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Chapter 2 陸軍分隊を従軍取材② 真の任務はテロが起きない環境作り

 第4軍管区の広報担当幹部の陸軍大佐が帰っていき、しばらくして従軍させてもらう部隊の兵士数人がバンで迎えに来た。M16A1小銃を手にした兵士に促されてバンに乗り込むと、その兵士はドアの前で小銃を左右に構えて警戒し、後ずさりしながら滑るように入ってきた。自分のようなしがない記者のためにそこまでしてもらわなくても、と申し訳ない気持ちになった。

 その部隊は、南部からだとバンコクよりも遠い東北部ブリーラム県の駐屯地から派遣されていた大隊だった。パッターニー県コークポー郡に建つ築300年の仏教寺院「ワット・チャーン・ハイ」に隣接する敷地を接収、駐屯地の代わりとしていた。ワット・チャーン・ハイは海水を淡水に変えることができたとされる高僧がいたことで知られており、それを信じてかタイ人のみならずマレーシアやシンガポールからも観光客が訪れていたというが、テロの影響で今や地元住民の姿しか見かけない。

 部隊長の陸軍中佐にあいさつして、翌日の朝から管轄地域の見回りに同行させてもらうことになった。南部国境県に展開する陸軍は、有事の際の戦闘よりはむしろ、管轄する市町村でテロが発生しない環境を構築することを重要な任務としている。兵士は分隊ごとに担当地域を巡回し、地元住民に積極的に話しかけて信頼関係を築こうとしている。従軍するこちらとしてはすなわち、管轄内でテロが起きなければずっと巡回を取材することになる。

野戦食はいわしの缶詰を入れたトムヤム

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