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“見えない・捉えられない”素粒子:ニュートリノ編

今回も、この世界の真の法則を知る、その全てを理解する、外界の全てを知ることは己の内面世界を知ることでもある、ということで純粋な知性の世界、形而上学/形而下学の世界を探究する瞑想を行なっていきましょう。

これまで“存在しているはず”なのに“全く見えない・観測できない”ものがある、そしてそれは遠い銀河だけではなく、我々のいる天の川銀河にも見えている星々の数倍〜10倍もダークマターが存在している、ということを紹介しました(*1, *2)。ダークマターについては未だに謎だらけでどのような物質であるのかほとんど解明されていません。

ダークマターの研究を紹介する前に、今回は近年まで解明されていなかった素粒子“ニュートリノ”について掘り下げていきたいと思います。

・ニュートリノとは?
ニュートリノは素粒子の一種です。図1に示す素粒子が現在まで解明されている17種類の素粒子です。現在我々が知覚している世界(科学的に捉えられる形而下の世界)は全てこれらで成り立っている、と言い換えてもよいでしょう。

この中の左下の3つがニュートリノの仲間です。電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノと3種類(3世代)ありますが、特に言及が無い場合はこのうち最も基本的な電子ニュートリノのことを指していると考えて良いです。

・ニュートリノの重さ(質量)は?
よく知られている軽い素粒子の“電子”は陽子や中性子の重さの約2000分の1とされています。電子の重さをkgで表すと9.1×10^-31kg(1ミリグラムの1兆分の1の1兆分の1)という重さです。ニュートリノの重さの上限は3.6×10^-36kg(<2eV/c^2:エネルギーで表記)なので電子の20万分の1以下の重さとされています(*4)。重さも非常に軽く、重力にも捕捉されにくい素粒子です。

・ニュートリノはどこにあるのか?
ニュートリノは我々の周囲にありふれています。地球上から宇宙空間までどこにでもあると言ってもよいでしょう。

・ニュートリノはどこで発生する?
最も分かりやすいのは太陽から発せられる太陽ニュートリノです。太陽では絶え間なく核融合反応が起きており、エネルギーが放出されています。その一部が太陽光(紫外線/可視光線/赤外線)として地球に降り注ぎ、同時にニュートリノも地球に降り注いでいます。

次が大気からのニュートリノで、宇宙からの宇宙線が大気圏の原子核と反応しニュートリノが生成されます。
頻度は少ないですが、“超新星爆発(*5)”でも大量のニュートリノが放出されます。核融合反応が盛んに発生する状況ではニュートリノも大量に生成されます。

身近なところでは放射性物質のベータ崩壊(図2, *6)という分裂過程で発生します。
 β-崩壊:n(中性子)→ p+(陽子) + e-(電子) + ν*(反電子ニュートリノ) (式i)
    例:42Ar(アルゴン42)→42K(カリウム42)
 β+崩壊:p+(陽子)→ n(中性子) + e+(陽電子) + ν(電子ニュートリノ) (式ii)
    例:132Nd(ネオジム132)→132Pr(プラセオジム132)

・ニュートリノの存在はいつから知られていたのか?
1930年にさかのぼり、ドイツの物理学者ヴォルフガング・エルンスト・パウリ(*7)が放射性物質のベータ崩壊(図2)を調査していました。しかしながら「崩壊後の運動エネルギーの増加が質量の減少と一致しない」ということが分かりました。これによりパウリは「電荷を持たない何らかの粒子がエネルギーを持ち去っている」と主張しました。当時のパウリ氏はこのことを手紙に記して知人宛に送っていて(図3)、これがニュートリノの概念を記した記録で最も古いものと考えられています。

・ニュートリノが初めて発見されたのはいつ?
パウリの手紙から20年以上後、1950年代にライネス氏とカワン氏らの実験によって原子炉から発生したニュートリノビームを水に当て、水分子中の原子核とニュートリノの反応から発生した中性子と陽電子を観測することでニュートリノの存在が証明されました(*9)。

・自然界のニュートリノが発見されたのはいつ?
1987年2月、日本の岐阜県神岡鉱山の研究装置“カミオカンデ”(*10)によって宇宙から飛来するニュートリノが初めて観測されました。当初は「陽子の崩壊を検出する」目的で建設されたカミオカンデでしたが、進捗が捗らないため「ニュートリノを観測する」という方向へ方針転換しました。1987年2月に太陽ニュートリノを測定する準備が整いました。しかしそれから間もない1987年2月23日に偶然にも大マゼラン雲(天の川銀河から15〜6万光年離れた銀河)で超新星爆発が起こりました。この爆発により地球に大量に降り注いだニュートリノ/反ニュートリノがカミオカンデや海外の施設でも観測さることとなりました。

