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BE KOBE

 幼なじみと、高校同じやつらと、神戸空港に降り立った。

 二泊三日で、神戸と徳島、香川、岡山を巡り、神戸に戻ってくる旅行で、移動手段は、レンタカー。僕は免許を持っていないから、四人のうち免許を持っている二人が運転を担当する。僕はとても楽な旅だ。座っていれば目的地に着く。運転してくれた友人たちに感謝。

 楽な旅のはずだったのに、二日続けて夜通し恋バナに花を咲かせたため、二日間で合計して六時間程度しか寝ておらず、三日目は、車に乗った途端に盛大に酔い、一瞬で眠りにつく不始末。ふがいなし。旅行に行ってから数日が経ったが、いまだに全快には至らず。年かな。

 年を取れば取るほど、ゆったりした旅へと変化していくものだと思っていたが、まだまだアグレッシブにすごしている。
 初日にまさかアスレチックに行くとは思わなかった。初級、中級、上級の三コースがあり、僕は上級だけでいいかなとか思っていたのだが、友人たちはそうではなかった。
「初級からやろう」
「全部やろう」
「初級から順番に」
 ワンダフル。アグレッシブ。
 まあ四人の中で一番体力があるのは自分だと自信があったから、三コースすべて挑戦することは問題なかったのだが、上級だけで十分楽しめると思っていた。
 三コースは、初級がもっとも低い位置にあり、上級は五メートルくらいの高さのところにあった。小さい子たち(幼稚園生とか小学校低学年)をターゲットにしたアスレチックだったから全く怖くないだろうとか高をくくっていたが、存外怖かった。
 一番怖かったのは初級の二つ目。星形の足場が縦にいくつか並び、上から捕まるためのロープが何本かぶら下がっている。三本の細いワイヤーで足場は弱々しく固定され、そこに足をのせると、星形の足場は小さく上下に揺れた。その小さな揺れは、たしかに僕に伝わり、やがて揺れは大きくなった。
 不安定。足場がとにかく不安定で、初級の二つ目にもかかわらず怖かった。
 グラグラするし、プルプルするし、ガクガクする。
 
 その後は、丸太一本の上を渡らせられたり、吊り輪に手足を引っかけてひどく揺れるなか渡らせられたり。初級の二つ目なんかよりむずかして怖いのなんていくらでもあったのだろうが、あの憎たらしいほどにきれいな星形の足場が、頭の右後ろの方にこびりついてなかなか取れなかった。

 他にも、友人のひとりは、かっこつけようとして宙ぶらりんになったり、ひとりの友人がちょっとした段差から飛び降りたときに滑って尻餅をついていたのを見て、危険を周知していたのにもかかわらず、もうひとりの友人が同じ場所から飛び降りて、同じように滑って尻餅をついたり、面白かったことはいくらでもあるのだが、蛙化の危機であるため(?)やめておく。

 こうして体を動かした後に入った銭湯は最高だった。
 僕は大浴場が好きだ。何列も並んだロッカーの中から、思い思いに自分の衣服を入れるロッカーを決め、ちょいと恥ずかしがりながらさっさと服を脱ぐ。左腕にバンドキーをつけ、右手でフェイスタオルを持って前を隠し、素早く移動する。小さくなって移動する。
 体を丁寧に洗い、少し水を含んだフェイスタオルを絞って顔を拭き、いざでっかいお風呂へ。本当はダイナミックに飛び込みたいところなのだが、公共の場なので誰か見ているかわからない。と言うか、誰が見ていようが、見ていなかろうが、常に「世間」に見られている。だから上品に、先に左足を静かに入れ、なるべく音を立てないように、水が動くのを最小限度に抑えるように、少しずつ体を湯船に滑り込ませていく。
 足を伸ばしてゆったりしてみたり、そんきょの姿勢を取って小さくなってみたりする。大きな湯船の中では、自由に体を動かすことができる。心が落ち着く。
 そして、僕が体を動かすのと同じように、湯船の水も動く。水はいろいろな表情を見せてくれる。ふわふわ包み込むように動いたり、とげとげ突き刺すように動いたりする水の動きは、見ていて飽きが来ない。アリの巣を炎天下の中観察し続けていたときくらいワクワクする。どちらも(浴室)熱中症を気をつけなければならないのだが、僕は熱中症で倒れた経験はないので、対策できているのかなと思っている。これからも気をつけねば。



 この旅行に参加した四人は、その当時、誰ひとり彼女がいる人はいなかった。そこで次回の旅行の際には、彼女がいない人は、「ホットパンツで参加する」というわけのわからない約束を交わしてしまった。まあ僕が押しつけたに過ぎないのだが、おそらく僕は、ホットパンツ濃厚である。
 ここ最近、女の人が何を考えているのかわからなくて怖くなってきた。女の人苦手だ。待ちくたびれた。したがってホットパンツだ。
 足を鍛え上げ、ネタにしかなり得そうにないホットパンツをかっこよく着こなすことを考え始めている。ひとまずランニングを始め、ゆくゆくはジムで鍛えようかな。線が細いからどのくらい筋肉をつけられるか見物だ。
 続けられる自信は全くないのだが、できるところまでやってやろうじゃないの。

 心ゆくまで遊んだことだし、大学に帰るとしよう。

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