石垣島での記憶。だいたい2週間くらいだろうか、あの島に滞在していたのは。懐かしさがある。懐かしいというか、懐かしさがある、という感覚、そこには。

石垣島では、正直、あまりいい思い出がない、と思っていた。当時の恋人、一緒に旅をしていた恋人が見事に体調を崩し、病院で隔離されることになったり、僕も呼吸困難に陥り、人生で初めての救急車で運ばれた。

あきらかにおかしかった、色々なことが。その後、延泊をすることになってしまったのだが、ホテルでは謎に火災報知器が鳴り響いたり、謎の音が鳴り続けたり、終始おかしかった。お盆の時期に沖縄の海に入ってしまったのが原因かもしれない、と思った。

でも今振り返ると、途中でいい思い出もある。いつかの深夜、当時石垣島に住んでいた後輩の友達と、夜、ドライブに出掛けて海を見に行った。「いい場所があるんすよ」彼はそう言った。夜釣りをするらしい。助手席の窓を開けた。緩やかな海風が入り込んでくる。僕は左腕を少し放り出す。音楽が流れていた、車の中で。僕らはそれを口ずさむ。どうでもいいことで笑い合う。

海は、暗くて、よく見えなかった。しかし確かに波の音もした。遠くの景色が綺麗だった。光が水面に反射して世界がひろがって見えた。僕は思わず大きな縁石の上で横になった。空を見ていた。海の匂いがした。彼の背中は大きかった。僕が女性なら、この人のことを好きになって、告白していたんだろうなと思う。心が好きだ、この人の。見た目も好きだけど。

人間は心だ、と思う。最終的には。見た目は朽ち果てる。でも心は朽ち果てない。星は見えていたのか、見えていなかったのか、今では覚えていない。「ぜんぜん釣れないですわ」と声が聞こえる。あははと笑う僕。ここには誰もいない。10m先に誰かがいたとしても、気づくことができない。気づくことができないのだ。


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