・なぜニュートリノの予想から50年以上見つからなかったのか?
ニュートリノの特徴の一つとして「他の物質とほとんど相互作用しない」という性質が挙げられ、これが観測困難だった理由と考えられます。

・他の物質と“相互作用しない”とはどういうことか?
この世界の物理法則の基礎となる4つの相互作用“電磁気力/強い相互作用/弱い相互作用/重力”というものがあり、過去の記事“宇宙の創造・維持に不可欠な4つの力(*11)”で解説しているのですぐにピンと来ない方はまずそちらを一読して頂くと良いです。

“相互作用しない”ということは“ある特定の力が作用しない=無効である”ということになります。例として“光子(光)は重力と相互作用しない”ので、光は重さを持たず重力に引きつけられることはありません(重力は空間を歪めるので実際は光は重力で屈折するが、重力に引っ張られるわけではない)。

ニュートリノに関しては、
「電磁気力と相互作用しない」→光で観測できず、軌道電子と衝突したりしない
「強い核力と相互作用しない」→陽子等を保持している強力な力の影響も受けない
「重力との相互作用はある」→但し、前述の様に非常に軽く影響は受けにくい
「弱い核力との相互作用はある」→原子核と衝突して反応することがある

ということが分かっています。

このため、図4上段に示すようにニュートリノは原子をほぼ素通りし、影響を与えずに透過していきます。対して、電磁相互作用を持つ光子や電磁波(紫外線やガンマ線など)は原子核や軌道電子と相互作用するので、衝突/屈折したり軌道電子を弾き飛ばしたりして原子に影響を与えます。

・どのくらいのニュートリノが太陽から私達に降り注いでいるのか?
計算すると太陽から来るニュートリノは1秒間に数百兆個(>10^14個!)も我々の体を通り抜けていっています。

・ニュートリノの人体への影響は?
太陽から大量に放射されている紫外線とニュートリノ、どちらも目には見えないし皮膚で感じることもできません。図4に示される通り、ニュートリノの場合は浴びてもほぼ反応せず透過していくため人体には影響がありませんが、紫外線の場合は皮膚の細胞の原子と相互作用するので“日焼け/炎症”といった形で人体に影響を及ぼします。「相互作用しない」という性質は「見えない・触れない」だけでなく、「電磁波のような影響も及ぼさない」ということが言えます。

・では相互作用しにくいニュートリノをどうやって観測したのか?
神岡鉱山地下1000メートルに3000トンの純水を用意し、その壁に巨大なセンサー(光電子増倍管)を敷き詰めたものが観測装置“カミオカンデ”として建設されました(図5)。

観測したい反応は上の式(i),(ii)を変形した以下の反応になります。
 ν*(反電子ニュートリノ) + p+(陽子) → n(中性子)+ e+(陽電子)  (式i')
 ν(電子ニュートリノ) + n(中性子)→ p+(陽子) + e-(電子) (式ii')

エネルギーの高いニュートリノ/反ニュートリノから生成された一部の粒子は水中で光の速さを超える場合があります。その時に発生する光がチェレンコフ光(*13)と呼ばれますが、この光がカミオカンデ内部のセンサーに感知されることでニュートリノの存在を確認することが可能になります(図5右下)。

・なぜカミオカンデのような大掛かりな研究施設が必要なのか?
地下1000メートルに建設されたのは“余計な物質が飛来しない”ためです。厚さ1000メートルの壁を通り抜けて来れる粒子はニュートリノなどごく一部に限定されます。3000トンもの水を用意したのは、“反応の確率を高めるため”です。
3000トンの水には10^34個のH2O分子が含まれます。多ければ多いほどニュートリノと陽子/中性子の衝突確率が上がり、上の式(i')/(ii')の反応の確率が高くなります。

・実際にニュートリノが観測されたときの状況は?
前述の1987年2月23日の超新星爆発の様子が図6に示されています。見て分かる通り、右下に巨大な発光が観測されています。15万光年ほど離れた地球から見てもこの規模の爆発なので想像を超えるエネルギーと粒子が放射されたと考えられます。実際にこのときのカミオカンデの観測結果はどうだったかというと、「11個のニュートリノの痕跡が観測された」とのことです。同時期に米国の施設からもニュートリノ観測の報告があり、そちらでも「8個」という希少な観測データが得られました。3000トンの水を用意して、一つの銀河で数十年に一度の超新星爆発をもってしても「11個」ということから“いかにニュートリノの相互作用を観測するのが希少で困難であるか”ということが分かります。

