Cross Talk for "DOOM" / 家主"DOOM"を大いに語る -アルバム製作陣による座談会- 前編

1stアルバム『生活の礎』のリリースから二年、四人組ロックバンド・家主による2ndアルバム『DOOM』が12/8にリリースされました。今作のリリースを記念して、11月某日『DOOM』に関わった製作陣が集まり本作品について大いに語り合ったその模様をお届けします。『DOOM』と併せて楽しんでいただけたら幸いです。(文/編集:須藤朋寿)

アルバムタイトル「にちおわ」もあり得ました

須藤朋寿(NEWFOLK/以下、須藤) では皆さん、今日集まっていただいたのは他でもなく、ニューアルバム『DOOM』が完成したということで…

一同 おめでとうございます!お疲れ様でした。

須藤 1st『生活の礎』から二年経って今回リリースに至った作品ですが、コロナ禍になってから制作をし始めたということもあって、前作に比べてだいぶ制作期間が長かったじゃないですか?どれくらいかかりましたっけ?

田中ヤコブ(Vo&Gt/以下、ヤコブ) 一年ちょうどくらいですかね。マスタリング終わったのが8月末なんで、音源の制作期間は9か月くらいですかね。

田中悠平(Vo&Ba/以下、悠平) 考えてみたらレコーディング初日に高崎に行ったのが去年の12月で、もう一年経つんすね。ヤバいな、、、

岡本成央(Dr/以下、岡本) 去年の今頃はめっちゃ練習してましたね。

ヤコブ 田中さん逆にそれ、いま気がついた感じですか(笑)おれ、今年は早いな早いなって思ってましたよ。

須藤 (笑)まずは今作を作るに至った背景みたいなことからお話しできたらと思っています。
最初のきっかけとしては、メンバーとエンジニア・飯塚さん&私のグループLINEがあって、そこに皆さんそれぞれ新曲のデモを投稿してくれたことからだと思っていて。いま思い返した時に、この曲のデモが送られてきた時”次の作品作れそうだな”という思いに至るきっかけになった曲ってありましたか?

ヤコブ 谷江さんの「夏の道路端」が送られてきた時ですかね。

須藤 先にシングルで出した「Dreamy」もそうですけど、谷江さんの曲が今作の核になりましたよね。「にちおわ」も谷江さん自身は最初あまり気に入ってなかったかもしれませんが(笑)皆んなは、送られてきたデモを聴いて盛り上がってましたよね。因みに「にちおわ」って谷江さんはどういう心情で、どういうきっかけがあって作った曲なんですか?

谷江俊岳(Vo&Gt/以下、谷江) とある日曜日に”今週も何もせずに終わりそうだからギターでも弾くか”、”ギター弾くなら何か録ってみるか”というところからリフっぽいのが出来て、そして”酒でも飲むか”と。

悠平 それで出来たの?天才じゃん(笑)

谷江 そうこうして気がついたら4時間くらい経ってしまって、これだと”今日1日何していたんだ?”ってなりそうだったので、無理矢理にでも形にして誰かに聞いてもらおうと思って。そんな感じで出来たデモなんですけど、酔っ払って作ったから恥ずかしくて、、、

須藤 若干躁状態で作った感じなんですかね?

谷江 まあ、普段だったらNGにするようなことも含めて”やりたいことやればいいじゃん”っていう感じで詰め込んでいて。ただ、本当は外に出すんだったらもう少しカッコつけた別のものにしたかった(笑)皆んなが良いって言ってくれて、嬉しかったですけどね。

飯塚晃弘(エンジニア/以下、飯塚) デモ聴いた時は興奮しましたよ。

岡本 “チープトリックじゃん!”っていう。

須藤 “これを軸にしましょうか”みたいな話をしましたよね。それこそアルバムタイトル候補にもなったし。

ヤコブ そうでしたよね!アルバムタイトル「にちおわ」もあり得ました。

頑張って一言でまとめると”龍安寺の石庭”です

須藤 そんな感じで皆んなが送ってくれたデモ曲が揃ってきて、その流れでアルバム作りましょうかっていう提案をさせてもらったわけです。今回、二度目のアルバム制作っていうところで、前作を作った時とは心持ちであったり、心境についての変化はありましたか?

