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「Q.」-食はどこまで自由になれるか?- (後編・インタビュー)

ここからは、「Q」を主宰した相川由衣と、企画に参加したはらだかずとみ。
の両名へのインタビューを通し、このイベントの裏側を探ってゆきたい。
もともと、二人は劇団「かりんとうばんぱく」を主宰し、所属する2名。そんな全く違う畑にいた両名が開いたレストラン。
一体どんなきっかけがあったのだろうか。私はこのnoteを通し、ノンフィクションなエンターテイメントを志向している。今回は、素人代表として、不器用ながらに率直な疑問をぶつけた。
インタビューから見えたのは、「食」を通して、人々に馴染みのある驚きを作り、「日常の食」と「楽しむ料理」を繋ごうとする想いだった。
(インタビュー日 4/1 zoomにて)

1.「ギリギリ料理」、「謎」-Qの背景にあるもの-


−今日はよろしくお願いします。早速なんだけど、なぜ「Q」を開こうと思ったの?きっかけは。

相川:もともとからレストランは、なんとなくやりたいなと思っていて。
今年に入ってからINUAっていうレストラン(グランメゾン東京に出てきたレストラ「GAKU」を監修したお店)に行く機会があって。そこで見たものが、なんていうんだろう。
はらだ:もうギリギリ料理、みたいな(笑)。組み合わせのパンチがもうすごくて。
相川:料理を研究してるっていう感じがして。でも、料理ってこれだよなというか。作ってみたい、とかそういう好奇心から生まれるものだよなと思った。

−かなり手が込んでいたけど、準備期間はどれくらいだったの?

相川:もともとイタリア旅行に行こうと思っていたんだけど、中止になって。それが3月の頭くらいだったから、、
はらだ:二週間くらい?
−二週間でお店、レシピ、コンセプトを全部決めた。
相川:そうですね。

−料理以外の部分に目を向けてみると、結構色々な情報を公にしない、割と謎が多いような出し方だったと思う。一日5組限定で、Twitterで得られる情報も少なめで。料理を包む外側のコンセプトはどういう風に決めていったの?

はらだ:うーん、でも結構トントン拍子に決まっていって。実験っていうコンセプトなら、間口は狭くしていって、値段はお客さんに決めてもらった方がいいよねっていう感じに、割とすんなり決まったかな。だから特に、何かをものすごく狙っているわけではないかかな。
相川:かりんとうばんぱく。(原田が主宰、相川も所属する劇団)が大きいと思うんだよね。多分影響をすごく受けてると思うんだけど。かりんとうも、今回のQもだけど、驚きのあるような内容じゃん。そういう時は、初めは情報を少なくするっていう、そういう思考の系譜っていうか、そういうのがあると思う。


2.メニューの根底に流れる考え方

ここで前編で伏せておいた、メニューを改めて、料理名付きで振り返る。

冷奴

『冷奴』
一品目は冷奴。豆腐の外見を保ちながらも、一口食べると、チーズの味わいが広がる。

フライ盛り合わせ


『フライ盛り合わせ/海老フライ・牡蠣フライ・コロッケ』
海老などの具材は低温調理。その上に揚げたパン粉をまぶした。

西京焼き

『鮭の西京焼き』
サーモンを低温調理することを出発点にレシピを考案。

親子丼

『親子丼』
和風と洋風の折衷をコンセプト。
外側に敷かれた和風のジュレ。写真からは見えないが中のご飯は洋風のブイヨンで炊き上げた。

もなか

『最中』
日本の和菓子を大胆にアレンジ。
案はブルーベリーバニラのアイスと、あんを融合。両側をカラメルで挟んだ。


−メニューは一見しただけでは聞き馴染みのあるものがほとんどだったけど、
出てきた料理を見て驚いた。あれはどういう風に考えていったの?

相川:もともとある料理を、どういう風に変えていったらいいかを考えたことが多いかな。でも逆に調理方法から考えることもあった。
例えば、今回低温調理機を買ったんだけど、サーモンを低温調理するって事を決めて、それで美味しくなるにはどうすればいいだろうって考えることもあった。

−じゃあ基本的に考え方としては、すでにある料理とかレシピを、どういう風に崩していくかを考えていたってことなんだね。

相川:そうそう。でも、どこまで崩したらいいかが本当に難しくて。もっと、材料だけ一緒にして、全く違うものにすることもできたんだけど、でもあっ「ギリ親子丼」だなっていうラインを攻めたくて。見た目も含めて。でもそのラインに乗せるまでが難しかった。

−それこそ、一回字面を見ただけじゃ、何かわからないような料理が出てくると思っていたから、メニューを見たときに逆の驚きがあった。笑 全部で5品だけど、どういう風にしてメニューを決めていったの?

はらだ:フレンチのコースが5品だから、5品は出そうって決めてた。
前々菜・前菜・魚料理・メイン・デザートって感じで。でも時間も迫ってて、5品に届かない、みたいな状況だったから。

−そうなると5品に絞るっていうのは、結構大変だったよね。

相川:メニューが大変だった。やばかったよね。
はらだ:うん。

−それはもうひたすら家で、色々買って来て、作っての繰り返し?
相川:そうそう。

−じゃあむしろ、ボツになったものの方が多かったりする?
相川:意外とそうかもね。
はらだ:そうだね。それこそサーモンも、低温調理のものを使うのは決めていたから、それを西京焼きにするのか、それともクリームパスタみたいにするのか、とかサーモンだけで何品か作ってっていう感じで。

3.幻のメニュー・肉じゃがと、苦しんだ親子丼

−当たり前だけど、決め打ちっていうよりは色々作ってみて、っていう感じなんだね。

相川:そうだね。色々作ってみて、全体のボリュームとか、もちろん単品の美味しさも加味して、ああなったって感じだね。もともと、すでにある料理を崩していくっていう軸はあったから、そこは良かったんだけど、いざ作ってみるとなかなか難しくて。肉じゃがとか。

−ボツメニューが出て来た笑

はらだ:ボツメニューの写真もあるよね。
相川:うん、あるある笑

−肉じゃがはどうしてボツになったの?

