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過去問題演習の正しい考え方

こんにちは。予備校講師・受験コンサルタントのシンノです。

秋になると過去問題についての相談をたくさんもらいます。これは、「過去問」の重要性は認識しつつも、情報多寡であったり、人によって言うことが違ったりして、受験生が混乱していることが背景にあると思います。たとえば、第1志望校の過去問題について、「最低10年やれ」という人もいれば、「何年もやることはない」という人もいます。これは私の印象ですが、学生の方でアドバイスを送る人の方が過去問題演習を重視しがちで、我々予備校講師の方がブレーキをかけている人の方が多いように思います。

ただ、ブレーキをかける考えの指導者も、過去問題に意味がないという理由で消極的な人はほとんどいません。過去問題演習の意味は認めながらも、そこにリスクがあるからやり過ぎを戒めているのです。では、過去問題演習のリスクとは何でしょうか。

第1のリスクはとにかく時間がかかることです。普通、過去問題は1年分を通しで解きますので、所定の試験時間分の演習時間がかかります。そして、演習後に答え合わせをし、解説を読んで問題を理解するのには試験と同じくらいの時間がかかるでしょうし、問題の難易度によっては演習にかかった時間の倍以上をかける必要もあるでしょう。つまり、1教科90分の過去問題演習には、少なくとも180分から240分の時間が必要だということになります。学校や予備校に通う皆さんが、これだけの演習時間を確保することは容易なことではありません。時間は有限である以上、過去問題を解くということは他の学習時間が減るということを意味するのです。

第2のリスクは過去問題は「演習型学習」の究極だということです。私は問題集を使った学習には「網羅型学習」と「演習型学習」の2種類があると考えています。前者はnextstageなどの単元別文法問題集が典型的な例であり、その分野について必要な知識を整理したタイプのものです。必要な情報が整理されて載っていますので、ある問題集をやりきることでその分野に必要な知識を習得することが期待できます。一方、「演習型学習」は単元ごとにわかれているわけではなく、入試本番と同じようなランダムな演習を通して実戦力を高めようというものです。知識が整理されているわけではないので、演習型の場合は一冊をやりきっても演習量の差でしかなく、それ自体にさほどの意味はありません。長文は、文法と違って「ここからここまで」という範囲があるわけではないので、どちらかといえばこの「演習型学習」に該当します。ただ、それでも執筆者が何らかの学習効果を期待して問題を選択し、配列していますから、内容的なまとまりを持つものも少なくないでしよう。しかし、過去問題集は違います。合否を出すことを目的とした入試問題が、何も編集されずそのまま掲載されているだけ。つまり、他の問題集のように学習効果を期待して作成されているわけではないのです。過去問題を何年解こうが、全く出題されていない単元や観点というのがどの教科であれ少なからず出てきます。それゆえ、○年分解いたというのは勲章にはなったとしても、それ自体には網羅型の問題集をやりきることによって得られるような効果はないということになります。

ここまで過去問題演習のリスクを述べてきましたが、かといって過去問題を全くやらないわけにもいきません。リスクを認めながらも過去問題を解く意味は2つあると思います。1つは、受験予定校がどんな問題を出すかを知り、時間配分や解く順序などの戦略を考えるということ(第1の目的)。もう1つは、特有の出題形式への対策を図るということ(第2の目的)です。正しい過去問題演習とは、リスクを認識しながら、この目的を達成するための効率的な手法を取ることが大切だと思います。

一般論で言えば、「演習型学習」は「網羅型学習」に取り組んだあとに行うことで効果のあがるものです。例えば文法の勉強であれば、単元ごとに網羅的に学んだあとで、形式別の演習に取り組むというのが一般的な流れでしょう。このため、「過去問題をやっても跳ね返されるだけだから、まだ過去問題はやるな」というアドバイスが、特に高校3年生を指導される学校の先生から送られがちです。これは、過去問題演習の第2の目的(特有の出題形式への対策)という観点では正しい意見だと思います。しかし、第1の目的(問題を知り戦略を考える)を考えると、過去問題に取り組めるだけの実力をつけてからではあまりにも遅い、ということになりかねません。むしろ、どんな問題が出題されるかを知ってから勉強に臨んだ方が効率的な学習ができるとも言えるでしょう。つまり、第1の目的(問題を知り戦略を考える)のためには、単元学習が一通り終了したなるべく早い段階で、1年~2年程度を通しで演習することが望ましいのです。傾向を知るために解くわけですから、なるべく新しいものを使えばよいですし、この目的のために5年も6年も解く必要はありません。

一方、第2の目的(特有の出題形式への対策)という点でいえば、知識面の課題をある程度クリアした生徒が、同じ形式の問題を何年も解くことによって課題の解決につながる、ということもあります。ただ、ここで思い出さなければいけないのは、過去問題演習は時間がかかるというリスク面です。このリスクを避けつつ、第2の目的を達成するために提案したいのが「タテの演習」です。

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普通、過去問題は1年分を試験時間内で本番と同じようにまとめて解きます。これを「ヨコの演習」とすれば、「タテの演習」とは、同じ形式の問題だけを、2020年の大問1→2019年の大問1→2018年の大問1…というように演習していくスタイルです。このように取り組むメリットは、1つには同じ形式の問題だけをまとめて練習するので第2の目的(特有の出題形式への対策)を達成しやすいということ、そして過去問題演習の最大のリスクである「時間がかかりすぎる」という問題を軽減できると言うことです。大問1つが長文であれば、長文問題1つを解くのと変わりませんから、普段の勉強時間の中でも確保しやすくなります。慶應義塾大学経済学部のように、大問の間に関連性があって1つの大問だけをとりあげて演習することが難しいものもありますが、大半の過去問題はこのような「タテの演習」を取り入れることによって、効率的にかつ効果的な学習が可能になります。(「タテの演習」は全部の大問についてやる必要はなく、苦手だったり課題の多いものを優先してやった方が効率的です)

もちろん、入試問題には時間という制約がありますし、トータルの時間配分をつかむためには「ヨコの演習」が有効でしょう。ただ、1つの大問が目安の時間内に終了しなければ、トータルでも時間内に終わるはずがありませんから、それぞれの大問を目安時間内に終わらせるようにする「タテの演習」は、時間内に解答するための訓練としても実は有効なのです。1、2度「ヨコの演習」で大問ごとの目安時間をつかんだら、それぞれの大問を目安時間内に演習する「タテの演習」で訓練し、概ねできてきたらもう1度「ヨコの演習」でトータルでできるかを確認する。こういう流れが一番効果的な演習になるのではないでしょうか。また、「ヨコの演習」は新しい年度を、「タテの演習」は古い年度を使うといいでしょう(なお、「東大の英語27か年」のような本は、本来「タテの演習」のための教材で、「ヨコの演習」には普通の赤本の方が向いています)。

ここまでの内容をまとめると以下のようになります。

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この記事をきっかけに過去問題演習を効果的に行うことになり、皆さんの志望校合格につながれば幸いです。


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