岡本 練習せねばなとは思いましたね、単純に。

須藤 前作は三人体制の頃からライブで演奏していた曲が多かったですもんね。

岡本 既にほとんどの曲が体に染み付いてましたからね。今回はほとんど1からだったので。

悠平 曲を覚えて、アレンジを考えるところからっていう。

ヤコブ 前作は録る前にそんなにガッツリ練習をした記憶がないんですよ。家でボイスメモに谷江さん曲のダビング案を録音してた記憶はあるんですけど、あとはバイクに乗ってただけだった気がする(笑)

岡本 確かに記憶がない。

谷江 俺は前回もかなり練習しましたよ。

須藤 途中加入の谷江さんは確かにそうですよね!

谷江 あと、ライブに向けた練習で割としっかりリハスタに入っていて、それが結果的にレコーディングの準備にもなっていたと思います。それに俺は、久しぶりにバンドでリハスタに入れたことに感動してましたから。

ヤコブ そっか!確かにそうですね。初めて谷江さんと一緒にリハスタ入ったのいつでしたっけ?

谷江 新宿JAMがまだあった頃で。まずはギターを持たずに見学しに行っただけなんですけど、俺が知ってる田中(悠平)や岡本くんのレベルじゃないぞと。

悠平・岡本 (笑)

須藤 前回もリハスタで曲の練習は重ねていたとは思うんですけど、今回は曲のアレンジや構成に時間と労力をかけていた印象だったんですが、感覚としてはどうですかね?

谷江 確かに今回はある程度アレンジが固まっている状態から”ちょっと変えてみようか”みたいなことをいくつもやりましたね。「近づく」とか「NFP」とか。

ヤコブ 言われてみると「近づく」は展開を変えたり、「NFP」は尺をキュッと短くしましたね。

飯塚 「たんぽぽ」や「それだけ」もそうでしたよね。

ヤコブ そうでしたね!最近、久しぶりに「それだけ」のデモを聴いていたんですけど”コード違うな”って思ってました。

岡本 その点でいうと一番手間をかけたのは「夏の道路端」なんじゃないかな?

一同 あー!そうだった。

悠平 リハスタでああだこうだやったよね。

ヤコブ 曲のアレンジを詰める作業は確かに時間かけてやってましたね。

須藤 個人的に今作は、前作以上にアレンジに重きを置いてる作品に感じられて。ロックバンド然としたダイナミクスも前作同様ありながら、聴かせたい要素が増えた作品でもあるのかなと。

悠平 今作に比べると、1stアルバムは全体的にシンプルなサウンドに聴こえますよね。

岡本 出てきたものをそのまま録音したみたいな。

ヤコブ 同じ場所、同じ環境で一気に録った感もありましたよね、1stアルバムらしい音というか。

須藤 前作のリリース後はライブも昔に比べたら積極的に行うようになって、その中で磨かれた個々のスキルであったり、飯塚さんの遊び心や細かさが行き届いたミックスであったり、ドラムテックを入れて作り込んだドラムの音であったり、それこそ今回は沢山楽器を使ったので、そういったアレンジ以外の要因も大きいとは思いますが、音響面も含めて各楽曲がカラフルになった印象でした。
そして、前作に引き続き今回も飯塚さんが録音/ミックスは勿論、プリプロ(<プリプロダクション>:本番レコーディングの前に簡易的に録音しながら楽曲のキー/構成/アレンジ等を確認する作業)の段階から関わってくれている訳ですが、飯塚さんにとって”家主”ってどういうバンドに映っていますか?あんまり普段こういう話しないけど…

飯塚 頑張って一言でまとめると”龍安寺の石庭”です。

悠平 は?