相川:見た目と味(笑)

−もう全部だね(笑)

はらだ:あと見た目でいうと、ローストビーフも使おうと思ってたんだよね。肉じゃがに。

−でも面白いよね。それはローストビーフに野菜を包むみたいな?

相川:原田はすごいそれを言ってたんだけど、「包め!」みたいなことを言っていたんだけど(笑)
はらだ:層にするとかね。
相川:そうそう。ミルフィーユみたいな感じにするとか言っていたんだけど。私は、見た目も普段の料理に寄せたかったから、それにずっと拘っていて。ポテトはマッシュにして、人参は甘く煮て、ローストビーフで。本当に見た目は普段のままにしようと思ったんだけど、全然うまくいかなくて、、
はらだ:やばかったよね。笑

肉じゃが2

肉じゃが_1

※ボツメニューとなった「肉じゃが」

−料理を作る中で、一番大変だったメニューはある?

相川:うーん、どれかな?
はらだ:親子丼が結構、最後まで引っ張ったよね。

−あれは、割と和風な崩し方をしていたのかな?

相川:そうだね、割と和洋折衷っていう感じの。ジュレは手羽先の煮こごりなんだけど。ご飯は洋風のブイヨンで炊いたりとか。でも最初はリゾットにしようとしていて、でもなかなか納得できるものができなくて、ブイヨンの炊き込みになった。

4.試行錯誤することの面白さ


−例えば演劇とかだと、パクリとかではないけど、知らず知らずのうちにこの作風に影響を受けているとか、逆にこういう風な作品でいこうみたいなビジョンがあるけど、料理って終わりがないイメージというか、どこまでも自分の想像と感覚というか。味付けとかレシピは、どのタイミングで「これでいこう」って思えるの?

相川:そうだね。でもやっぱり食べて、二人の中でトライ&エラーを繰り返すと、明らかに「これだね」ってなる瞬間がある。
はらだ:そうだったね。

−なるほど。じゃあ二人して「これでいけそうだ」って感覚的に一致する瞬間があるんだね。

相川:っていうのもあるし、当日ホールを手伝ってくれてた子たちも呼んで、試食会とかもやったりした。そこでの意見も取り入れつつね。

−じゃあ2・3週間あったら、ほぼ5品を開発して選定するのに時間を割いていた感じ?
相川:そうだね。

−時間もない中で、大変な部分もあったと思うけど、やってみてやっぱり楽しかった?

相川:そうだね、やっぱり楽しかったかな。周りの人の反応も優しくて。

−楽しいってところで言うと、色々試行錯誤して、ああでもないこうでもないって作り上げていく過程が楽しいのかな。

相川:うん。私はそれがすごい楽しかった。出すのも楽しかったけど、作るのが楽しかったかな。
はらだ:そうだね。

−こうなれば、こうなるんじゃないかっていう試行錯誤の連続なのかな。

相川:なんか大喜利やってるみたいだった。(笑)

5.日常の型と、創作の架け橋的料理


−僕は、極端な言い方をすれば食事って一日三食、生きるために食べているような感覚がベースにあって。だからすごく新鮮な体験だった。

相川:でも生活するための料理っていうのはわかる感じがして。
レストランとか行くと、ガストとかそういうレベルじゃなくて、もっと「料理を楽しむためのレストラン」に行くと、バリバリの創作っていうか、シェフの創意工夫っていうか、よく考えてやってるなみたいな、感じがするのはわかる反面、
家庭料理って、やっぱり型があるっていうか、ハンバーグって言ったらみんな同じ
ハンバーグを思い浮かべるだろうし、そこの型が割と強いなって感じがするのね。
だからその中間を狙いたいというか、その二つの架け橋になるような、料理が面白いんじゃないかなっていう感覚はかなりあった。

  
−確かに、料理も美味しかったけど、何が出てくるんだろうっていうワクワクとかも含めて、体験にお金を払っている感覚だった。「料理を楽しむ」っていう体験に。やっぱり「料理を楽しむ」っていうところに向かっていったのかな。それがコンセプトというか。

相川:そうだね。そこはかなり考えていたかな。そこが軸だったかもしれない。


全体的に和やかな雰囲気でインタビューは進んでいった。
(インタビューはいつの間にか雑談に変わり、境目なく終わっていた。)

今回のインタビューが実現したのは、もともと筆者が「かりんとうばんぱく」の
1ファンであり、今回の「Q.」にも足を運んだからに他ならなかった。
彼らが作るものにはいつも驚かされ、楽しさで溢れる。

それはさておき、食のクリエイティブさに私自身初めて気づいた。
そして、先鋭的なものと、庶民的なものをつなぐこと、それこそが真のポップスなのだと思う。この企画は誰もが食の自由さと楽しさに気づけるイベントだった。
そんなことが伝わってくれれば嬉しい。

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