されることがあります。個人の意識の発達段階を示すだけではなく、組織にも適用されてきています。


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