一同 (笑)

悠平 すいません、学がなくて…

飯塚 ピンとこなかったですね(笑)

須藤 その心は?

飯塚 家主の"かっこつけない・目立とうとしない・押し付けない・出過ぎない・ねちっこくない"っていう姿勢が、”侘び寂び”に通じるなと。禅の心、というか。その侘び寂びが、”龍安寺の石庭”に通じているなと。そういう精神性が自分の好みでもあるから、エンジニアとしても自分の引き出しが開けやすいなと思っていて、楽しくやらせてもらいました。

ヤコブ いい言葉でまとめていただいてありがたいです。

前作以上に”重い”ものを作りたいという気持ちがあって

<ここからリモートでドラムテックの武田啓希が参加>

武田啓希(以下、武田) お久しぶりです!

須藤 8月のWWW Xの時ぶり?ですかね!お陰様で無事にアルバムがリリースされることになりまして…

武田 (リリースまで)だいぶ待ちましたね(笑)

須藤 お待たせしました(笑)今回、ドラムテックとしてレコーディングや幾つかライブも手伝ってもらった中で、武田くんには”家主”っていうバンドはどんな風に映りましたか?

武田 単純に楽しそうで良いですよね。

一同 (笑)

武田 バンド辞めた後だからか分かんないですけど、またバンドやりたくなりました。

悠平 めっちゃ良いこと言ってくれるじゃん!

岡本 嬉しいですね。

須藤 では、武田くんも交えて『DOOM』についての話を。ヤコブくん、田中(悠平)くん、谷江さん、三人の曲がそれぞれ収録されてますけど、それぞれ自分の曲で今回意識したことや取り組んでみたことってありますか?

ヤコブ 「近づく」は明確にありました。アルバム全体のカラー的な話にもなるんですが、前作以上に”重い”ものを作りたいという気持ちがあって。「近づく」はデモの段階だともっと全体的にサラッとした曲だったんですけど、メタルやハードロックのようなズッシリとした重い音にするのは勿論、途中のプログレっぽい展開も加えて、いききってやろうと。”決意表明”みたいな曲にしたかったんです。

須藤 「近づく」を筆頭に「NFP」や「それだけ」とか、他の曲も重心は前作より低く、ずっしりとした印象はありますよね。

ヤコブ ハードロック的な側面が垣間見えるコンセプチュアルな曲にはなりましたよね。音響面においても飯塚さんに工夫してもらって、アルバムのカラーとして”重さ”は出たのかなと。
それと、「路地」あたりに関しても曲そのものに暗さが漂っていたり、自分の作った曲についてはクラウディな雰囲気は全体にあるなと思っています。ただ、それを事前に他のメンバーに共有してしまうのはちょっと違うなと思っていたので、結果的にアルバムがそういう方向になったら良いなとは考えてました。

須藤 ではヤコブ君のお話を受けて、田中(悠平)君はどうですか?

悠平 俺は曲については特にないですね。出たとこ勝負というか。

須藤 歌詞については今回どうですか?「めざめ」はヤコブ君が曲を書いて、そこに詞を書いたと思うんですけど。

悠平 これは難しかったですね。初めての経験でしたし。

ヤコブ (作詞の)とっかかりとかはあったんですか?

悠平 自分の曲と同じように一節ずつ、単語毎に自分で歌ってみて、ハマりが良い歌詞を選んでそこから膨らませていくんですけど、自分で書く曲にはないメロディだから、その点で結構苦労はしました。結果的にはちょっとヤコブ味がある歌詞になった気がしています。

須藤 歌詞の書き方って皆んなそれぞれ違いますよね?

悠平 ヤコブはどうしてんの?