・「見えない/触れない」物体に一歩近づいた
こうしてパウリの予想から50年以上を経て多くの科学者たちの探究の成果によって自然界のニュートリノを実測するに至りました。「相互作用しない」物質というのはあらゆるものを素通りしてしまう、捉えようがない、という点で非常に観測や解析が非常に困難だということが垣間見えます。そしてこの発見によりカミオカンデでニュートリノ天文学の基礎を築いた小柴昌俊氏は宇宙科学分野への功績を讃えられ2002年にノーベル物理学賞を授与されています

・ノーベル賞受賞時の小柴氏の言葉
2002年にノーベル物理学賞を受賞した際の記者のインタビューで「この研究は何の役に立つのでしょう?」と聞かれて小柴氏は「普通の生活には何の役にも立ちません」と答えました(*15)。これは小柴氏からすると何の狙いもない率直な返答であったと思いますが、とても大事なことで瞑想の意識に通じることだと思われます。「役に立つ」=「損得に関わる」ということにつながります。瞑想で言うと「損得に関わること」=「日常生活」「お金のこと」「人間関係」「仕事/昇進」「経済活動」「家庭親戚」これら全ては「ストレスの原因」となる「雑念」に他ならないからです。

小柴昌俊氏(*14)

小柴氏にしてもパウリ氏にしてもアインシュタイン氏にしても偉大な科学者らの原動力は「損得」「役に立つかどうか」ではなく純粋に「神が創った法則を知りたい」「真実を捉えたい」という精神であったかと思います。そういう意味ではこういった科学者らの研究のことを考えている時の意識は瞑想状態に近かったのではないかと思われます。

私自身もこれまでの記事を書いていて何か日常生活で得をするわけではないですし、読者にとってもこのニュートリノに関する記事を読んで日常生活で役に立つことはないと思います。忙しい人は読む必要は無いでしょうし、読める時間がある人は読んでもらえたら嬉しいと思います。但し、このような日常生活に関係しない記事を読む時間のある人や、1日2時間以上瞑想に時間を割ける人は「損得の世界」には住んでいないと思います。そのような損得勘定なしで記事を読む人が増えると嬉しいですね。

ちなみにニュートリノには宇宙創造の秘密がまだ隠されています。通常は粒子にスピンがあり“右巻き”と“左巻き”いずれかを保持していますが、“ニュートリノには左巻きしかない(しか見つかってない)”ということが知られています。この不思議な性質に関しても後ほど解説していきたいと思います。

(著者:野宮琢磨)

野宮琢磨 Takuma Nomiya  医師・医学博士
臨床医として20年以上様々な疾患と患者に接し、身体的問題と同時に精神的問題にも取り組む。基礎研究と臨床研究で数々の英文研究論文を執筆。業績は海外でも評価され、自身が学術論文を執筆するだけではなく、海外の医学学術雑誌から研究論文の査読の依頼も引き受けている。エビデンス偏重主義にならないよう、未開拓の研究分野にも注目。医療の未来を探り続けている。

引用:
*1. 存在しているはずなのに科学的に観測できないもの
https://note.com/newlifemagazine/n/n594654ee1eb3 
*2. 私達の周りにもあった、未知の物質:ダークマター(2)
https://note.com/newlifemagazine/n/ned28052f0b6b 
*3. 標準模型−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/標準模型 
*4. 質量の比較−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/質量の比較 
*5. 超新星−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/超新星 
*6. ベータ崩壊−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ベータ崩壊 
*7. ヴォルフガング・パウリ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ヴォルフガング・パウリ 
*8. CERN Scientific Information Service.
http://library.cern/archives/history_CERN/historical_images/month-88-years-ago 
*9. ニュートリノ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/ニュートリノ 
*10. カミオカンデ−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/カミオカンデ 
*11. 宇宙の創造・維持に不可欠な“4つの力”
https://note.com/newlifemagazine/n/n90c2cc2fab80 
*12. スーパーカミオカンデ公式HP https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/ 
*13. チェレンコフ放射−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/チェレンコフ放射 
*14. 小柴昌俊−Wikipedia. https://ja.wikipedia.org/wiki/小柴昌俊 
*15. エコノミストOnline記事 2020年11月15日
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20201115/se1/00m/020/001000d 
画像引用
https://www.dkfindout.com/us/science/solids-liquids-and-gases/inside-an-atom/
https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/
https://astrorav.com/2016/10/02/creating-the-world-again/

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