人生は色々
そうして倫太郎はお持ち帰りされた。
ニューオータニに着き、倫太郎は聞いた。
『俺、どうしたらいいですか?』
『私も初めてだから、今日は座って私の話を聞いてほしいのよ』
倫太郎は正直ホッとしていた。
『よかった。。初日に何かあったら絶対に逃げようと思ってた』
そしてその女性はポツリポツリ話し始めた。
『今日ホストクラブに行ったのが初めてだったのよ』
『そ、そうなんですか?』
『私はね。』
そうやって自身の身の上話を始めた。
地元の開業医の元に生まれたその女性は、父親の希望を元に医師を目指し
大学で知り合った男性と結婚した。
大学で知り合った男性はエリートで、このまま付属の大学病院に進みたかったが、1からの下積みを経験するよりも開業医を継ぐという選択をした。
そしてその女性も一緒に父親の病院で働くことになった。
互いに医師でありながら、家庭も一緒。
父親は早々に引退して、娘夫婦に全てを任せることにした。
そしてその女性は元々の院長の娘だったこともあり、患者からとても慕われていた。
何かにつけては女医を指名してくる患者で溢れていた。
それを良くは思わなくなった男性は、自宅でどんどん酒に溺れるようになった。酒と一緒に薬を飲み、酔っ払うどころか毎日酩酊するようになった。
口論が絶えず、そして暴力も振るうようになった。
子供も二人も授かり、毎日夜になると夫の暴力に耐えた。
酒のボトルで頭を殴られたこともあった。
『毎日が地獄だったのよ、でも翌朝になると患者さんが来るから笑ってないといけない。そして夜になると夫の暴力に耐えないといけない。 薬と酒で酩酊している夫は翌朝には全く記憶がなくなっていたのよ。』
ある日、また酩酊している夫に『いい加減やめてほしい』と言ってしまった。
それを聞いた夫はお箸をいきなり折り、その端で女性の頬を刺した。
『この傷はね。夫が私に箸を折った時に作った傷なのよ』
頬には丁度お箸の先の大きさの傷が生々しく残っていた。
肩を落として静かに話した。
『お金はいっぱいある。使うところが何もない。別荘を買っても夫と行く気もしない。毎日未だに暴力を振るわれる。そんな時にね、テレビでホストクラブの番組をやっていたのよ。人生は一回しかないからこんな私でも行ってみようかしらと今日が初めて来たのよ』
倫太郎は動揺した。
自分の母親と同じくらいの歳の女性が、毎日暴力を振るわれながら生きていることに驚いた。
ホストクラブに来るような女性はみんなおかしいと思っていたからだ。
『僕に何か出来ることはありませんか?』
『今日はただ私の話を聞いて、横で手を握ってもらえるかしら』
女性は淡々と自分の身の上話を始めた。
倫太郎はベッドの横でそっと手を握りずっと頷いていた。
女性は安心したのか、大きいいびきをかき始めて寝ていた。
倫太郎は一睡も出来ず、手を握りながら朝まで考えていた。
朝になった起きた女性は一言言った。
『本当にありがとう。なんだかおかしいわね。あなたにこんな身の上話をするなんて。今日は本当にありがとう』
そう言って別れた。
倫太郎はホストクラブはもしかしたら面白いのかも知れない。
もっと深く入ったら、また違う世界が見えるかも知れない。と思っていた。
このことを知子さんに早速連絡した。
知子さんも女性も同じ年くらい、その女性の気持ちを察した。
『今回はあなたに会って本当に救われたわね。また女性は必ずあなたに会いに来るはずよ。その時はしっかりホストになりなさいね。』
入店1日目にして、倫太郎は顧客が出来た。
ホストクラブ100名いる。
順位は最下位
倫太郎のホストとしての頭角はここから始まったのだった。
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