ヤコブ はじめは鼻歌で適当に歌って、フックっぽいところにハマる言葉を選んだらそこから膨らませていくみたいな感じで、割とそこからはツルッと書けることが多いですね。早く自分で曲の完成系を聴きたいので。逆に田中さんはツルッと書ける時はあまりないですか?

悠平 基本ないかな。難儀する。

須藤 田中(悠平)くんは歌録りの直前とかにちょっと歌詞直したりするもんね。

悠平 “これやっぱり言いたくないな”と思ったりして。そのまま形になってしまうのが嫌というか。

ヤコブ 結構完璧主義なんですね。一言でもハマりが悪いものは入れたくないみたいな。

岡本 前にも少し話してましたけど、歌詞は電車の中とかで考えるんですか?

悠平 確かに電車で考えることが多いわ。やることもないからスマホのメモ帳に打ち込んだり。

須藤 では歌詞以外の面でも良いので、谷江さんは今回意識したことや取り組んでみたことってありますか?表現的な狙いとか。

谷江 そうですね…2曲とも比較的最近出来た曲なんで、近況を反映させることは出来たのかなとは思います。
あと、これは意識したというか気がついたことなんですけど、レコーディング期間中スタジオに遊びに来た伊奈さん(台風クラブDr.)に「暗いバンドだな」って言われて(笑)僕やヤコブの曲って割と、歌詞の内容が内省的なものが多いと思うんですけど、田中の曲はもっと開かれているなと思っていて。それが各曲にコントラストをつけていて、結果的にはバンドの個性に繋がっているのかなと。

ヤコブ なんか分かります。田中さんは選択授業が違う感じというか。俺と谷江さんは同じものを見てるんだけど、俺の方が写実的な表現で、谷江さんの方が抽象的で淡い表現をしてるように感じます。

谷江 くそ恥ずかしいんですけど。

ヤコブ わざとらしさがなく、淡さや切なさを自然に表現出来てる気がします。

前作を聴いてくれていた人にこそ聴いて欲しいですよ!こんな曲なかったでしょって

須藤 三人のソングライティングがそれぞれ違うからこそ、それぞれの良さが引き立ってるというのはありますよね。家主の場合はソングライターが三人いるっていうのが大きな特徴だと思うんですけど、今作のレコーディングの中で自分以外が書いた曲を演奏するにあたって、特別苦労した曲とか手応えがある曲ってありましたか?

悠平 苦労したのは「たんぽぽ」でしょ。

谷江 これは本当に大変だった…

岡本 毎日リハスタで個人練してましたからね!

ヤコブ そうだったんですね(笑)

谷江 「近づく」もちょっと頭を過ぎったんですけど、「たんぽぽ」でしょうね。

須藤 この曲については他の曲とはちょっと違う感じというか、昔のソウルやファンク風味もある跳ねた感じの曲ですもんね。

悠平 やったことないことを要求された感覚でしたね。今までこんなベースを弾いたことがないっていう。

岡本 自分の引き出しになかった。

谷江 ヤコブはサラッと弾いてる風ですけど、この曲のカッティングがすごい難しいっていう。ギターオバケですよ、彼は。

ヤコブ いやーありがとうございます。今日ここに来て良かったです(笑)

須藤 確かにヤコブ君のギタープレイってメロディアスで、テクニカルなところに焦点が当たりがちだけど、リズムも良いんですよね。

谷江 グルーヴ感というか、ちゃんと波に乗ってるリズムですよね。

武田 リズムにヨレが出るところもバンドの良さではあるけど、その中でちゃんと曲のリズムを作って引っ張っていってくれる人がいると、やっぱりバンドとしての演奏は良くなりますよね。

須藤 リズムの面においても、ヤコブ君が曲に背骨入れてくれてる感じはしますよ。

岡本 ライブ中は特にヤコブのギターについていこうという意識があります。僕が多少やんちゃしても、ヤコブのリズムに戻ればいいというか。

ヤコブ それで言うと、宅録がそういう部分に生きているかもしれないです。よくあるケースが、家で演奏したギターとかウワモノ楽器と歌が凄く良いテイクで録れる時があって、そのテイクに合わせてドラムを後で録音するっていう。

