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「浪人しても成績は上がらない」説を考える ~factとopinion~

こんにちは。予備校講師・受験コンサルタントのシンノです。

今日は1つ、私の質問箱(https://peing.net/ja/motoki_shinno)に寄せられた質問について、お答えしたいと思います。

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似たような話はよく聞きますね。「浪人しても成績は上がらない」という説。割と多くの浪人生が耳にし、信じてしまっているように思います。

よく考えてほしいのですが、皆さんは普段友達と話すとき、データに基づいた話、というのは何%くらいありますか?大半の人は多分0%ではないでしょうか。例えば、「あそこのケーキ屋さんは美味しいよ」というのは経験に基づく正しい話ですが、データに基づいているかと言うと違いますよね。データに基づいて「あそこのケーキ屋さんは美味しいよ」と言うためには、例えば「Googleで★4.5だ」とか「東京都内の100店舗をランク付けして1位だ」とかいった情報が必要でしょう(でも、そんな言い方をいつもしていたら、友達が減りそうですね…)。つまり、「あそこのケーキ屋さんはおいしいよ」という発言は、実際のところは主観にすぎないわけです。共通テスト風に言えば、factではなくopinionなんですよ。

このように、実は人の発言の大半はデータに基づいたものではありません。2割、1割という数字を聞かされるとデータのように聞こえるかもしれませんが、それはその人の周囲で経験したこと、あるいは人から聞いた話にすぎず、浪人生全体の正確なデータに基づいて話しているわけではないのです。何しろ私ですら、浪人生全体の何%が成績が上がり、第一志望校に受かったか知りませんからね。私は浪人して河合塾で1年過ごし東大に受かりました。要するに、質問者さんの言う「1割」に該当するわけですが、自分のクラスではそれよりはるかに高い率の生徒が東大に受かっていましたよ。今の自分が担当する浪人生のクラスでも、成績が上がる人の方が多いし、第一志望校の合格者だってクラスによっては50%を超えます。でも、これだってデータに基づいたわけではなく自分の経験談にすぎません(余談ですが、「第一志望合格率」というのは正確に算出することはできません。「第一志望」というのは時期によって変わるので、4月の時点と11月の時点と2月の時点、いったいどこを基準に算出するからで、実に恣意的にデータを作りだすことができます)。

ところが、人は自分のopinionを信じてほしいので、データに基づかないopinionをあたかもfactのように話してしまう生き物なのです。どうしてその人がこんな発言をするのか、その理由を考えたことはありますか?

「浪人しても成績が上がらない説」を唱えるのは、
① 学校の先生
② 映像講師あるいは現役生だけ対象の塾
③ 大学生
④ 多浪生
のいずれかが多いようです。さて、なぜそれぞれの人がこういう発言をするのか、考えられる理由について検討してみましょう。

① 学校の先生の場合。以前もtwitterで呟いたように、「アンチ浪人」という学校の先生は増えている印象があります。現役合格進学率にこだわる保護者が増えていることも背景にはあるでしょうし、進路を早く決めてほしいという思いも理由になるでしょう。私の出身校は異様に浪人率が高い学校でしたが(自分の学年は約7割)、それでも多浪で進路が決まらない生徒が1人でも残っていると元担任はずっとその子のことを考えている、という話を聞きました。兎も角、理由は何であれ、浪人してほしいと思っている学校の先生なんてほとんどいないわけです。浪人してほしくないと思っている人が「浪人したら第一志望校に受かるかも」なんて言うわけなく、「浪人しても成績は上がらない」と言いがちなのは当然かもしれません。もちろん、学校の先生の発言はfactの可能性もあります。自分の学校の卒業生の誰が浪人し、浪人後にどこの大学に進学したかを知っていますからね。ですから、少なくとも自分の学校についてはデータがあるわけですから、その範囲内ではfactかもしれません。でも、「昨年は○人浪人して△人が第一志望に合格した」というふうに言ってくれればfactですが、「浪人しても第一志望に受かる人は少ない」というだけではopinionですし、実際にはそういうopinionとして話す人が多いのではないでしょうか(余談ですが、東大合格者数の多い高校の方が「浪人したら成績は上がる」と励ます先生が多く、まったくそうでない高校の方が「成績は上がらない」と言う先生が多いようです)。

②映像講師や現役生だけ対象の塾の先生方も学校の先生と同じく、あなたに浪人してほしくない人たちです。そもそも予備校は商売敵ですから、「浪人して河合塾や駿台に通えば第一志望に受かるかも」なんて(余程正直な人を除けば)言うわけがありません

では、③大学生の場合はどうでしょうか。まず、大学生が持っているデータは、学校の先生の場合よりもはるかに少ないことを念頭に置くべきです。ですから、そもそも信憑性は学校の先生の発言よりもはるかに劣り、factと言える情報であることはまずないでしょう。例えば、浪人して見事第一志望に受かった人がこのように発言するのなら、自分がどれだけ凄いかマウントを取りたいからかもしれませんし、第一志望に受かるのは大変だから本気で頑張れという励ましをしたかったからかもしれません。逆に、自分が浪人したのに第一志望に受からなかった人は、自分の経験からそのように語りがちです。「他の浪人生は第一志望に受かったけど私はダメだった」と思うより、「浪人生しても成績は上がらないものだから自分もダメだった」と思いたいですからね。これは④多浪生の場合もまったく同じです。もともと難しいチャレンジだから失敗しても仕方がない、と考えたがるものです。

以上、ざっと(雑に)考察してみましたが、要するに「浪人しても成績は上がらない」説に、明確なデータが伴うものはほなく、上がる人もいればそうでない人もいる、としか言いようがないわけです。

なんでこんな話をしているかと言うと、皆さんはopinionに過ぎないものをあたかもfactとして受け取ることが多すぎる、ということを言いたいのです。いや、opinionと分かって聞いている、と言うかもしれませんが、その割には、根拠が弱いopinionを真に受けすぎです。

SNSなどで誰でもが自分の意見を世界中に公表できるようになり、今の世の中にはopinionがあふれています。だからこそ、上手にopinionと向き合わなければいけません。ある人がopinionをいうとき、その人の経験や利益によってバイアスがかかるものです。私のこのnoteだって、浪人生を教える予備校講師だから、こんな発言をしているのかもしれませんからね。でも、その事実は逆に、浪人して河合塾に通う人に不利なことは言わないだろう、という私の発言を信じる根拠としても働くわけです。factとopinionを正しく区別し、発言に根拠はあるのか、発言の裏にどんな意図があるのか、それをもっと考えて、上手に向き合っていければいけません。

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