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赤シャツ最後の日

 タイ警察本部の駐車場。銃声が絶えず、こちらに飛んできているのか、どこかほかで撃ち合っているのかが分からない。周囲にいる日本人はネパールに詳しいカメラマンともう1人、日本で最多の発行部数を誇る新聞のバンコク支局のカメラマン。繰り返しとなるが、日本の大手メディアでここまで入ってきて取材を続けているのは彼だけだ。

 ここで延々と這いつくばっていても埒が明かない。バンコク支局のカメラマンは、
「取り敢えず、建物の陰まで行きましょう」
と言い、立ち上がって走り出した。弾を避けるという意味だろうか、ジグザグに走っている。一緒に這いつくばっている何人もの警官から、
「おお!」という歓声。それほどまでに大げさだった。その姿を見て、ネパールに詳しいカメラマンもダッシュで建物の方に逃げていった。ジグザグの走りは撮れなかったが、まっすぐのダッシュは(撮っても使い道がないのだが取り敢えず)撮れた。

 赤シャツ占拠地を通らずに抜け出す出口は1カ所のみ。その出口は、陸軍と赤シャツの緩衝地帯のど真ん中にある。出口から出ることはできるが、どちらに向かうか。陸軍兵士が銃をこちらに向けているバリケードも、赤シャツの古タイヤを積むバリケードも、どちらに向かうにも相当な勇気がいた。

 「ここで夜を明かすか、無理して抜け出すか」
と隣の警官が笑って話しかけてきた。近くに立っているどこかの局のテレビクルーは、
「僕は本部建物のロビーで3日も野宿状態だ」。
とてもじゃないが、そんな気力はない。ネパールに詳しいカメラマンが、
「寺に行こう」
と言い出したが、それだけは嫌だった。

最後の最後で負傷する赤シャツの若者

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