しまむらが無借金経営をする理由を考察
しまむらは認知度の高い大手企業でありながら、無借金経営を行なっていることで有名です。無借金経営には主に財務面での多くのメリットがあります。代表的なものとして、固定比率を上げることができるため業績悪化に伴う財務リスクを減らせることができる点や、金融機関による制約を受けなくてよくなり経営の自由度が高まる点が挙げられます。
しかしながらデメリットが存在することも事実です。最大のデメリットは、財務レバレッジをかけていないため収益性や成長性が向上づらい点でしょう。また、有利子負債による資金調達では、決算時に利子分を費用換算でき、経常利益を圧縮することで法人税等による支出を削減することができるのですが、こうした利点を享受できないのも大きなデメリットと言えるでしょう。
ブランド力やノウハウなど多くの無形資産を有する大手企業では、上述のデメリットによる機会損失が経営リスクを大きくするため、無借金経営を行うケースは少ないです。その中でなぜしまむらは無借金経営にこだわるのでしょうか。任天堂とヤマダHDの財務状況等を参考に、その理由を考察してみました。
無借金経営の任天堂をみてみよう
任天堂も無借金経営を行う企業として有名です。しかし、任天堂には無借金経営を行うにあたり納得度の高い2つの理由があります。まずはゲーム業界特有の高い在庫リスクに対する対策です。ゲーム業界では、新しいコンテンツを世に打ち出す際、一つあたりのコンテンツに対し多額の投資を行う必要があります。そのため、一つのコンテンツがヒットしなかった際に消却しなくてはならない費用が莫大で、特に固定負債を多く抱えていると倒産リスクが高くなってしまいます。そのためゲーム業界では有利子負債の割合を低く保つ財務体質を構築することが定石となっています。もう一つの理由は高い営業利益率です。今年の第2四半期決算では営業利益率が35%となりました。本来は原価率が高く利益率が低くなる製造業ですが、ヒット作を継続的に生み出せているため、内部留保に回せるキャッシュが潤沢にあるのです。
一方のしまむらですが、小売店とはいえゲーム業界と比べた在庫リスクは低く、営業利益率も7.7%と任天堂と比較するとだいぶ見劣りします。ではいったいなぜしまむらは財務レバレッジによるメリットを放棄して無借金経営に取り組むのでしょうか。ここからはヤマダHDの事例をもとに考察していきます。
ビジネスモデルが似ているヤマダHDから考察
ヤマダHDは家電業界に属しますが、プライベートブランド(PB)に依存せずセレクトショップ型の小売店を中心に運営する点がしまむらと共通しています。アパレルブランドの多くはSPA型に移行しており、PBをもちながらもセレクトショップを軸とするしまむらの経営スタイルは珍しいかもしれません。
そんなヤマダHDの後退フェーズを見てみれば、しまむらがビジネスモデル上警戒しているリスクがわかり、無借金経営にこだわる理由が垣間見えてくるかもしれないと考えました。
早速ですが、ヤマダHDの変遷を辿ってみると、総資産に大きな変化があった会計年度がありました。2015年のことです。経営状況が悪化し、約2ヶ月間で60店舗近くを一斉閉店する事態に陥りました。一斉閉店という事態は地元に根付いた多くのコア層の喪失につながり、また投資家や消費者などに大きな不安をもたらしました。
そこから立てられる仮説として、しまむらは「コア層の定着を他社よりも重視している」「安心感をブランドイメージに固定させたい」といった経営上の戦略を守るために、無借金経営を行っているのではないかということです。実際値上げを行なったユニクロなどと比べ、しまむらは常に料金体制を一定に保ち、「お金をかけたくないがある程度はおしゃれでいたい」という主婦層のニーズに徹底的に向き合うことで安心感を創出し、コア層の定着を図っているように見えます。
まとめとプチ検証
よって考察の結論としては、大企業が財務レバレッジの機会損失を受容してでも無借金経営にこだわるのは、消費者や投資家に対する安心感を創出するためであり、コア層を大切にする企業体質の表れなのではないかということです。
最後に、考察を簡単に検証してみたいと思います。本当に軽い検証なので悪しからず。安心感を創出しコア層を大切にする企業とは、しまむらのように消費者が日常的に訪れる空間を提供する企業ではないでしょうか。
例としてカフェがあげられます。ドトールや星乃珈琲店を運営するドトール・日レスホールディングスは無借金経営ではありませんが、有利子負債の割合を示すD/Eレシオは0.005倍と極めて低いことがわかり、考察の理論に従う検証結果となりました。
ということで、今回はしまむらが無借金経営をする理由を考察してみましたが、「無借金経営をする」あるいは「有利子負債を低く維持する」ということと、安心感を保つことでコア層を大切にする企業体質やビジネスモデルの関連性に着目してみることで、また新たに有意義な知見をもたらすかもしれません。
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