須藤 一般的にはドラムを先に入れますもんね。

ヤコブ 例えばギターがちょっと後ろノリ、ベースがちょっと前ノリで録れてる曲に対してドラムをどう叩けばいいのか、調和が取れるのかっていうことを考えるんですよね。他の楽器との接着剤みたいな役割を意識するというか。
リズムのことを改めて意識してみると、確かに「たんぽぽ」は今までバンドでやってこなかったタイプの曲ですよね。その点においてはちょっと難しいことを要求してしまったかもしれないです。

岡本 ちょっと、ではなかったですけどね(笑)

悠平 前作を聴いてくれていた人にこそ聴いて欲しいですよ!こんな曲なかったでしょって。めっちゃ練習しましたもん。

谷江 確かに田中、めちゃくちゃ上手くなったよな。

飯塚 「たんぽぽ」はミックスの面においても一番自分の中で開けない引き出しを開けた感覚はありますね。気を遣いました。

須藤 三人は「たんぽぽ」にかなり苦労したようだけど、ヤコブ君は特別苦労した曲や手応えを感じている曲はありましたか?

ヤコブ 手応えがあるのは「飛行塔入口」のギターですね。12弦のアコギと普段使わない(Fender)ストラトキャスターを弾いたんですが、上手くハマったと思います。ストラトで弾いてる間奏部分とか、自分のプレイじゃないみたいな感覚で毎回聴いていて楽しいですね(笑)

須藤 ヤコブ君と言ったら(Gibson)SGみたいな印象強いですからね。ストラトは確かに新鮮でした。

谷江 SGでミッド強めみたいな感じの音だよね。

ヤコブ ストラト特有の”キャリ”っとした音が曲にハマったのが、アレンジ面でも演奏面でも嬉しかったです。

須藤 今作の一つの特徴でもあるけど、色んな種類のギターやアンプを使ったことが曲にとって上手く作用した一例ですね。

ヤコブ そう思います。「飛行塔入口」については、要所要所で秘孔をつくような感覚で演奏が出来たなと思います。

三人それぞれの特徴を、それぞれの方向に伸ばしていけたらいいなというイメージはありました

須藤 では、メンバー以外の方からもレコーディングの部分についてお話を伺っていこうと思います。まずは武田くんに聞きたいんですが、今作は前作に比べて曲ごとの個性がしっかり出た作品になったなと思っていて、その一端を担っているのはドラムの音だと感じたんですが、音作りで意識したことってありましたか?

武田 前作もめちゃめちゃ好きで良く聴いていたんですが、曲を書く人が三人いながらもアルバムの中で一つにまとまっている感じを受けて。今作では三人それぞれの特徴を、それぞれの方向に伸ばしていけたらいいなというイメージはありました。ヤコブ君が書く重くてスケールの大きい曲もあれば、田中君が書く爽やかで歌がメインにある曲もあるので、曲ごとの方向性に応じて、ドラムで色付けや調整が出来るのかなと。曲によってドラムを録ったスタジオも違うので、そういった部分でも曲毎にキャラクターは出せたのかなと思います。

悠平 そんなこと考えてくれてたんですか!

岡本 (笑)隣で見てたけどめっちゃ考えてくれてましたよ!

須藤 武田くんとしては今回ドラムテックとして関わって、この曲は特別上手く音を作れたなという曲を1、2曲選ぶとしたらどれですか?

武田 まず一番は「それだけ」ですかね。

ヤコブ わかる!

岡本 めちゃくちゃ良い音なんですよね!

武田 ハイハットの音色とかも曲にしっかり合わせることが出来たのかなと。

須藤 機材選びやチューニングも含めて全体的に上手くいったなという印象ですか?

