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[レポート]障害のある人の表現と伝統工芸をめぐるリサーチシリーズ|木工⑤

2022年7月20日(木)、メンバー3名とスタッフ3名、計6名で、奈良県川上村に工房を構える『MoonRounds(ムーンラウンズ)』渡邉崇さんのもとを訪ねました。

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渡邉さんは2018年より川上村で活動を始められた木工職人で、家具や使う人が花や料理など好きなものを盛るための盛器などを作られています。


今回の訪問の目的は、打刻と浮造り(研磨)で制作する木のプレートを、安全かつ継続的に、障害のあるメンバーたちとともに加工する方法を、渡邉さんの力をお借りして探ることです。

奈良の香芝市から車で1時間半ほどドライブし、川沿いを経て緑の眩しい山へ入ると渡邉さんの工房へ。
到着すると工房の前で渡邉さんに迎えていただきました。

自己紹介の後、まずはじめに道具を安全に扱うための注意事項を確認。今回プレート制作で使った主な道具は①板の厚みをととのえるプレナー ②木のシルエットを切り出すためのバンドソー ③角をととのえるベルトサンダー/カンナ。私たちがつくろうと考えているプレート(料理などが盛れるような)の工程を一通り教えていただき、その材料となる木の樹種(ナラ、トチ、カエデ)、そしてその木の種類によって違う重さなどを実際に触りながら確認していきました。

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今日最初の作業は、出来上がりのプレートをイメージしつつ、プレナーという自動カンナで板の厚みを調整する工程です。

プレナーの電源を切って練習した後、渡邉さんがプレナーに送り込んだ板をメンバーの松村が受け取り、二人三脚で作業が進められました。
渡邉さんが板(渡邉さんは木材のことをいつも「この子」と呼んでいました)のどこを活かすか。この子の良さを引き出せるように様子を見ながら作業するのだと言われていました。(渡邉さんの作るものを見ると、本当にそれぞれの子たちの良さが活きているのを実感します。)
また、木材によって重さが違うため、厚みを削った板が料理を盛って片手で持てるかという視点でも確認しながら作業を進めました。
メンバーは安全に板を受け取るために緊張しながらも、学んだ通りの安全な受け取り方で慎重に作業を進め、用意された木材を約12~15mmに「分決め(ぶぎめ)」(=厚みを決める)しました。

今回は機械を使って削りましたが、手でカンナを使って削る時でも、しっかり木を見ながら削ることが大切なのだそうです。
木目の表情を見ると、その木材が木のどの部位を切り出したものかがわかる。どれ位の大きさの木で年輪の中心なのか皮に近いところなのか。木目に逆らって削ると表面がけば立つので向きを変えて削る。木目が板目(木目がストレートではなくとんがった山が上に重なっていっているような模様)のものは、年輪の中心に近いところで木自身が外に向かって成長し広がろうとする力が働くので反ってくるから、プレナー加工後にシーズニングという木を寝かせる工程を入れることで水分の含有率を整えられ平らな板の状態になってくる。
など、木材を見ることによって接し方が変わることがわかりました。

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昼食をはさんで、午後は主にプレートの外形を切り出す成形作業。

成形もやはり、木目や節、虫食いをよく見て、どこを上にするか表にするか、どう形をとるかを考えます。
線を下書きしてもいいし、書かずに切り出してもいい。仕上りをイメージしてからでも、してなくてもいい。木をみてつくればいいよと、渡邉さんからルールを決めすぎないことをアドバイスいただきました。

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制作に使う道具は、帯鋸、スライド丸鋸などの工作機械や、手カンナ、彫刻刀、のこぎりなど手加工できるいろんな道具などの種類があり、その中から自分の体に合うもの、使う材に応じて自分で(スタッフと共に)選ぶといいとのこと。大量生産品ではないので、メンバーや一つひとつの製品の個性が選ぶ道具によって形が立ち現れることがありそうです。
道具を使って作業するときのコツとしては、「押しすぎない・力を入れすぎない・少しでも怖くなったらすぐ止める・思うように切れないときには戻ってもいい・無理をしない」ということを教えていただきました。
体と道具を切り離して考えるのではなく、体と道具を切り離さずに使うことは、とても基本的で大事な制作姿勢だと感じました。
刃をあてる角度をランダムにすることでシンプルな直線に立体感が生まれるたり、サンダーもサンドペーパーの粗さを使い分けることで、不定形な感じを出したりなめらかにしたりといった表情が作れることを学びました。

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すべての工程を一人で仕上げるのではなく、工程ごとに分業することで複数の人の動作、表現が重なり、みんなで「いい塩梅」がつくれるということもあると教えていただきました。

メンバーそれぞれにとって使いやすく事故や怪我を防ぐための道具選びには、木工加工の専門性と、その情報をよりよく組み合わせて制作にのぞむことが重要です。制作の最後に体験したカンナ削りでは、ピーラーのように角を削ることができ、刃のメンテナンスや管理は必要ではあるものの、電気も使わず木くずも舞わず、今回のプレートづくりとの相性もよいのでは、という発見がありました。

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削るときに木にひっかかる感覚があれば(渡邉さんいわく「木が痛そうだったら」)逆向きに削ってみるなど体感的に加工を覚え、手で削る分量に応じて形が変化するため、視覚的にも達成感がでそうです。
初めて使ったメンバーが削る作業に没頭する様子からも、加工の楽しさを感じられるシーンでした。

そのほか、安全に作業するために板を机に固定する工夫をすると削る作業に集中できたり、板材にカンナをひく向きを矢印で示す。出来上がった形に自分で名付けた石を使って打刻をする、といったアイデアも出てきました。

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障害のある人とともに、身近にあるものでできる木工を考える試行錯誤はまだまだ続いていきます。




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