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「Q.」-食はどこまで自由になれるか?- (前編・イベントレポート)

0.「食を楽しむ」という感覚は、我々にどれくらいあるだろうか?

会社、学校、家庭。
1週間を過ごす我々は、実は多くの日々が同じようなルーティーンの中だ。
その中で、私たちにとって食事、日々のルーティーンワークのうちに入るのかもしれない。
つまり「食」は、多くの人にとって生活の中に自動的に組み込まれているものということも言える。逆に、「食を楽しむ」という感覚や体験は、日々の中でどれくらい我々にあるだろうか。例えばたまにする外食だったり、ランチの時間になると、今日は何にしようかと考える時間くらいだろうか。でもその時間は、よっぽど相性の悪い食事に出会わない時以外、楽しい時間になる。食に限らず日々のルーティーンワークは、どこかを楽しもうとすることで、少し豊かになるのかもしれない。「食を楽しむ」というぼんやりした言葉をもう少し分解しよう。
それは食べることを楽しむこと。作ることを楽しむこともあるだろう。
単に二つに棲み分けただけだが、この背後には膨大な種類の楽しみ方があるだろう。
でもやはり私たちには、前者も後者も、なんとなくしか想像がつかない。
やはり「グランメゾン東京」の世界にたどり着かない限り、僕らは食の深みにハマることはできないのだろうか。でも日々何気なく触れている「身近な食」がもっと楽しくなったら、例え生活が息苦しくとも、少しは楽しめる要素になる気がするのだ。
今日はみなさんに、「食を楽しむこと」を考え、体現した一つの「実験」を紹介したいと思うのだ。

1.-この料理、なにかがおかしい 「Q.」が提供した楽しい食体験

今回は、3/13-14に横浜で行われた「Q.」というイベントをご紹介したい。
「この料理、何かがおかしい」をキャッチコピーとして開かれた、2日間限定のレストランである。「実験」と銘打たれ、一回5組限定の完全予約制で行われたこのイベントに足を運んだ。

料理は、どこまで自由になれるか。 従来のレシピにとらわれない、新しいコース料理を提供します。 完全予約制、1回5組限定。 お代は、お客様に決めていただきます。

事前に我々に知らされる情報は、わずかTwitterに書かれたこの一文のみ。
あとは何が出てくるかも、どんな仕組みなのかも全くわからない。
とにかくそこに足を運べば、コース料理が提供され、実際に味わって、最後に値段を決める。
こちらに与えられる情報が少ないほど、あれこれ考えてしまうものだ。
ネットを経由して予約し、当日を迎えた。
実験に参加するまでの道中、一体どんなものが出てくるのかと想像をした。しかし想像をしても正解にはたどり着きそうもないので、この実験を心から楽しもうと決めた。
(でも想像をしている最中から、すでにお楽しみは始まっていたとも言える。)

そうこうしているうちに、会場に到着する。中に入ると、全面真っ白な内装がこちらの目を引く。そしてテーブルが置かれた店内。

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「いらっしゃいませ」というウェイターさんの声とともに、テーブルに案内される。
椅子に座ると、メニューが置いてあり、ここで初めて今日どんなコース料理が提供されるのかがわかる。あえてここでは、メニューはお見せしないでおきたい。この後のレポート中、
これが一体どんなメニューで、どんな調理が行われたか、想像しながら見て欲しいからだ。
ただ筆者がメニューを見たとき、比較的馴染みのある料理名が並んでいたことに驚いた。
カタカナ語が羅列されているような、素人には難易度の高い料理ではない。
だからこそ、これから出てくる料理がどんなものか、想像が膨らんだ。
このワクワクが楽しかったのをよく覚えている。それから、ペアリングのドリンクとともに、5品の料理が運ばれてきた。
以下、今回の実験を彩った5品だ。

冷奴2

フライ盛り合わせ_2

西京焼き

親子丼

もなか

私自身、実際にメニューと照らし合わせながら食べて、どのメニューにも「心地よい裏切り」があった。調理の仕方やこのアイデアがどんな風にして考えられ、出来上がったのか一個一個気になった。私は今回友人を一人誘って行ったのだが、普段ではあり得ないほど、「今ここ」でおきている食の話題が多くなった。これが食を楽しむという体験なのだと、身を以て実感し、今自分は、普段ではできない新しい体験をしている、とも感じた。

最後にこのコース料理に見合った値段を客自らが設定し、渡された封筒に入れて手渡す。
最後に自分自身で価値を決める、というイベントが待っていることで、より一品一品に興味を持ち、どれほど手が込んでいるのか、どんなアイデアなのか、一つ一つの深みにはまっていく。そうすることで、気づいたらこのQ.の世界に入っている自分に気づくのだ。

私は、食事も含めて、予約してから今日に至るまで「食を楽しむ」という普段にはない貴重な体験をした。そしてその体験にこそ価値があると感じた。
その体験に支払うと思うべき金額を入れ、実験は終了した。


2.「Q.」を通して改めて気づく「深みにハマる面白さ」

冒頭で、食を楽しむということは食べる楽しみと、作る楽しみがあるという当たり前の提示をした。この「Q.」は、食べる楽しみ、味わう楽しみはもちろんのことながら、作る側が一つ一つのメニューに一工夫を加えていることも強く感じた。つまり、食事を作ることの喜びも垣間見えたのだ。
単純に「美味しい」と思う感覚も、もちろん食を楽しむことだと思う。
でも、どういう食材を使って、どういう風に調理されたのか。
食の深みにハマることが、これほどに面白いことだとは正直思っていなかった。
この体験を普遍的に言うことは少しはばかられるが。どんなものでも、表層的で消費的な楽しみを超えた先に、新しい世界が待っているのだろう。それを「食」という私にとっては新鮮な世界において、改めて教えられた。

私は帰りの道すがら、これを仕掛けた人たちは、何を思い、どういう経緯でこの「Q.」を作り上げたのか、その裏側に興味が湧いた。後半では、「Q.」を主宰した相川由衣と、企画に参加したはらだかずとみ。の両名にインタビューを敢行する。

(メニューの答え合わせはインタビュー編で)

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