武田 自分が感じた“こういう風にしたいのかな?”っていうのを、上手く落とし込めた気はしています。あと「飛行塔入口」もそうですね。ドラムの音で曲の良さを更に引き出せたかなと思います。

須藤 あと、これはちょっとマニアックなお話になるんですけど、今回沢山機材使った中でも特別”これ使えて良かったな”みたいなものや、このチューニングはかなり気を遣ったみたいなものってありますか?

武田 岡本さんの趣味的にピッチはあまり上げたくないっていう話をしたと思うんですけど…

岡本 しましたね。

武田 それを受けて、金物類も大きいものを使ったりして。ドラム全体のピッチが低いままバランスを取るっていうことには気を遣いました。あとはスネアの音の広がり方を曲に合わせて調整しましたね。

岡本 僕は具体的な機材に関して言うと、用意してくれたCRAVIOTTOのスネアの音がめちゃくちゃ印象に残ってます。明る過ぎない音で気に入りました。武田くんと飯塚さんのおかげで、ドラムの音はもう完全に自分が叩いているものとは思えないですもん(笑)

須藤 因みに岡本さんはレコーディングを通じて、プレイヤーでもある武田くんから学んだこととか影響受けたこととかありますか?

岡本 いや、1から10まで、ですよ(笑)チューニングやミュートの仕方とか細かいところから、自分が困っていたこと全部教えてもらって。もう、先生ですよ。ドラムに対して今まで以上に意識を向けるきっかけになりましたね。

悠平 普通なかなかドラムの音を意識して音楽聴かないからな。

須藤 一番大きな音が出る楽器だから、皆んな意識はいかなくても体感はしてるはずなんですけどね。

武田 でも、ドラムの音色に意識がいかなくても曲として上手くまとまっているのであれば、結果的にそれが一番良い"ドラムの音"なのかなと思います。

ヤコブ “本だし”みたいなもんですね。

「1stは忘れてください」と言われて

須藤 では、次は飯塚さんにお話を伺っていきたいと思います。まず、武田くんの力を借りることでドラムのチューニングや音作りに関する不安も払拭されて、今回は広いレコーディングスタジオを使ってみたり録音機材も前回以上に充実した環境の中で、レコーディングにおいて意識したことやチャレンジしたことってありましたか?

飯塚 今回は具体的に言うとヤコブさんが話していたように”重くしたい”っていうテーマがありました。レコーディング前、ヤコブさんに「1stは忘れてください」と言われて、それが凄く印象に残っていて。

ヤコブ 電話で話しましたね。

飯塚 それを受けて、まず機材面で言うとサブキック(バスドラムの録音で主に使われるマイク)を買いましたね。

須藤 機材は今回、結構新調しましたよね。

飯塚 そうですね。他には今作の音作りで凄く活躍してくれたChandlerのコンプレッサーがあるんですけど、これを通すことを想定してマイクを選んだり、マイクを立てる位置を決めたりしましたね。

須藤 あと今作では、ドラムのレコーディングに関して言うと2つのスタジオを使いました。前作に引き続いて下北沢のnasoundra palace studioと、より広くて響きのある高崎のTAGO STUDIO TAKASAKIなんですが、それぞれのスタジオでレコーディングの際に気を遣った部分や工夫したことはありましたか?

飯塚 だいぶ下調べして臨みましたね。その甲斐もあって、イメージ通りに録れたなと思います。

須藤 TAGO STUDIOはスケールがでかい音で録れましたよね。

武田 ドラムもかっこいい音で録れましたね!

飯塚 それでいてTAGO STUDIOで録った曲はChandlerのコンプを通したことでバチッと前に出る音になりましたね!nasoundra palace studioの方は一転してデッドな音になるので、逆にそちらは気を遣いました。エアーマイクの位置とかは特に工夫しましたね。音量は突っ込みすぎないようするとか。

須藤 nasoundra palace studioは前回も使用したスタジオでしたが、今回のレコーディングでブラッシュアップできた点ってありますか?

