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白濁して酸味が増した日本酒、火落ちした日本酒を試してみた話

以前、オフフレーバーの話をしました。

オフフレーバーとは、何らかの原因で食品や飲料の本来持つ「匂い」が、変化し、逸脱してしまうこと。
その時、日本酒も熟成するとオフフレーバーとなるけど、その人が美味しければいいのではないか、日本酒の古酒・熟成酒が広がると、それはもうオフフレーバーではない、という認識に変わっていくのではないか、という結論にいたりました。

今回は、白濁した酸味が増した日本酒をいただく機会があり、再び、オフフレーバーに関連する話題になりましたので、その時のことをご紹介します。

白濁した酸味が増した日本酒

一般的に、白濁している日本酒は、火落ちしていて、酸味が増していて、ダメなものとされています。
火落ちとは、清酒に火落菌という(アルコール耐性が強い)特殊な乳酸菌が繁殖すること。

こうなると、日本酒造りにおいては、一般的に失敗とされています。
ただ、別に体に悪いものではなく、いただいても健康上の問題ありません。

さて、ある方の自宅で、未開封で10年ほど常温で保存されていた、アルコール度数19度以上20度未満の本醸造。
本醸造とは、つまり、精米歩合70%以下で、アルコールが添加されている日本酒です。
外観からしても、明らかに白濁していて、ぼやっと黄土色の日本酒らしからぬ古酒・熟成酒でした。
通常は、常温で長期間保存しても、こんなふうにはなりません。
(これは異常、さすがにダメかも……)
と思いました。

火落ちした日本酒

ただ、香りは、外観から想像するのとは少し違いました。
甘さがふわっと広がる感じです。
ドライプルーンのようで、酸っぱさはありますが、全面には出ておらず、嫌な感じはありません。
(あれ? そんなにダメじゃないのかも)

ところが、いただいてみると、香りから想像するよりはるかに酸っぱく、酸味がしばらく口の中に残ります。
(いや、普通の日本酒とは違うし、やっぱり酸っぱすぎる⁉︎)
しかし、もう一度口に含むと、今度はただ酸っぱいだけではなく、その後ろに、確かな旨味と甘味を感じました。
(あ! これ、もしかしていいかも‼︎)

その場にいた人たちの中には、まず、「このくらい酸っぱいワインはある、例えば、シャブリとか」という人が何人もいました。
なので、このままでも、美味しいと感じる人はいるのではないか、と。

また、この日本酒がもし酸っぱすぎるなら、もっと熟成させたら、まろやかになるのではないか、という意見も出ました。

さらに、甘味と旨味がしっかりあるものと、3対7くらいでブレンドしたらいい、という意見も出ました。
そこで早速やってみたところ、なるほど! やさしい酸味が効いた、バランスよいふつうに美味しい日本酒になったのです。

左が火落ちした古酒熟成酒、右がブレンドしてみた古酒熟成酒

将来的には…

もしかしたら、「熟成ワインの酸味と熟成日本酒の酸味を比べる会」なんかが、普通に開催されるようになるかもしれません。

少々個性的すぎるかもしれない香味の日本酒を、熟成で変化させ、より多くの人が美味しく感じるようにするという試みだって、頻繁に行われるようになるかも。

さらに、酸味が全面に出ている日本酒の古酒・熟成酒をわざと造って、甘味や旨味成分が多い古酒・熟成酒に加えたブレンドを生産する、なんてことが普通になる時代が来るのかもしれないと思うと、どんどん広がります。

最後に

「そういう時代は、もうすぐそこに来てますよ。100人中一人でも美味しいと思う人がいればそれでいい!」
長期熟成酒研究会の伊藤淳氏の言葉です。

もしかしたら、今回試した日本酒は、悪い火落ちではなかったのかもしれません。
全ての火落ちが同じではなく、火落ちにもバラエティがあり、受け入れ難い火落ちもあるかもしれません。

それにしても、「白濁して、酸っぱい日本酒は、火落ちしているからダメ」と言われているので、そういう日本酒を見ると、一瞬で「ダメ!」と判断してしまいがちです。
でも、この先入観を取っ払って、純粋に香味を楽しんでみようとすると、意外な発見があるはず。

「日本酒にオフフレーバーは(ほとんど)ない!」と言える日が、きっと来ると私は思っています。

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