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最後まで残っていたのは女たち

 BTS(スカイトレイン)ラーチャダムリ駅辺りで道路に座り込む。国軍の発砲で穴が開いたらしい貯水槽から、水がザアザアと漏れて周辺が水浸しになっている。国軍が撃ってくるのかこないのか分からず、周辺では銃声が鳴り響いているが、ラーチャダムリ駅辺りはいたって平穏だった。赤シャツのメンバーが差し入れの弁当を食べていたり、疲れて寝そべっていたりしていた。

 それを見ながら先ほどのファビオ氏を思い返し、出勤できずに自宅待機している編集に電話をしてみる。
「イタリア人が死んだとニュースが流れている」。
そのときはじめて彼がイタリア人だと知った。撃たれて倒れたとき、周辺のタイ人はニュージーランド人などと勝手なことを言っていた。この1週間で何人死んでいく者を見てきただろうか。何のために取材しているか分からなくなり、家に帰りたくなってきた。

 ラーチャプラソン交差点の舞台に行ってみる。リーダーのナタウットとチャトゥポンが上がっていた。チャトゥポンは目を赤くしながら、
「我々の仲間が次々と倒れていく」
とぼそっと言った。お前が死なせているんだ、と思う。ナタウットは支持者に向けて赤シャツの歌を歌い出し、目を潤ませる。前年の騒乱のときも、ナタウットは目を潤ませながら赤シャツの歌を歌って解散を宣言。「ナタウットが泣いたらさようなら」なのだ。

たった1人、舞台に残っていた女性

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