飯塚 前回は全体的に”いてまえ!”って感じで録音レベルもかなり突っ込み気味だったんですが、今回は曲調に振れ幅があったのでそこは割と抑えめに調整しました。前回はドラムのサウンドにキャラクターを出すためにも、録音の時点である程度レベルが必要だったんですが、その部分は今回武田くんが担ってくれたので、後で色付けしやすいようにコントロールして録音が出来たかなと思います。なので、ラフミックスから大きく曲の印象は変わっていると思います。

ヤコブ 確かにかなり変わりましたね!

武田 nasoundra palace studioはドラムのトーンがしっかり録れたなという印象もあります。

ミックスすることに正直怖さもあって

須藤 今作ではレコーディングの部分から、録る場所や機材、手法においてもかなり工夫を凝らすことが出来たのかな、という印象ですよね。飯塚さんにもう少し踏み込んだお話を聞くと、レコーディングが終わって素材が揃って、その後のミックスの部分においても色々と工夫した部分があったと思います。僕やメンバーとのやりとりは勿論、ミックスのアイディアを共同で考えてくれた菊地(俊仁/ミキシングアシスタント)さんとのやり取りも沢山あったと思うんですが、特に気を遣った部分やチャレンジしたことなどはありますか?

飯塚 プロセスが凄くハマって面白いやり方が出来たなとは思っていて。取り急ぎ、その時の参考資料を皆んなにお見せしますね。(一同に所謂「アジェンダ」のようなものが送られてくる)

一同 これ、ヤバ過ぎでしょ(笑)

飯塚 色んなやり方があるので迷ってたんですが、例えば「にちおわ」であれば”日曜日の終わりってなんだろう?”というところを起点に、色んなパターンの”日曜日”を想定の上場合分けして、それぞれのパターンから想起する楽曲をリストアップしてみるという。

ヤコブ もはや会議ですね(笑)

飯塚 その後、曲から想起されうる”日曜日の終わり”についてのキーワードを出しつつ、歌詞を読み解いてイメージを膨らませていって、更に菊地と共に自分自身の”日曜日の終わり”はどうだったんだろう?っていうことも思い出しながら、その時の気持ちにも向き合ってみたりして。
ここまでに浮かび上がったワードや心情をサウンド面に落とし込んで一度ミックスしたら、もの凄くカオスな音になってしまったので(笑)各パートの役割や、曲の展開とも照らし合わせながら要素を整理していった結果が、完成形のミックスになっています。こんなことを全曲、菊地とミックスの作業中にやっていましたね。

須藤 今送ってもらった資料を読んで思いましたが、飯塚さんはメンバー全員とかなり近い距離感で接してくれているので、曲を作った人間の人となりとかその背景とか、そういったところまで汲み取って臨んでくれてるんだなと凄く感じます。

飯塚 曲が出来上がってきた時に、皆んないい曲を作るなという感慨と、それをなんとか録り終えたという安堵と共に、ミックスすることに正直怖さもあって。そこでもっと歌詞とか読み込んで、曲のことをもっと理解しなきゃとは思いましたね。

須藤 じゃあ、菊地さんの存在っていうのは、飯塚さんの各曲への解釈に対して客観性を補うと共に、メンタル面でのサポート的な感じだったんですかね?

飯塚 本当そんな感じです。

ヤコブ これ一人で根詰めてやってたら頭おかしくなっちゃいますもん。

菊地俊仁(以下、菊地) 延々と二人で話してましたからね、ほぼ毎日数時間電話して。途中で付き合いきれなくなっちゃいましたけど(笑)

飯塚 圧をかけ過ぎてね(笑)

菊地 三週間くらい間を空けて連絡してみたら、まだ同じことやってたっていう。

谷江 でもミックスって本当に、宅録で自分のイメージに近づけようと思ってやるだけでもノイローゼになりかけますよね。

須藤 ゴールがないですもん。環境とか、体調とか、気分によって日々、曲の聞こえ方は変わりますし。前作の時はここまでの取り組み方はしてないですもんね?

飯塚 そうですね。ミックスで遊び心を盛り込めるように、今回はかなり事前に準備もしましたしね。

須藤 メンバーと同じ熱量で取り組んでくれたんだなと改めて感じました。因みに今回のアルバムをミックスしていく上で参考にしたり、影響を受けたエンジニアさんっていましたか?

飯塚 強いて1曲挙げて言うなら、一番ミックスに時間をかけた「近づく」はmy bloody valentineの「come in alone」を参考にしていて。それは所謂”シューゲイザー”にしたいっていうことではなくって、ギターが沢山鳴っていて崇高さがあるみたいなところで。シューゲイザーの空気感があるというか。

須藤 ハードロックやプログレ、メタルみたいにヘヴィな要素がある楽曲だけど、音の距離感とか雰囲気にはシューゲイザーにも通ずるところがありますね。

ヤコブ 絶妙な雰囲気ですよね。

須藤 それでいて、あの強烈な個性のあるドラムの音っていう。立ち会いでコンプをかけながら、皆んなで爆笑してましたからね。これ、シンバルの音どうなってんのっていう(笑)そういった遊び心が散りばめられているのも今作の特徴の一つかもしれませんね。

武田 「飛行塔入口」のブレイク前のフロアタムのデカさとか、出来上がった音源聴いて笑っちゃいました!飯塚さん、やったなと(笑)

岡本 わかる!(笑)あそこめちゃくちゃ好きですね。

須藤 では、武田くんとはそろそろお別れというところで…最後に聞きたいんですが今回ドラムテックをやってみての感想はどうでしたか?

武田 単純に、作品としてずっと残るものを一緒に作れて凄く嬉しかったです。

須藤 そもそも、俺の無茶振りというか思いつきでドラムテックを頼んだもんね(笑)

武田 初めてやりましたからね(笑)でも、性格的に自分には向いてるかもなと思いました。

悠平 最初はドラムテックってなにする人なんだろ?って思っていたけど、結果的にどの曲も本当によくなったと思った。どうもありがとうございました!

《後半に続く》

https://note.com/newfolk_jp/n/n4061295dbb4f

[家主”DOOM” Release Tour 2022]

-大阪公演- <One Man>
2022/2/19(土) at 心斎橋 ANIMA

-静岡公演-
2022/2/20(日) at 静岡 Freakyshow
Support Act:henpiano

-岡山公演-
2022/3/5(土) at 岡山 PEPPER LAND
Support Act:マドベ

-名古屋公演- <One Man>
2022/3/6(日) at 今池 得三

-青森公演-
2022/3/19(土) at 青森 SUBLIME

-仙台公演-
2022/3/20(日) at 仙台 FLYING SON

-東京公演- <One Man>
2022/4/3(日) at 渋谷 WWW X

-松本公演-
2022/4/9(土) at 松本 MOLE HALL
Support Act:コスモス鉄道,TANGINGUGUN

-札幌公演- <特別編>
2022/4/16(土) at 札幌 SPiCE
Guest:台風クラブ

-京都公演- <特別編>
2022/4/29(金・祝) at 京都 磔磔
Guest:台風クラブ

And More !

家主 2nd Full Album『DOOM』
2021.12.8 Release / NFD-001
01.近づく
02.NFP
03.にちおわ
04.夏の道路端
05.路地
06.たんぽぽ
07.めざめ
08.飛行塔入口
09.それだけ
10.老年の幻想
11.The Flutter
※CD版封入特典:「"DOOM"レコーディングドキュメンタリー」ダウンロードカード
《CDの購入はこちら》
https://newfolkjp.stores.jp/items/6181ebc31bfe1956bbb62975

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